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2016年04月01日 (金)
命を守る絆づくり―孤立が進む都市で
都市部では、マンションなど集合住宅で暮らすスタイルが増える中、地域からの孤立や孤独死といった問題が起き続けています。さらに進む一方の高齢化によって、事態は深刻さを増す一方です。
こうした中、勝部麗子さんの地元である大阪府豊中市では、去年から新たな取り組みが始まりました。第1回目の今回は、勝部さんによる豊中市からの最新報告です。
豊中市は大阪市のベッドタウンで、高度経済成長期にたくさんの方が移り住んでこられました。典型的なベッドタウンで、63%が集合住宅に住んでいます。いま人口減少社会といわれていますが、豊中では逆に人口が増えて40万に達し、駅前にマンションが新しく出来たり、豊中市の北部に広がる千里ニュータウンの中高層の集合住宅も、高層化が進んでいます。
一方で1995年の阪神・淡路大震災以降、私たちは小地域のネットワーク活動ということで見守り活動などを展開してきましたが、市内の自治会組織率は45%まで低下してきています。特にマンションは、管理組合は作っても、自治会は作らないところが増えており、マンションの中でのコミュニティー作りが進まないという課題を、ずっと抱えてきています。
マンションは、共有の財産なので、建物の管理をみんなで力をあわせてやっていくために、法的に管理組合を作ることが義務付けられています。しかし、自治会を作るかどうかは任意。そのため両方に役員を出すのは大変ということで、自治会が作られてないところが多いのです。
さらに、マンションにお住まいになる方は、ご近所づきあいの煩わしさなどに敏感な方が多いので、新しい都市型のコミュニティーの有り様、付き合い方といったことを考えていく必要もありました。そこで私たちは、5年ほど前から、マンションにお住まいの方々のところに出向き、様々なヒアリングや調査をしてきました。
マンションサミットの様子
去年2月には、豊中市内全域のマンションにお住まいのみなさんに呼びかけをして、「マンションサミット」というものを初めて開きました。みなさんの関心はものすごく高かったです。高齢者が増えていて、見守りや孤独死の対応、徘徊といった課題にどう向き合っていけばいいのか。みなさん実は困っていたけれど、どうしていいかわからないまま放置されていたことが、明確になったのです。
しかし、新たな自治会を作るのは難しい。そこで思いついたのが、マンションの管理組合を見直し、自治会のような機能も持たせることでした。早速、マンションの管理組合を中心とした見守り活動のための体制作りということで、「マンション交流会」という活動を提唱していくことになりました。
マンションゴミ出しボランティア
実はそれぞれのマンションの中でも、先行して独自の取り組みを始めていらっしゃるところがありました。例えばマンション内でのゴミ出し。高齢者の会のようなものを作って、その中で元気な高齢者が身体の弱い高齢者のゴミ出しをお手伝いするようなチームがあったり。屋上を花壇にしてサロンのように使って、介護予防に努めようとしていたり。災害の時に一軒一軒無事かどうかを確認するのは大変ですので、「無事ですカード」というマグネットで玄関の前にポンと貼れるようなカードを作って、コミュニティーを活性化させようとしてらっしゃるところもありました。また、新しく入居された方にその地域の色々な福祉の活動についてご紹介したり、子育てサロンをやっていますよと紹介したりと、コミュニティーに参加できる入り口をちゃんと考えているところもありました。
そうしたそれぞれのマンションごとに行われていた工夫や取り組みが、マンションサミットをきっかけにして、よそのマンションともつながるようになったのです。情報の共有が進みました。様々な先行事例をご紹介する中で、「自分達のマンションでも、もっと人とのつながりを大事にしていきたい」、「やり方がわからないので、もっと方法論を知りたい」というような方々がたくさん現れ始めました。いま、そうしたところに社協の職員を出向かせてもらって一緒に話し合ったり、近接するマンションの住民のみなさん同士で話し合いのできるような場を作る試みなどが始まっています。地域内でのマンション交流会は、市内4つの地区で立ち上がり、色々と情報交換をしながらより良いコミュニティー作りをみんなで考えていこうという機運が盛り上がっています。
マンションサミットワークショップの様子
一般的に今までの集合住宅、特にマンションには、共通の課題がありました。住民の方々は、地域との関係を拒絶しているわけではないのですが、オートロックのところが増えてきたこともあり、災害が起きた時に中に入ることすらできなかったりと、外部との連携がなかなかできなかったのです。マンションの近隣に住んでいる地域の住民のみなさんもその課題を感じてはいたのですが、それはそういうものだからどうしようもないということで、半ば方法論がないまま今までずっと放置されてきたのです。
「マンションサミット」をきっかけに、思い切ってマンションの住民たちが、近隣の住民のみなさんに直接アプローチするようになりました。すると、実は誰もが薄々と気にかけてはいたけれども、どうしていいかわからなかった課題について、やっぱり自分たちが主役になってコミュニティーを作ることが大事なのではと気づき、自ら考え動き出すようになったのです。こうして豊中市では、全国に先駆けてマンションの孤立を防ぐ取り組みが始まったわけですが、全国にはマンションがたくさんある自治体は数多あるわけですから、私たちの取り組みがそうしたところのモデルになっていければとの思いを持って活動しています。
マンション見守り訪問
勝部さんの訪問
活動を通じて、これまで埋もれていた様々な課題が明らかになってきています。例えば一人暮らしの高齢者が、体調が悪くなって救急車を呼んでも、一緒に乗ってくれる人がいなかったり、緊急連絡先を伝えていなかったため、誰とも連絡がつかなくなってしまったり。ひとつひとつは小さなことでも、積み重なるとご本人にとってとても大きな問題になります。
また、平成29年から介護保険制度の改正が始まりますが、ちょっとした手助けのようなことが中心になる要支援1、要支援2といった方々に対してはサービスが別メニューになります。そうなると、ゴミ出しのような簡単な日常行動が、マンション内で助け合えたりできるか否かが、生活の質やお金のかかり方にも影響していきます。
このほか、ある父子家庭は、父親が子供さんより先に出勤しなくてはいけないことから、子供のセキュリティを考えオートロックで守られたマンションで暮らすことを選ばれました。ところが、このことが地域のボランティアや近隣の友だちの支援を受けづらくさせ、地域の中で孤立、最終的には学校にも行けなくなってしまったという問題が起きました。あるマンションでは、プライバシーを守るため、専用階段や通路から自宅へ入れるという構造になっていましたが、そのことから、同じマンションから子育てに孤立している親子が続出。一人一人が孤立して、子供がいないと思い込んでいるという実態もありました。全体に呼び掛け、子育て交流会を開催すると、続々と孤立していた子供たちが現れました。
マンションならではの新しい助け合いの形を構築できるよう、みんなで知恵を出し合って考えていこうということです。そんな新しい取り組みの積み重ねが、将来のセーフティーネットの実現につながるのではないでしょうか。
これまでの勝部さんたちの取り組みは、「NHK地域づくりアーカイブス」で動画でご覧いただくことができます。