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地域づくり情報局

一人も取りこぼさない社会をめざして

大阪府豊中市のコミュニティソーシャルワーカー・勝部麗子さん。地域や家族から孤立する人々に寄り添い支える日々を綴ります。

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2016年04月11日 (月)

本人の気持ちに寄り添った"解決"とは?

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地域での解決が難しい課題の一つが、“ゴミ屋敷”。強制撤去のニュースを目にしますが、なかなか本人の納得は得られず、かといってご近所の不満をそのままにも出来ません。勝部麗子さんが活動する大阪府豊中市では、住民・社会福祉協議会・行政が連携して、本人の気持ちに寄り添った、新しい考え方に基づく解決に取組んでいます。いったい、どんな取組みなのでしょうか。


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ごみ屋敷を訪ねる勝部さん

一昨年、一人暮らしのある女性のお宅で解決に向けた取り組みを行いました。その様子は、NHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」で放送されました。その時の動画はこちら私たちの“ゴミ屋敷”に対する基本的な考え方は、ゴミ屋敷を「社会的な孤立の象徴」と考えることです。今の日本では、これまでの地縁や血縁など人のつながりが弱まったことで、誰にもSOSを出せずに孤立している人が増えています。現代の貧困は、“サイレント・プア=声なき貧困”であり、それは、ゴミ屋敷・孤独死・ひきこもりといった様々な形で現れてきます。

 

もう一つ、私たちは、「まわりから“困った人”に見える人は、実は間違いなく“困っている課題を抱える人”である」と考えています。ゴミ屋敷の場合で言えば、高齢になって体が弱くなり、ゴミを運べなくなっても「助けて!」と言えずにゴミをためてしまった人がいます。また、大切な家族を亡くした喪失感から心を埋めるようにごみを溜めるようになった人もいます。多くが「こうなってしまったのは自分のせいだ」とか、「恥ずかしくて言えなかった」と、必要な支援を受けずにいます。何より、ごみ屋敷状態になっているということは、何年間も人が訪ねてこなかった証しで、私には「社会的孤立の象徴」と見えるのです。そうした人たちは、多くの場合、対人関係で傷ついた経験から誰かを信頼することを諦めていて、支援を拒否することがあります。ご本人の立場から考えれば、人に助けてもらうことを惨めに思う人もいますし、「助けて!」と声を上げること自体、すごく勇気がいることだと思います。そうしたことを考えて、私たちは何度断られても、「助けさせてください」「片づけを手伝わせてください」繰り返し伝えて、「こまで言うならやってもらおうか」思ってもらうようにしています。

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片付けの中で。

プロフェッショナルでは、家の周りを片付けているシーンが放送されたのですが、その後ご本人と話し合いを続ける中で、家の中も全てきれいに片付けることができました。いまは介護保険制度を使ってヘルパーさんに来てもらい、ゴミを定期的に出してもらえるようになり、一人暮らしを続けることができています。

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1人暮らしの女性と。

このケースの場合、ご本人は一人ではなかなか片づけができず、身体もだいぶ弱っていました。私たちは、ご本人と話し合い、信頼関係を結びながら、地域の方々の協力を得て関わっていきました。家の周囲を片づけ、その後、家の中の片づけを2日間ぐらいかけてやったのですが、思い切って家の中を片づけるところまでは、なかなか踏み出せませんでした。

これまでご本人は、「何とかしてほしい」と色々な方々から言われても、どうすればいいのかわからなかったり、片づけるためにはかなりの費用もかかるっていうこともあって、自分ではどうすることもできずにいました。また、例えば通帳が見つかっても印鑑が見つからないなど、大事なものがどこにあるのかわからない状態になっていたので、ものを捨てると大事なものまでなくなってしまうのではないかという不安も抱いていました。

 

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片づける前に住民ボランティアで会議を行う。


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住民ボランティアとごみ屋敷片づけ

そこで実際に片づける時には、ひとつひとつを本当に丁寧に扱い、ご本人に必要なものは絶対に捨てないよう気を配りながら進めていきました。その様子を見て「この人たちは信用できる」と思ってくれたのだと思います。信頼関係が築かれていくと、ボランティアや地域の方々に対し、「みなさん迷惑かけてごめんなさい」「こんなお願いをするのは申し訳ない」といった言葉をご本人が口にするようになり、最終的にはご自身もお金を出して業者さんにも手伝ってもらい解決していきました。片づけを通じて、今まで失くしたと思っていたものも、たくさん見つけることができました。

 

