1. ホーム
  2. 地域づくり情報局
  3. 授業で使っています!
  4. 札幌学院大学人文学部人間科学科准教授 新田雅子さん

地域づくり情報局

授業で使っています!

全国の大学や高校で使われている、NHK地域づくりアーカイブス。どんな使い方をしているのか、先生たちに紹介していただきます。

記事一覧へ

2023年08月21日 (月)

札幌学院大学人文学部人間科学科准教授 新田雅子さん

地域共生社会の担い手を育てることを目標に


nitta1.jpgのサムネイル画像

ソーシャルワーク教育で「地域づくりアーカイブス」を活用 

 札幌学院大学は文系の総合大学ですが、私が所属する人文学部人間科学科は特に学際的な学科で、心理学、社会学、教育学、言語学、歴史学などといった幅広い学問領域から学生の関心に沿って学ぶことのできるカリキュラムになっています。

とはいえ4年間にわたってリベラルアーツを極めるというわけではなく、2年次からは「ソーシャルワーク専攻」「心理教育専攻」「地域文化専攻」という3つの専攻に分かれて学修を積み重ね、その先はそれぞれ「社会福祉士」「特別支援教員免許」「学芸員」の資格取得につなげて、地域共生社会の担い手を育てることを目標とする実践的な教育を行っています。

  私は「ソーシャルワーク専攻」で高齢者福祉分野を担当。本学での社会福祉士養成教育に20年ほど携わっています。社会福祉士というのは日本におけるソーシャルワーカーの国家資格ですが、その専門性の核になるのは、貧困や虐待といった問題を「個人的な事柄」としてではなく人と環境の関係のなかでとらえられるかどうか、という視点です。そのため大学でも、福祉や介護の法制度の枠組みにとらわれず、広く現代社会と家族や地域との関わりのなかで自/他の「老い」を捉え、そこで生じる生活上の課題解決の道筋として、高齢者福祉を考えるような教育を心がけています。

  とはいえ、まだ二十歳そこそこの学生たちが福祉の現場に実習生として赴き、個人と家族との関係や地域のさまざまな当事者に直接対峙して、複雑に入り組んだ問題をその複雑さのままに理解し、それを解きほぐすための支援方針や介入方法を考えるというのは、きわめて難しいことです。彼・彼女らの乏しい経験と限られた人間関係、狭くなりがちな視野は、いま目の前にいる学生自身を責めてもどうしようもないことなので、なんとかそれを補いたいと考えて、私は以前から、テレビドキュメンタリーやノンフィクションの映画等を講義や演習で活用してきました。

nitta0.jpg

 「高齢者福祉論」講義でアーカイブスの動画を視聴する学生たち

 「地域づくりアーカイブス」との出会い

  さて、新型コロナウイルス感染症が拡大し、本学も他の多くの大学と同様、2020年度はほとんどすべての授業がオンデマンド形式による遠隔授業となりました。その時に困ったのが、映像作品の一部を教室で教員立会いの下視聴して学生同士ディスカッションしたり質疑応答するというやり方が出来なくなったということです。

 突如として非常に制約の多い孤独な学びを余儀なくされた学生は、それゆえにこそ、多様なメディアを通して広い世界で実際に起きているリアルな事象から学び考える必要が増したにも関わらず、遠隔形式だとそれが難しいというジレンマに、教員として私自身が直面したのです。

 学生が一人でPCに向き合う授業形式にふさわしいツールがないものかと思案していた時に、かつての同僚から、「地域づくりアーカイブス」の存在を教えてもらいました。いつでもどこからでも、ユーザー登録などの手続き無しにアクセスできる使いやすさ、長すぎず短すぎない視聴時間、そして何より、ソーシャルワーク実践にかかわる人や地域の動画がたくさんあることが素晴らしく、すぐに多用させていただくことになりました。

 これからの時代のソーシャルワークを動画で学ぶ

 今日の日本社会で求められる福祉の専門性とは、ある特定の法や制度に則って、それらが対象とする人たちに一定の枠組みのなかで関わっていればよいというものではありません。福祉職が「高齢者介護のプロ」「障がい者福祉のエキスパート」を目指すことも重要ですが、それだけで良いという時代でもないのです。

 とりわけソーシャルワーク専門職に求められるのは、込み入った事情を抱えた家庭に介入したり、制度の狭間で地域社会から排除されている人に向き合ったりするための知識と技能です。以下の動画では、そうしたソーシャルワークの最先端で活躍されている方々の思いやアクションを目の当たりにすることが出来ます。

絆を失った人々に寄り添うホームレス支援 福岡県北九州市(プロフェッショナル 仕事の流儀)

ひきこもりを地域の力に ~秋田・藤里町の挑戦~ 秋田県藤里町(クローズアップ現代)

