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地域づくり情報局

土佐の森から~未来へのたより

高知県いの町のNPO法人「土佐の森・救援隊」中嶋健造さんたちによる「自伐型林業」での山林・中山間地再生への挑戦。

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2017年02月10日 (金)

広がる!自伐型林業、みんなで広げる自伐型林業! ~地域に大産業を創出する可能性を持つ自伐型林業、その実現には多種多様な人材の参画が必要~

昨年の夏ごろ、高知在住で全国的にも有名なデザイナーの方から、自伐型林業のことをちょっと詳しく聞きたいと連絡があった。彼も以前から、高知県が森林率日本一であることに着目して、その森林を何とか活用したいというNPOを立ち上げていた方であるが林業の専門家ではない。話を伺ってみると、「自伐型林業というのは、地域住民や一般人から遠ざかっていたものを近づける雰囲気があり、実に面白い。林政の盲点を突いているようでもあり、林業の本質であるようにも思う。が、如何にも名前がよくない。自伐は『自罰』や『自爆』をイメージさせる。これでは一般の人がとっつきにくいし、中嶋さんの話もまじめ過ぎ、硬すぎ。これでは広がるものも広がらない」というような感じであった。つまり広報の仕方に大いに問題あり、という指摘であった。

これは正直ありがたかった。広報の仕方については素人丸出しであることは自分でも感じていたが、いかんせん本当に素人であるので仕方ないとあきらめていた。ここをサポートしてもよいということである。ここから話が進み、これまで林業とは距離があった人たちを対象として、昨年12月に東京で彼とフォーラムまで開催させてもらった。今後の連携も楽しみである。

20170210_001.jpg「イライラ対談フォーラム『イラっとする日本の森林モンダイ』2016.12.16東京」

また同じように、環境分野の有名な有識者の方が私の講演を聞いてくれ、「自伐型林業の可能性についてはよくわかった。また面白いのは経済活動でありながら、しっかり環境保全を担保している点である。一般に受け入れられるには環境保全型でないとだめだ。そしてそれを証明して前面に出すことだ。それを実施するなら手伝うよ」と言ってくれた。現在「環境評価プロジェクト」を立ち上げ、紹介を受けた全国の環境分野の専門家の先生たちと、実施に向けて体制整備等準備中である。

他にも、企業からの支援の申し出も急速に増えている。直接林業に関係する製紙会社やチェーンソー部品メーカー、家具メーカー、建築事務所等が、その専門的立場から支援や協働を申し出てくれているのである。また直接林業とは関係はなかった製造業メーカーやITベンチャー、農機具メーカーらが、それぞれの展開地や出身地において自伐型林業推進(研修による担い手確保や山林の確保等)を担ってくれている事例も増えてきた。企業による社会貢献活動が幅広い手法で活発化し、その社会貢献の対象として自伐型林業を選び始めてくれているということだ。また、側面からだけでなく本業に取り込んで実施しようという企業も増えてきた。最初はちょっと驚いたが、こういう動きは大歓迎であり、大事にしていきたいと思っている。
こういう動きからも、自伐型林業に対する世間の潮目が変わってきたのではないかと感じている。これまで林業とはちょっと距離のあった専門家や有識者、下流である木材流通業界や建築家、機械メーカー、農業分野、観光や移住関連産業や福祉分野等の人や団体、企業が関わってくれ始めているのも、自伐型林業のポテンシャルや可能性(中山間地域再生・地方創生等)に気付き始めたからではないかと推察する。ちょっと見方を変えると、自伐型林業推進を展開する我々の弱いところをカバーしてくれているようにも映る。映るのではなく、まさしくそうなのだろう。

これまでの展開は、林業に直接関わる実践家と、それを直接支援する団体(自治体やNPO等)で集まって展開しており、ある意味業界人ばかりでかなり狭かったと言える。自伐型林業の普及により森林率7割を活用して、大きな産業へ広げるためには、林業界だけの狭いネットワークから、今後関連が見込まれる他分野や他産業等と、大きくウイングを広げたネットワークへステップアップする必要があり、今後の大きな課題であった。その課題対応へ向けた動きになりつつあるということではないだろうか。こう考えると本当にありがたいことである。

20170210_002.jpg 企業と研修告知(2016.12.4東京)

次に、これまで力を注いできた自伐型林業の担い手創出と地方自治体への政策化の取り組みは、予想を超える広がりが出てきた。林業から長年遠ざかっていた人たちを再度担い手として掘り起こすため、全国各地で自伐型林業研修を展開している。政策化した自治体や地域団体等を主体に全国で研修を繰り返し、研修参加者は千人を超え、実践を開始した人たちは500人を超えてきた感じである。全国どこでも待っていてくれたかの如く、地から湧き出でるがごとく増えている。現在、政策展開している地方自治体は25自治体にまで増え、検討中の自治体も多い。最も展開が進んでいる高知県では、県主導で高知県小規模林業推進協議会(県全体をカバーする自伐型林業等の推進組織)が設立され、県の支援政策も充実し始め、会員は350人を超え、150人程度が自伐型林業を始め、自立した持続的森林経営に至っている人が数十人となっている。
また高知県に続き、地域主体の自伐型林業推進のための地域協議会の立上げ状況も急進展している。2016年11月には宮崎県延岡市にて延岡自伐型林業研究会が設立され、12月には北海道自伐型林業推進協議会が設立された。地域の自伐型林業者の育成・拡大・支援活動が開始されている。山梨県と東北震災被災地3県をカバーする協議会も、それぞれ準備会が出来ており、まもなく立ち上がってくる予定である。地域の人たちが自伐型林業を自分達のことと捉え、自ら展開を開始してくれ始めている。大きな動きだと感じている。

