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一人も取りこぼさない社会をめざして

大阪府豊中市のコミュニティソーシャルワーカー・勝部麗子さん。地域や家族から孤立する人々に寄り添い支える日々を綴ります。

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2017年10月20日 (金)

高齢者や引きこもりの若者たちが地域を支える~福祉便利屋

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風呂場の電球交換をする福祉便利屋のスタッフ

埋もれていた「ちょっとした困りごと」

 

豊中市内でいちばん高齢化率の高い千里ニュータウンという町があります。豊中全体で高齢化が進んでいく中で、未来のモデルとなる町なので、どんなことが高齢者にとって困りごとになっているのか、調査をしました。

すると、家具の移動や、電球交換、草むしり、窓拭きなど、困りごとが次々と出てきました。息子や娘たちはみんな外に出てしまっていて、老老介護あるいはひとり暮らしが大半になっているので、生活の中でのちょっとした困りごとを支える人がいない。核家族ならではの問題があふれていることを実感したんです。たとえば、古い家具を捨てられたら、もうちょっと部屋を広く使って快適に暮らせるのに、できないからずっとそのままになっている。そういうことがたくさんあることがわかりました。

私たち豊中市社会福祉協議会は、以前から「福祉なんでも相談」という窓口を持っていたんですが、高齢者にとって、家具を動かしたいとか、電球が交換できないという困りごとはあまりに身近すぎて、「こんなことまで相談していいのかな」となっていたんですね。

相談を受ける側も、ちょっとしたことを解決する体制を地域の中で作っているわけではないので、これまでは小さな悩み事を聞いても、解決の方法がありませんでした。新しく助け合いの仕組みを作って、地域の中で解決する必要があると考えていました。

 

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手の届かない高い場所の掃除だけを依頼した ひとり暮らしの高齢者

 

 

一方的に助けられるだけではない高齢者

 

そこで調査するとき、「困っていることがありますか」とあわせて、「できることはありますか」と聞きました。いわゆるニーズ(needs)とシーズ(seeds)、地域の中にある困りごとと、助ける能力のある人、つまり社会資源の両方を聞いたわけです。

そうすると、「話し相手はできるけど家具の移動はできない」「電球交換はできるけどズボンの裾上げはできない」など、いろんな答えが返ってきました。全員が何でもできるわけではないけど、全員が何もできない人でもない。高齢者の中でも、いろんな得意なことがあることがわかってきたんですね。

これまでのボランティアでは、ボランティアは全部助けてあげる人、助けてもらう人は全部助けてもらう人、みたいになっていた。でも実際には、町の中には「この部分は助けられるけど、この部分は助けてほしい」という人たちがいる。それが「助け合い」になるんじゃないか。

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福祉便利屋のスタッフとして活躍する高齢男性

 

振り返ると、われわれ豊中市社会福祉協議会は、22年前の阪神淡路大震災で大きな被害を受けて、災害公営住宅での孤独死などを防ごうと、地域の中で助け合い活動を始めました。声かけや見守り、あるいは通院介助をする、薬を取りに行く、話し相手になるなど、地域の中でボランティアのグループを作って、SOSに応えていました。

ところが介護保険制度が始まると、見守りや通院介助などもヘルパーさんの支援で対応されるようになってきたので、私たちの活動もその後は、埋もれたニーズを掘り起こして介護保険につないで行く方向にシフトしていきました。しかし介護保険では、できることとできないことがある。今回の調査で出たようなことは、ずっと地域の中に埋もれていたことがわかったんですね。

そうならば、もう一回地域の中で助け合いの形にしよう。一方的に困っている人を助けるんじゃなく、ちょっとしたことを助けたり助けられたり、支えあいにしていくことが大事なんじゃないか。そう考えて、去年の秋から、福祉便利屋として協力してくれる人たちの養成を始めました。

 

引きこもりの若者たちも町の支え手に

 

福祉便利屋は、今年の1月からお試しで3ヶ月くらい行いました。料金は15分200円。それまで有償ボランティアは1時間800円でやっていたんですが、たとえば大型ゴミを出すのに2人にお願いすると1600円。それならやめようとなってしまうところが、15分で400円なら頼みやすくなります。かんたんな電球交換ならすぐ終わりますし。頼む方も頼まれる方もそれくらいの時間とお金でお互いに支えあうルールにしたことで、頼みやすくなったと思います。

「助けてほしいことがある」と手を上げた高齢者は150人くらい。そんなに困っていた人がいたのかと思う一方、「地域で困っている人たちがいたら助けてもいいよ」という福祉便利屋のボランティア募集には、50人が手を上げてくれました。各小学校区で50人高齢者が活動してくれるとなると、豊中市全体では2000人くらいになる。高齢者の方が社会参加する新たなきっかけになるかもしれません。

一方で、力仕事になると、高齢者だけではなかなか大変。そこで、われわれのところ支援していた引きこもりの若者たちにも、就労体験の一環として、便利屋のメンバーに入ってもらうことになりました。

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草むしりなどの力仕事は 引きこもりの若者たちが担当

 

彼らも、地域のお年寄りの家に行ってがんばって仕事をすること、感謝されたり、ほめられることで、だんだん自信がついてくる。人に対して言葉をかけるのも難しかった彼らが、仕事として積極的に取り組めるようになりました。その中で自信がついた子はコンビニのバイトができるようになったり、引越しのバイトを自分で見つけてきたり。就労の意欲と自信につながっていくこともわかってきました。

町の中でいちばん自分たちの居場所を見つけにくいと言われている引きこもりの若者たちが、豊中に2500人もいると言われています。その2500人の子たちが、社会を支える役割を担えるんじゃないかと、今回のことで気がつきました。今年から介護保険制度が大きく変わり、要支援1と2の人たちを介護保険ではなく自治体が支えていく仕組みになったので、助け合い事業を市全体で展開していこうとしています。

高齢であったり引きこもりであったり、どちらかというと地域の中で役割がないと見られがちであった人たちが活躍していく。新しい支えあいのモデルとして、非常に意義があるかなと思っています。

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引きこもりの若者たちの丁寧な仕事ぶりは地域の評判に

 

一人も取りこぼさない社会をめざして

勝部麗子さん(コミュニティソーシャルワーカー)

10年前、大阪府で初導入された地域福祉の専門職=コミュニティソーシャルワーカーの第一人者。大阪府豊中市社会福祉協議会・事務局長として、様々な地域福祉計画・活動計画に携わる。2006年から始まった「福祉ゴミ処理プロジェクト」では、孤立する高齢者に寄り添い、数多くのゴミ屋敷を解決に導いた。厚生労働省社会保障審議会「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」委員。信条は「道がなければ作ればいい」。

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