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地域づくり情報局

一人も取りこぼさない社会をめざして

大阪府豊中市のコミュニティソーシャルワーカー・勝部麗子さん。地域や家族から孤立する人々に寄り添い支える日々を綴ります。

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2022年12月12日 (月)

3年目のコロナ禍 住民の中に広がるつながりの輪(1)

宅配をきっかけに広がる支援

   コロナ禍で1回目の緊急事態宣言が出たあとに、収入が減り子育てにも影響が出てきてしまったというご相談が増えました。学校が一斉休校になって、給食もなくなり、子どもたちに食べさせるものがなくなってしまったという相談も相次ぎ、そのような方たちの生活支援として、お弁当を配るようなことができないだろうかと、2020年9月、社会福祉法人の方たちと一緒にお弁当を配り始めました。

 もともと、私たちは地域で子ども食堂をやっていたのですが、コロナ禍でそれができなくなって、子どもたちの様子もわからなくなっていました。お弁当を届けて子どもたちの様子を知るということが主な目的だったのですが、続けているうちに、地域の子どもたちの中には、いわゆるヤングケアラーであったり、不登校であったりして、学校に行くことができない、つまり子ども食堂にすら参加することができないお子さんがいるということがわかってきました。

   そういったご家庭にお弁当を届けると、たとえば普段は家事を全面的に担っているヤングケアラーの子どもたちも、その日だけは子どもらしい笑顔に変わります。子育て中のお父さんお母さんもとても喜んでもらえるアウトリーチ(訪問支援)として、この2年間活動を続けてきました。

   活動を通して、さまざまな事情があって、何年も外に出ていない、学校に行けていないお子さんたちが多くいることがわかってきました。もともと学校に行きにくい事情があった子どもたちが、コロナによってさらに社会とのつながりを遮断されてしまっていたのです。そのような子どもたちに対して、私たちもこれまでよりもさらに一歩踏み込んだ支援をしていこうということになりました。

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工夫と愛情に満ちたお弁当が、子どもたちの心を開くきっかけに

   現在では、毎週火曜日、そうした家庭にお弁当を届けるという取り組みをしています。最初は20世帯くらいから始まりましたが、今では100世帯近くに届けています。親御さんから、生活が苦しいので助けて欲しいという相談が入る場合もありますし、児童養護施設で一時保護されていたお子さんたちのその後を見守って欲しいと施設から依頼されることもあります。学校の先生やスクールソーシャルワーカーの方から、不登校で学校に来られない子の様子を知りたい、訪問支援してもらえないかと、相談されるケースも増えてきました。

   毎週お弁当を配っていると、初めは保護者が「届けてくれてありがとう」といってお弁当を受け取る感じなのですが、しだいに、お子さん本人が出てきてくれて、おしゃべりや会話が弾んで、少しずつ親も子も敷居が低くなってきます。そのようなやりとりの中で、今までは見えにくかったさまざまな問題が見えてくるようになりました。

地域に子どもたちの居場所をつくる

  貧困には、三つの形があると私は思います。一つは経済的貧困、二つめは人間関係の貧困、そして三つ目は文化的貧困です。いわゆる社会経験の乏しさです。特に不登校の子どもたちの場合、家庭での生活が経験値のすべてになってしまいがちです。親が食事を作らず、レンジでチンする食事ばかりだと、子どもも食事とはそういうものだと思ってしまうし、親が家を片付けることができないと、お子さんもそうなってしまう可能性がある。また、外で遊ぶという経験や、文化的な体験、たとえば映画を見るとか演劇を見るとか、遊園地に連れていってもらうとか、そのような遊びの体験が少ないご家庭だと、子どもたちがずっと家でYOUTUBEなどを見て暮らしている、そのような状況になっています。

 私たちが支援しているご家庭でも、たとえばお豆腐を持っていっても食べ方がわからない子がいたり、クリスマスにリボンのついたチキンを配ったら「テレビでは見たことがあるけど本物は初めてみた」という子がいたりなど、本当に、限られた生活、限られた体験しか得られていないのだなと思う例が多くありました。

 最近では、地域の新しい取り組みとして、ボランティアの方たちが月曜と金曜の週2回、学校の近くの会館で「おはよう食堂」を始めました。地域に呼びかけていくことで、遅刻しがちで朝ごはんを食べずに生活していた子どもたちも来られるようになり、不登校でひきこもりがちだった子どもも「一緒に食べにいこうよ」と誘われることで外に出られるようになるなど、良い流れが生まれているようです。

 みんなで食べることで食わず嫌いも自然と解消されて、おいしい、おいしい、とどんどんおかわりするようになる。子どもにとって、家族以外の人と出会って生活習慣に変化が生まれたり、いろんな料理を食べられるようになったりすることは、本当に世界を広げることにつながるのだなと実感します。