20170210_003.jpg 延岡自伐型林業研究会設立時の懇親会の模様(2016.11.19宮崎県延岡市)

また2016年は、自治体や地域団体主催のフォーラム・シンポジウムや、研修会・勉強会での講演回数は50回を超え、過去最多となった。これも興味を持つ地域が増えている証左である。そんな中、日本財団主催のソーシャルイノベーター(全国10人)に選出され、それに伴うNHKの取材・放映(「NEXT未来のために『本気で社会を変えたい “草の根”改革者の挑戦』」:NHK総合:2016年10月29日(土)午後5時30分~ 午後6時00分)もなされた。大手マスコミによる初めての真正面から自伐型林業を捉えた取材であった。このテレビの影響もあるのだろう、2016年の講演回数の約半分は10~12月の3ヶ月に集中した。

20170210_004.JPG

ともあれ、地域住民も地方自治体も企業もマスコミも、やっと真正面から自伐型林業を捉えてくれるようになったということだ。しかし、全国普及や目標に掲げる、林業・木材関連就業者100万人に向けては緒に就いたところと言える。これからがスタートであり、勝負である。先にも触れたように課題も多い、自伐展開始めた人たちが山を確保できるのか、本当に自立した安定収入まで到達できるのか、それを実現させるためにどういう支援が必要なのか、その体制を創出できるのか、等々。
また影響力が増せば増すほど、既得権益層等とのあつれきも増えるであろうし、現状でもある。しかし、森林率7割を背景として、林業再生だけでなく、環境保全、土砂流出防止、中山間地農業や観光の再生、獣害対策等、中山間地域再生の根本療法となる自伐型林業である。引いては日本の人口減対策のカギとなる可能性もある。ぜひ多方面から対応できる分野に参画や応援をいただけるとありがたい。以下に、今後重点的に取り組む分野を列挙すると

① 担い手育成・拡大:自伐型林業実践者育成のための研修・塾・大学校の展開、等
② 自治体の政策化促進・コンサルティング:担い手拡大の面的展開と中山間地域再生・地方創生展開
③ 山林バンク(提供)システム構築:担い手が山林を確保するシステムの構築
自伐型林業者が、持続的森林経営が可能となる山林面積を確保しやすくするシステムで、山林所有者との長期(山守的)契約や、山林売買等を促進・支援する仕組みの構築が必要。農業は戦後、農地改革にて農業者が農地を獲得し、その後の農業発展の基礎となった。林業においても、そういう展開が必要である。
④ 広葉樹施業の確立:日本の森林の半分以上は広葉樹、自伐による広葉樹活用を仕事に
⑤ 大規模山林分散型の成功事例づくり:大規模所有者での自伐型の永続的森林経営の確立
⑥ 集落営林型の成功事例づくり:小規模山林をまとめて集落単位で展開する事例づくり
⑦ 無垢材流通拡大:付加価値の高い需要や流通を拡大させ、木材価格の安定化を創出
⑧ 環境保全型林業の検証・証明:多くの生態系に影響が及ぶ林業には環境保全型であることが最重要
⑨ 企業連携や他分野連携:産業となるには、加工や利用の下流流通、農業・観光・福祉やエネルギー、金融・環境等、他分野との連携が必要
出荷される原木の質や量に合わせた適切な木材流通構築は当たり前だが重要であり、農業や観光との兼業というスタイル創出は中山間地域にとって新たな開発領域となり、地方創生には極めて重要な事項となる。
福祉分野では、同じ山で継続的に、また小型機械での作業が多い自伐型林業が、高齢者や障碍者の所得向上につながる仕事ではないかという期待が膨らんでいる。
既に、薪やほだき生産やエネルギー利用等で、複数の障碍者施設で取り組みが始まっている。
土佐の森・救援隊の活動の中でも、そういう事例があり、かなりの収入につながっている。
また、産業として大きくなってくると当然金融も関わってくる。このように他分野との連携は必要不可欠となる。

⑩ 上記の展開を実施する自伐型林業推進協会への支援や寄付


今後は、自伐型林業で森林率7割を武器にして、中山間地域に大産業を創出するために上記の展開を開始しています。地域の方、都市の方、個人、企業、どういう立場の方でも、同じ方向性を共有できる意志のある方々に多く参画していただきたいと思います。支援や参画を考えていただける方は、ご連絡ください。お待ちしております。
中嶋 健造:メール(ken_naka@kcb-net.ne.jp)


自伐型林業の面白さに気付き、そして支援や参画できる人や団体が拡大していくことを希望しながら、ブログを終えさえていただきます。ご愛読、ありがとうございました。

土佐の森から~未来へのたより

中嶋健造さん(NPO法人 土佐の森・救援隊 理事長)

IT、自然環境コンサルタント会社等を経て、2003年、NPO法人「土佐の森・救援隊」設立に参画。現在、理事長。地域に根ざした環境共生型の林業は、山の所有者が自分で伐採する”自伐”であると確信し、「林業+バイオマス利用+地域通貨」を組み合わせた「土佐の森方式」を確立。森林・林業の再生、中山間地域の再生、地域への人口還流、地方創生、森林環境の保全・再生等のために、自伐型林業の全国普及にまい進している。

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