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インタビュー・地域づくりへの提言

日本をリードする知の巨人たち。社会が大きく転換しつつあるいま、時代を拓くカギは地域にあると指摘します。持続可能な未来へのビジョンを語っていただきます。

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2016年04月01日 (金)

自分たちの地域を考えていく大きなヒントに。【民俗研究家・結城登美雄さん】

地域に生き暮らす人々の声に耳を傾け、地域を知り学ぶことで地域の活性化につなげていく。そうした動きを「地元学」と呼び、提案している民俗研究家の結城登美雄さん。多くの農村を訪ね歩き、自らも宮城県で農業に携わり、地域を担う一員として暮らしています。結城さんが言う「地域づくり」とは、第三者ではなく、その土地に生きる人たち自身が作り上げていくこと。そのヒントが「地域づくりアーカイブス」には散りばめられていると結城さんは言います。
いま地域に注目が集まっている背景や、アーカイブスが地域づくりに貢献し得る可能性などについて話を聞きました。

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民俗研究家の結城登美雄さん

――いまなぜ「地域づくり」なのでしょうか。
日本は戦後、経済が発展すれば豊さが実現できると信じて突き進んできました。
都市に行って「いい大学」に進み、「いい会社」に入れば「いい人生」が送れる。田舎はだめ、一次産業はだめ。農山漁村は閉鎖的で非効率的で、もっと近代化しなければならない。
そういった時流というか、ものの考え方が、日本経済の行き詰まりや少子高齢化などによって「本当にそうかな?」と疑問に思われ始めたのがこの20年です。

就職氷河期や非正規雇用などさまざまな問題が生じてきた中で、若者をはじめとした人たちが「経済発展だけでこの国の未来を考えていいのだろうか」という疑問を持つようになってきました。企業社会に行き詰まりを感じ、それを打ち破るには地域社会が大切なのだと気づき始めている若い人たちがたくさん出てきています。地方を良くするのは、その地域に生き暮らしている人間たちの力です。

 

――アーカイブスに対してどのような期待をお持ちでしょうか。
地域に住んでいると色々な課題が見え、問題意識が出てきます。
「農業を良くするにはどうしたらいいのか」「福祉を充実するにはどうしたらいいのか」「商店街の衰退をなんとかしたい」「地域の高齢化でこんな問題がある」
そういった地域の課題を感じ、「自分も地域を良くする一員でありたい」と思う人たちに対して、これまでNHKが放送してきた地域を巡るさまざまな番組が大きな力とヒントを与えてくれると期待しています。

地域の課題を解決し、地域の願いを実現していく。そうした各地の動きに光を当て、丁寧に取材した番組がNHKにはたくさんあります。地域づくりに関する評論家や学者の論文ではなく、目の前の現実をしっかりと踏まえた人々の営み、その映像から見えてくるものがあるはずです。番組の中には、答えではなく、答えに近いヒントがあると思っています。
そして、このアーカイブスは一人で見るよりも、みんなで一緒に見てほしいと思っています。

同じ地域課題を抱える人たちが、その課題を解決するために、一緒に見て、話し合い、議論する。共通認識を持ち、足並みをそろえ、行動につなげていく。壁に打ち当たったら、アーカイブスを見る。
自分たちが主体となって考えていく流れをつくるために、アーカイブスはとてもいい役割を果たします。


――具体的には、例えばどのように活用し得るでしょうか。
スポーツバーがあるように「地域づくりバー」があってもいいと思うのです。そこへ行くと、いろいろなヒントが見えて、色々な議論ができる。そんな場があれば、地域の一人一人の生き方もきっと変わってくるでしょう。
また、地域づくり講座を設けるなど、自治体の生涯学習にアーカイブスを積極的に利用することを提案します。毎週、数本の番組を見ることで、3カ月たったころには住民の顔つきに変化が生まれるはずです。

同時に、先例を知るためにも自治体職員の研修にも最大限に使ってもらいたいと思います。
アーカイブスに登場する島根県海士町の職員は、財政難に陥ったとき地域のために給料をカットされてもいいと覚悟を決めました。それは単に決断力でなく、職員たちが自分たちの地域に可能性を持ったから出来たことです。地域が良くなれば、給料は必ず戻ると信じたのですね。


――地方活性化を目指す手段として「地方創生」という言葉がつくられました。
真の地方活性化とは、「誰かに任せるのではなく、自分たちが生き暮らす地域を自分たちの力で再びつくり直していくこと」と捉えるのがいいでしょう。
経済の物差しでは評価されてこなかった地方ですが、そこには人間が生きていくための大きな可能性があります。その可能性を開いていくことが、地域づくりです。地域課題と向き合って努力していくと、実はかっこいいお年寄りがいたり、素晴しいアイデアマンがいたり、固有の資源があったりと、地域の意外な魅力に気がついたりします。

地域への愛情とは、地域課題と向き合って努力していく中で生まれていくものです。アーカイブスはその火種になると思っています。

インタビュー・地域づくりへの提言

結城登美雄さん

1945年生まれ。民俗研究家。東北各地を10年以上歩き、地元をもっと知り、資源を活用する智恵や術を地元の人々から学ぼうという「地元学」を提唱。自らも農業を営み、村人と言葉を交わしながら住民主体の地域づくりに取組む。「食の文化祭」などの地域づくり活動で、1998年「NHK東北ふるさと賞」、2005年「芸術選奨芸術振興部門文部科学大臣賞」受賞。雑誌や新聞で農と地域づくりについて多数執筆中。現在、宮城教育大学・東北大学大学院非常勤講師。

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