今回、解決に結びつけられたもうひとつの理由は、私たちがずっとご本人への見守りを続けていたことがあります。ご本人は身体が弱ってきて、片付けを一人ですることは、ちょっと難しくなってきたと感じ始めていました。見守りを続ける中、私たちはそうした変化に気付くことができ、ご本人がそう感じ始めたところにお話を持ちかけていったので、「じゃあ、お願いしようか」ということになったのだと思います。

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女性と近所の方々、片づけを終えて。


片づけを通じて、もう一つ大きな変化が起きました。ご本人と近隣の方々との関係が、元に戻っていったのです。一般的に、ゴミを溜め込んでいる人は、地域にとって“困った人”と見えるわけです。そして必ず「地域にこういう人がいると困る」と、排除しようとする人たちが出てきます。そうした人たちとご本人との間で、私たちは“盾になってくれる人”を見つけていきました。今回の女性のケースでは、“盾になってくれる方”は、ご近所の方でした。とてもご本人を心配されているご近所の方がいたのです。その方が「あの家の主は困った人だ」「出て行ってほしい」と思っている人たちに、「片づけが進み始めたよ」「もうちょっと待ってあげよう」と呼び掛け、ご本人に対しては「大丈夫ですよ」と声をかけてくれました。やがて、優しく声掛けをしてくれる人が増えていき、ご本人も「大丈夫かな」と感じてくれるようになり、いざこざは無くなっていきました。盾になってくれる方がいたからできたのであり、私たちの力だけでは不可能だったと思っています。

 

私たちはこれまで、400人を超える方々のゴミの片づけをしてきました。その誰もが、片づけができない様々な事情を抱えていました。一概にゴミ屋敷という捉え方ではなく、ひとりひとりが抱える課題をご本人の立場になって考えサポートしていくことが大切です。これまで述べてきたように、ゴミ屋敷の問題というのは、何か他の原因があって起きているのであって、その原因を何とかしなければ解決にはつながりません。例えば、リストラから自暴自棄な生活状態に陥り片づけをする気持ちすら起きないというような人や、家族を失ったショックから立ち直れない人、うつ状態やいわゆる発達障害だったり、認知症、知的障害といった人たちもいる訳です。ゴミの片づけが目的のすべてなのではなく、その人の生活課題をしっかりとサポートする。その上で片づけにもアプローチしていくことが大切だと思います。

近所の人たちが「この人ってこういう課題を抱えて、苦しい思いをしていたんだ」と理解し、つながっていく。外から見たらゴミ屋敷にしか見えないけれど、実際には大切なものが中にあったり、色々な事情も背景にはあるのだということを、片づけを通じて地域のリーダーが理解し、周りの人が冷たい言葉をかけた時には「そういうことではないのでは」と受け止めていく。先ほど「盾の役割」と言いましたが、いわゆる“包摂”ですね。排除ではなくて包み込む役割を果たしていく。そのことで、まち全体が優しくなっていく。排除ではなく、色々な課題を抱えている人のことを、地域の人たちがわかろうとするまちづくり。私たちがやってきていることは、そんなまちづくりにもつながる取り組みだと思っています。

外から見ているだけだと、本当の事はなかなかわからないものです。わからないから、表面的なところだけで、難儀な人、大変な人、困った人というふうに見てしまう。けれども、実際にはそれぞれ色々な事情があるわけで、それを知ることが大切なのです。そういうことなのかと知るところから、優しさが生まれてくる。私は、地域で出会ったあるボランティアの方から教えてもらいました。「勝部さん、その人の本当のこと知らんで理解せぇって言われてもわからんやろ」と。知ることによって優しさが生まれ、その人のことを理解できるようになる。自分も同じ状況に立たされたら、同じようになるかもしれないなと思えるようになる。それが共感するということだと思います。本人の生き方とか、何を大事にして生きていきたいのかといったことを、地域の人たちが肌で感じる。そこから出発していくことで、その後の支援の在り方や地域のひとりひとりの方の行動も、大きく変わっていくのではないかと思っています。

一人も取りこぼさない社会をめざして

勝部麗子さん(コミュニティソーシャルワーカー)

10年前、大阪府で初導入された地域福祉の専門職=コミュニティソーシャルワーカーの第一人者。大阪府豊中市社会福祉協議会・事務局長として、様々な地域福祉計画・活動計画に携わる。2006年から始まった「福祉ゴミ処理プロジェクト」では、孤立する高齢者に寄り添い、数多くのゴミ屋敷を解決に導いた。厚生労働省社会保障審議会「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」委員。信条は「道がなければ作ればいい」。

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