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地域づくり情報局

土佐の森から~未来へのたより

高知県いの町のNPO法人「土佐の森・救援隊」中嶋健造さんたちによる「自伐型林業」での山林・中山間地再生への挑戦。

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2016年07月15日 (金)

木質バイオマスによる林地残材収集システムが自伐林業者を表舞台に

自伐型林業の理解がなかなか進まない中、転換点となった取り組みが高知県仁淀川町にて、平成17年から実施された木質バイオマス事業参画であった。当時の木質バイオマスは日本国内では推進初期段階で成功事例もほとんどなく、「木質バイオマス」という言葉自体も「何か新しい単語」というような状況だった。

この事業は国(経産省)が主体となり、本格的に「木質バイオマス」に取り組む初期段階で、林業・木材利用・新エネルギー分野の関係者たちの間では話題になった事業だった。この事業に大手プラントメーカーが仁淀川町と組んで応募したのだが、採用に向けてのアクセントを付加するために、当時高知で唯一の森林関係のNPO法人であった土佐の森・救援隊に話が来た感があった。しかし、我々にとっては悪い話ではなかったため引き受けた次第である。ただし、当初案は現実展開する際には、面白みを欠くと感じたため、もし採択されたらアレンジすることを合意して協力することにした。

この事業の概要は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「バイオマスエネルギー地域システム化実験事業」で、仁淀川町の事業名は「高知県仁淀川流域エネルギー自給システムの構築」である。全国で7事業(地域)が採択され平成17年~21年まで実施された。事業内容はそれぞれ、①収集運搬システム、②エネルギー転換システム、③エネルギー最終利用システムの3つのサブシステムに分かれ、地域内循環型エネルギーシステムとして構築し、モデル事例化する事業である。

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バイオマスプラント


その数か月後に見事に採択され、始めることになったが、そのキックオフの会合(フォーラム)が神奈川県の川崎市にて行われたが、会場が参加者で満員立見席状態となり、当時は大いに話題となっている事業であることが伺えた。

仁淀川町の事業は、木くずを燃やして電力を生み出す木質バイオマス発電と、燃料となる木質ペレット製造をセットにした工場を稼働させるものである。
具体的には、地域内(仁淀川流域)から林地残材(建築用材等に利用できない原木や枝葉などの部材で、これまで山に捨てられていたもの)を収集してチップ化する。そのチップをガス化という手法で発電する施設、またチップを乾燥+再破砕+固形化するペレット製造施設を稼働させる。電気は製材所で使い、ペレットは温水プールや福祉施設、温泉施設で使うというエネルギーシステムを構築した。我々は林地残材を収集するシステムの一部を構築する役目であった。

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林地残材チップ化


全国で注目される中、仁淀川町事業も始まったのだが、林地残材収集システムの応募時の設計では、皆伐(山の木を全部伐る)施業を請負っている素材生産業者(伐採・搬出の専門業者)が主体で必要量の6割(大規模林産)、間伐施業を請負っている地元業者が補完で3割(中規模林産)、環境保全的に間伐整備している森林ボランティア団体(約3団体)が1割(小規模林産)、ということで平成17年から始まった。土佐の森は当然、1割の森林ボランティア代表としての位置付けである。1割というのはどういう意味かというと「付け足し」である。実際、採択祝いの席で当時の事業代表者より「採択時は活躍いただき、ありがとうございました。実施はこちら主体でやりますので、ゆっくりしていてもらえばよいですので」と、完全に事業内外野である。

森林ボランティアでは誰が見ても持続性は約束できないし、主体になれるわけがない。これは私もわかっていたし、アピールのためのパフォーマンス的なことをしても意味がないと思っていた。故に最初のプロジェクト会議で、「素材生産業者と森林組合、森林ボランティアはシステムに入っているが、入っていない林業主体がある。それは自伐林家である」と、「仁淀川町にも存在するはずで、小規模林産は『地域住民や森林ボランティアなどの自伐林業者』とすべきである」と主張させてもらった。プロジェクトの委員からは「自伐林家などは高齢な人が多く、いつ止めるかわからない、入れても無意味だ」等の反対意見が多く出されたが、メーカーが「収集量の1割の世界ですので、中嶋さんの思うようにやってもらいましょう」と助け船を出してくれて、自伐林家を位置付けることに成功したのである。