地域の絆で“無縁”を包むコミュニティソーシャルワーカー 大阪府豊中市(プロフェッショナル 仕事の流儀)

 困難を抱えて孤立する人たちをどう支えていくか

  また、病気や障害を抱えながら生きる人や、さまざまな生きづらさを抱えて孤立する人を、「支援する-される」という一方向的な関係で支えるのではなく、ともに支え合って生きていけるようなつながりを地域のなかに増やしていく支援のあり方も、これからますます求められます。以下の動画はそのような実践をよく伝えており、授業でしばしば利用させていただきました。

迷惑を支え合いながら地域で生きる 富山県富山市(ふるさとの希望を旅する)

制度のはざまにいる人たちを迎え入れるコミュニティハウス 富山県高岡市(ETV特集)

福祉制度史を当時の映像からリアルに学ぶ

  また、「高齢者福祉論」という講義では、「老人保健福祉政策の展開」という項で制度史に触れますが、そのなかで、田中角栄内閣が1973年元旦から導入し10年間続いた「老人医療費支給制度」いわゆる「老人医療費無料化」が、その後の老人保健制度、そして今日の介護保険制度と後期高齢者医療制度へとつながる流れは、必ず説明する重要ポイントです。以下の動画は、岩手県沢内村(当時)から草の根的に広がったこのスキームの当初の意図と、それが国の制度となった時にもたらした功罪を、当時の映像をもとに非常によく理解することができます。「ミクロ」で成果をもたらした実践を「マクロ」的に応用した場合の政策効果について学生に考えさせる上で、とても有効な教材だと考えています。

行政・医療・住民の力で健康な暮らしを実現した村 岩手県旧沢内村(ハートネットTV)

住民主体の先進事例の動画を、フィールドワークの事前学習に活用

  最後に、3、4年生の「専門ゼミナール」での活用についてもご紹介します。

  近年、高度経済成長期に開発された大規模団地の高齢化や住民減少にともなう課題が指摘され、それへの対策として、団地と大学の連携事業が各地で報告されています。「孤独死」の問題も、20年ほど前から大規模団地において顕在化し始めました。

  私は数年前からゼミのテーマを「少子高齢化する大規模公営住宅団地の現状と地域福祉実践」として、本学のある江別市大麻地区のUR住宅や札幌市のもみじ台市営住宅での活動に参加して住民にお話しを伺ったり、他地域の先進事例を訪問するなどしています。

nitta2.jpg

フィールドワークの事前学習として動画を活用

  実際にフィールドワークに行く前の事前学習として、学生と文献を読んだり映像を見たりしますが、そのねらいは、調査対象とする団地で起こっている事象がそこだけで起きていることではなく、各地で同じような課題や問題に直面している人たちがいて、それに対してさまざまなアイディアを出し合い行動しているということを学ぶことです。それによって、客観的に問題を見つめたり、広い視野で多角的に新しい可能性を検討することができます。

  3年間続いた遠隔授業では地域に入っていくことが出来ませんでしたので、文献や映像自体が主教材にならざるを得ませんでしたが、昨年後半からは、フィールドワークにむけての事前学習として以下のような「地域づくりアーカイブス」の動画を活用させていただいています。団地における住民活動の動画が多いので、とても助かっています。

ゆりかごから墓場まで支え合う団地 東京都立川市(ふるさとの希望を旅する)

住民自身でお年寄りの孤独死を防ぐ 神奈川県横浜市栄区(ゆうどきネットワーク)

国をこえ つながる団地【1/3】外国人と日本人住民の距離を縮めたい! 埼玉県川口市(ふるさとグングン!)

 「人間に対する基本的信頼」を育てる授業を

 福祉に関する情報は、ネガティブなものほど過大に、ポジティブな事柄ほど過少に認知される傾向があります。ソーシャルワーカーを志す学生も、日本社会の問題や福祉の現場が抱える課題についてはある程度把握していても、制度の枠を超えた自由でのびやかな実践や地域住民の力を知る機会は限られており、テキストや講義だけではそれらを「実感」するまでには至りません。

 ここで紹介させていただいた動画を視聴した学生から、「こんなことが現実に行われてるんだ」「本当にこんな人がいるのか」と言った感想がよく聞かれます。彼ら彼女らが将来ソーシャルワーカーとして働いていくうえで不可欠な「人間に対する基本的信頼」を体得するための教材として、これからも「地域づくりアーカイブス」を活用していこうと思っています。

授業で使っています!

新田雅子さん

1974年札幌生。立教大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。2003年より札幌学院大学人文学部人間科学科に着任。専門は福祉社会学、老年社会学。近著(共著)に『ジェンダーからソーシャルワークを問う』(2020年)がある。

ブログ内検索