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コロナ禍でも「みんなで食べる」体験を子どもたちに

地域に生まれた子どもたちの学びの場

  学習支援の現場でもさまざまな変化がありました。コロナ禍以前から、私たちは子どもたちへの学習支援を行っていたのですが、子ども食堂と同じく、集団で学習支援を行うということがなかなか難しくなって、一時中断していた時期もありました。その後、だんだんに個別指導での学習支援をはじめ、今では少し広い場所で少人数で教えるということをやっています。

    そうした学習支援をする中で、ある不登校がちだった中学生のお子さんが参加してくれるようになり、帰るときには、次回の学習支援の日程を、黒板にとてもきれいな字で「次は○月○日の○時からです」と書いてくれるようになりました。そのうち、この日は「肉の日」です、とか、そういう情報も一緒に書いてくれるようになって、みんなで「すごいねえ」と褒めていたんです。そうしたら、その子があるスタッフに、「これまで学校では黒板に書くのは学級委員の仕事で、自分には機会がなかった」と話しました。そして「でも、ここでは自分に役割があるから、頑張りたいと思っている」と伝えてくれたそうです。自分に役割があるから、休まないで通うことができる。学校や家庭以外にも居場所や役割があることは本当に大切なことだなと感じました。

   実は、子どもたちの学習支援には、引きこもり経験のある若者たちも関わっています。彼らは子どもたちと世代も近く、共通してやっているゲームなどもあってコミュニケーションがしやすく、意気投合していくうちに子どもたちにも笑顔があふれてきます。双方にとって良い影響があると感じています。

   私たちがお弁当を届けているご家庭に、3年間、家の外に出られなかった小学6年生のお子さんがいました。これは主任児童委員が相談を受けて、私たちにつなげてくれたケースでした。私たちがお弁当を届けると、そのお子さんが出てきて「どうもありがとうございます」といつも丁寧に迎えてくれていたのですが、ある日その子が「勝部さん、以前学習支援があるといっていたけれど、それはまだやってるんですか?」と聞くのです。「もちろん、今もやっているよ」と伝えたら「勉強したいねん」と。とても嬉しくて、「勉強したいんだったら何でも協力するよ」、と伝えたら、今はもう12月だけど3月までに6年生まででやるべき勉強を全部終わらせたいと言うので、それから一緒に勉強できる場所を設けて、週一回の個別勉強会が始まりました。支援してくれたのはやはり、自分も引きこもり経験があり、自分自身の進路にも悩んでいる若者でした。二人はとても仲良くなって、毎週勉強会も楽しく行われ、3月までに終えるべき勉強もちゃんと終えられて、卒業式にも出ることになり、親御さんも本当に感謝されていました。

 何よりも、お子さん自身が、自分が卒業するにあたって、勉強に自分なりのけじめをつけてちゃんと終えられたということ。それは本人にとって大きな区切りになったことでしょう。その後中学の入学式にもちゃんと出席しました。一方、支えた若者も、そのサポートの経験が大きなきっかけとなって、将来自分は子どもと関わる仕事がしたいと話すようになりました。支えることを通じて自分の道を見つけることができたんですね。

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 地域のさまざまな世代が、子どもたちの学習をサポート

子どもたちのために地域を変えたいという思いが広がる

   地域の人たちは、そんな子どもたちの変化を嬉しく見守っていて、今後は学習支援だけではなく、小さな夏祭りをやるとか、クリスマス会や誕生日会もしたいね、という話もしています。地域の人たちも、最初は子どもたちを遠巻きにみていてお互い距離があったのですが、時間をかけて親しくなって、子どもたちのことを理解できるようになると、子どもたちのために自分たちが何ができるかと、主体的に考えるようになっていきます。

   おはよう食堂や学習支援など、そのような子どもの居場所が豊中のあちこちに生まれているということ。そうした取り組みを通して、私たちが困難をかかえる子どもたちと新たに出会うことができ、課題が見えて、その課題を地域の人たちと共有する中で、何か子どもたちのためにやりたいと思う大人が地域に増えたこと。それはコロナ禍の中での、とても重要な変化だったように思います。

 

 

 

 

一人も取りこぼさない社会をめざして

勝部麗子さん(コミュニティソーシャルワーカー)

10年前、大阪府で初導入された地域福祉の専門職=コミュニティソーシャルワーカーの第一人者。大阪府豊中市社会福祉協議会・事務局長として、様々な地域福祉計画・活動計画に携わる。2006年から始まった「福祉ゴミ処理プロジェクト」では、孤立する高齢者に寄り添い、数多くのゴミ屋敷を解決に導いた。厚生労働省社会保障審議会「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」委員。信条は「道がなければ作ればいい」。

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