1. ホーム
  2. 地域づくりナビ
  3. 精神障害のある人たちが、地域の一員として暮らしていくには

地域づくりナビ

精神障害のある人たちが、地域の一員として暮らしていくには

精神障害のある人たちが、地域の一員として暮らしていくには

2017年11月17日更新

障害がある人とその家族を支えて受け入れる町づくりは、
みんなの安心につながります。

うつ、統合失調症、依存症、認知症などの精神疾患を抱える人たちの数は年々増えており、現在、約400万人に上ると言われます。
何かをきっかけに、誰もが直面する可能性のある精神障害。しかし障害のある人たちは、長い間、家族や施設の中に囲い込まれ、地域社会の一員として生活することが難しい状況にありました。差別や偏見のために、症状が改善しても地域に戻ることができず、長期の「社会的入院」を強いられた人も少なくありません。
2014年に障害者権利条約が採択され、社会のあり方は、今、大きく見直されてきています。障害があっても暮らし続けていくことのできる街を、どのように作っていけばいいのでしょうか。特に精神障害者の地域生活を支えるため、先進的な取り組みを進めてきた地域の事例を見てみましょう。

さまざまな支えで自立生活を応援

長年にわたって病院や施設の中だけで暮らしてきた人たちが、地域での生活に移行するには、本人たちの不安と周囲の不安、双方をやわらげる支援が不可欠です。北海道十勝地方では、医療関係者の努力と自治体のバックアップで、支援の仕組みを作ってきました。

精神障害者の退院を地域ぐるみで支援

北海道十勝地方では、精神病患者が長期入院を強いられずに地域の中で自立生活ができるよう、地域ぐるみで退院を支援してきました。患者の気持ちを理解できる当事者が支援を行うピアサポートや、患者が暮らせる住居の確保、24時間相談ができるホットライン、訪問診療など、精神病院のスタッフや福祉の専門家による取り組みに行政が助成金を出すことで、取り組みが加速。10年で病床を4割減らすことができました。

クローズアップ現代
精神科病床が住居に?長期入院は減らせるか
(2014年7月24日放送)

島根県出雲市では、社会福祉法人が中心となって、さまざまな職種の人たちと支援ネットワークを作ってきました。長年の活動を通して、精神障害について理解し、協力してくれる人たちの輪は、企業や不動産業者にも広がっています。

精神障害者の社会復帰を支える地域ネットワーク

島根県出雲市では、長期入院していた精神障害者たちの社会復帰を、地域全体で支えてきました。支援ネットワーク作りを中心となって進めてきたのは、社会福祉法人ふあっと。住民たちの不安や苦情に対して丁寧、迅速に説明し対応することで、地域に協力者を少しずつ増やしてきました。病院、行政、福祉施設だけでなく、不動産業者や企業、ボランティアも参加する支援ネットワークが、患者たちの自立生活を支えています。

クローズアップ現代
“退院”と言われたけれど~精神障害者 社会復帰の壁~
(2008年2月27日放送)

孤立を防ぎ、偏見をとりはらう

精神障害者の自立生活にとって大きなハードルとなるのが、地域の人々の不安や偏見です。かつて、凄惨な殺傷事件が起きた大阪府池田市。精神障害者への偏見が広まっているときにこそ、地域の中の障害者を孤立させてはならないと、地域自立生活支援センターを発足させました。仲間たちと交流し、地域生活を支えてくれる場所が地域の中にあることで、地域の人たちと関わり、理解を深める活動を行っていくことができます。

精神障害者が地域で生活し続けていくために

大阪府池田市の精神障害者地域生活支援センター「咲笑(さくら)」では、精神障害者が「社会的入院」を強いられずに地域で暮らしていけるよう、当事者の交流の場と支援を提供しています。2001年に発生した池田小学校事件で、精神障害者への偏見が高まっていることを懸念した市は、「咲笑」を拠点に支援を強化してきました。市の広報番組に出演したり、勉強会で体験を話すなど、精神障害者への理解を深める活動も行っています。

福祉ネットワーク
こころの相談室 シリーズ・精神障害(1)地域で暮らしていくために
(2005年7月5日放送)

認知症になっても暮らし続けられる街

それでもまだ、精神障害は自分に関わりのある問題と思えない方も多いかもしれません。しかし認知症は、社会の高齢化にともなって、急速に増えている精神障害のひとつです。静岡県富士宮市は、認知症になっても、住み慣れた地域の中で、自分の能力を生かし、周囲の人々と関わって暮らし続けていけるような街づくりを、市民が中心となって進めてきました。その取り組みは、さらに、高齢者など支援の必要なさまざまな人たちを支えるために生かされています。

地域ぐるみで認知症患者を見守り支える

静岡県富士宮市では、市民が中心となって、地域に暮らす認知症の人を支えようという取り組みが進んでいます。認知症の患者が近所の人とトラブルを起こす事件があったことから、市民が行政と協力して勉強会を開くなど、認知症への理解を深めようとしてきました。ひとり暮らしの患者さんを近所の住民たちが連れ出して交流会を開いたり、隣人が薬の管理や買い物を手伝うなど、地域ぐるみで声かけ、見守りをしています。

ハートネットTV
シリーズ認知症 “わたし”から始まる 第5回「“わたし”から始まる町づくり」
(2013年7月25日放送)

介護保険制度改正で地域包括ケアの中心と位置付けられた地域包括支援センター。富士宮市では、高齢者介護に限定せず、家族が抱えるさまざまな問題に総合的に対応できるよう、組織改編を行いました。相談件数は3倍に増え、縦割り行政の弊害がなくなったことから、職員のモチベーションやスキルも高まっています。さらに市民の力を借りて、地域包括支援センターの枠を超えて認知症患者を支援する取り組みも広がっています。

福祉ネットワーク
シリーズ 地域からの提言「検証・介護保険改正~静岡県富士宮市~」
(2011年2月17日放送)

おわりに

「精神障害者」は、これまで、「ふつうの人と違う」という恐れを呼び起こすような言葉でした。しかし、ストレスや病気や加齢のために、これまでと同じような生活を送ることができなくなってしまう可能性は、誰にでもあります。
障害があっても、住み慣れた地域の一員として、周囲の人たちと関わりながら暮らし続けていけることは、障害をもつ人たちとその家族にとって、生活の質を支える重要な要素です。
いま障害をもたない人たちにとっても、障害をもつ人たちを排除せず、ともに暮らす一員として支えていく地域づくりは、いつか自分が同じような立場になったとき、この地域で暮らし続けていける、という安心につながるはずです。