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林地残材の運搬


土佐の森・救援隊は森林ボランティア団体という位置付けだが、自伐型の本格的な森林整備できる団体であったのと、当時の現場中心者が、ちょうど定年を迎え自由な身になったため、活動日数が年間200日近くに増加し、素材生産量も専業自伐林家の4~5人分程度は生産するようになっていた。故に事業の1割以上の収集量は土佐の森だけでも余裕で確約できる状況だった。余裕でできることをやっても全く面白味がないし、意味もない、この事業を通じて自伐林家のアピールと掘り起こしができないかと考えた次第であった。

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乗用車で運搬する方まで現る


土佐の森のメンバーは高知県内の森林に興味のある普通の住民ばかりである。仁淀川町住民も土佐の森メンバーのような気持ちがあるのではないかと考え、住民アンケートを企画し、役場協力のもと全住民対象のアンケートを事業2年目の平成18年に実施することができた。このアンケート結果が、その後の土佐の森の活動内容を一変させたというか、私の考えていた方向性が間違っていないことを証明してくれた最初の成果だったように思う。

仁淀川町のアンケート結果は、山林所有者の6割の人が「収入になるなら林業を実施したい」、山林を持たない人も「林業やれる状況が生まれるならやりたい、ボランティアもおこなう」と答え、「そのために作業道敷設を何とかしてほしい、林業研修を行ってほしい」等という要望が数多く挙がったのである。回収率も全住民対象としたため10%前後を予想していたが、3割以上の住民から回収でき、地域住民の森林・林業への、かなりの関心の高さが現れた。これには回収と集計を手伝ってくれた役場職員も驚いていた。私はこの頃、土佐の森への参加者が急増していた事実に、地域住民の「森林を何とかせないかん」という気持ちは相当強いのではと感じていたが、正直それ以上の結果が出て「やはり!」と頷いた(ニヤリと)感じであった。

多くの現行林業の関係者が「山林所有者や地域住民は林業に関心を失い、実施能力がない」と感じているように思うが、現実はそうではなく、もし採算が取れれば林業への意欲は高いということがわかったのである。現状の林業政策は、山林所有者や地域住民の意向を正確に把握しないまま実施されているのではないか、ということに気付き始めた瞬間だった。

翌年の平成19年から始まった林地残材の収集であるが、このアンケート結果通りとなっていった。収集量の1割と位置付けられ「付け足し」だった自伐型林業者たちが、何と9割を占めたのである。それに加え、保管で3割と位置付けられた間伐施業する業者は、始まって数か月後に、採算が悪いということから離脱。また皆伐業者も配送距離が長い場合が多くなることから採算性を理由に3年で離脱となったのである。事業終了時には「自伐型林業者が主体で8割、森林組合と業者が補完で2割」という結果になり、安定供給を実現させたのは多数の(この事業をきっかけに新たに林業始めた人が多数、若者のUターン者も多数に上った)自伐型林業者であることを証明したのである。この仁淀川町の収集システムは、他県の事業も含め唯一の成功事例となったが、この成功を従えたのは「付け足し」で入った小規模林産:地域住民による自伐展開者だったのである。

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溜まりに溜まった林地残材


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青色が小規模林産(自伐林家)。収集運搬量は増え、次第に9割を超える実績に。



この成功は、プロジェクト内でも「素晴らしい」「おもしろい」「まさに地域ぐるみ、地域システム化だ」と成功を喜んでくれたが、現行林業の関係者の中には、この結果をなかなか認めようとしない人もいたのである。5年間の安定した収集量の結果や、新規就業者を多数生んだにもかかわらず、である。まあ彼らにとっては、青天の霹靂状態で、何が起こったのかも理解できない状況で批判材料を探すしかなったのだと考えられる。この時の論争が、その後の私の「脱藩」につながったのである。全国には、この結果を「おもしろい!」「何か変わり始めたぞ!」という感じ方をする有志たちが多く存在していたのである。

次回は、仁淀川町成功事例から本格的な自伐型林業展開にどう発展したか、その次からは自伐型林業と現行林業との違いなど、本論に入っていきたい。

土佐の森から~未来へのたより

中嶋健造さん(NPO法人 土佐の森・救援隊 理事長)

IT、自然環境コンサルタント会社等を経て、2003年、NPO法人「土佐の森・救援隊」設立に参画。現在、理事長。地域に根ざした環境共生型の林業は、山の所有者が自分で伐採する”自伐”であると確信し、「林業+バイオマス利用+地域通貨」を組み合わせた「土佐の森方式」を確立。森林・林業の再生、中山間地域の再生、地域への人口還流、地方創生、森林環境の保全・再生等のために、自伐型林業の全国普及にまい進している。

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