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授業で使っています!

全国の大学や高校で使われている、NHK地域づくりアーカイブス。どんな使い方をしているのか、先生たちに紹介していただきます。

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2023年01月25日 (水)

東京工科大学教養学環 准教授  神子島 健さん

理工系大学の教養科目における実践から考える
「NHK地域づくりアーカイブス」の可能性

 私は東京都八王子市にある東京工科大学という理工系の大学で教えています。教養学環という、一般教養を担当する部署で「地域共生論」(同キャンパスの4学部全体、2年生以上を対象)という科目を受け持っています。その授業でNHK地域づくりアーカイブスを利用していますので、その実践紹介と、取り組みについての考察を書いてみたいと思います。

「地域づくりアーカイブス」との出会い
 最初に、地域づくりアーカイブスを使うようになった理由を書いておきます。といっても、今となっては厳密にいつこのウェブサイトを知ったか、思い出せません。

 私自身は大学で授業を受け持つようになってすぐの頃から、特に大人数の講義で動画を使うことに意義があると考えてきました。そのため、動画が公開されているウェブサイトは以前から色々と使ってきました。具体的にはNHKの「ecoチャンネル」(2010年開設、2017年閉鎖)や、NHK「戦後史証言プロジェクト」(現在も公開中)などです

 そもそも社会系のテーマのかっちりした動画自体、ネットでは(特に以前は)限られてしましたし、信頼できる制作者のもので無料公開というと、やはりNHKのものが多いと言えます。YouTube上のもので使えるものもありますが、社会的なテーマであっても当事者による宣伝・PR的なものが多いので(良いところを強調しがちなので)、その点は注意が必要かと思います。

地域づくりアーカイブスを利用している授業について
 私の担当している地域共生論では、障害者福祉、ジェンダー、地域エネルギー、地域と自然、災害と復興といったいくつかの地域課題を取り上げ、①その課題そのものを理解した上で、②地域で課題解決のためにどのような取り組みが行われているか、③(やや発展的なレベルとして)地域の取り組みにおける限界を認識し、国レベルの法整備や広域レベルでのバックアップとして必要なことは何か。 ということを考えることができれば素晴らしい、と考え、それを目標として実施しています。

 東京工科大学は、基礎科学よりも実践的なテクノロジーを中心に学ぶ大学です。教養科目として地域課題を学ぶことは、学生にとって、(1)日本に生きる市民として、現代の日本社会が直面している課題を認識するという、いわば市民教育(あるいはシティズンシップ教育)という面と、(2)自分が専門として学ぶテクノロジーが、その課題の改善にとって役立つ可能性を考える「きっかけ」になることもあるでしょう。

 地域づくりアーカイブスに掲載されている動画では、地域課題を改善・解決するための先進的な取り組みが多く紹介されています。これは地域共生論の目標の②にピッタリとあてはまるわけです。今の学生にとり、文字情報よりも、一本5~10分程度で見られる動画という形式が馴染みやすいという点はもちろんあります。しかし地域課題への取り組みの先進事例の紹介において動画を用いることには、もっと積極的な意義がありますが、それは最後に紹介します。その前に授業の中でどのようにアーカイブスを利用してきたか、紹介しましょう。

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アーカイブスの動画は、オンライン授業では生徒が個々で視聴。対面授業ではみんなで視聴することが多い

地域づくりアーカイブスの使い方1. 指定した動画の視聴
 2020年春、世界中でcovid-19が大きな脅威となる中、日本の多くの大学でも、急遽オンライン授業の模索が始まりました。決して十分な準備期間があるとは言えない中で、私どもも同じようにオンライン授業をはじめました。

 地域共生論もそうですが、100名を軽く越えるような大人数の講義ではzoomやteamsなどのビデオ会議システムを使っても、十分な双方向コミュニケーションを取ることができません(もちろんテーマや授業設計などによりますが)。地域共生論は学生が自分の好きな時間に受講できるオンデマンド授業を実施することになりました。その際、ウェブで公開されているアーカイブスが大きな力を発揮してくれました。

 講義動画で、あるテーマ(地域での課題)の基本をおさえた上で、そのテーマに関する課題を改善するための先進事例が紹介されているアーカイブス内の動画を教員が指定し、学生が各自閲覧します。例えばそれをふまえて簡単な意見やレポートを書いてもらうという形の課題を出す、というような利用方法が中心でした。

 ちなみに東京工科大学では、2022年度はほぼすべての授業を対面に戻したため、地域共生論も今年度は対面で実施しました。従来の延長として(というより現状の方がシンプルですが)、以前学生がオンデマンド授業で個別に視聴していた動画を、対面の講義の中で見せるということを現在はしています。

 今年度の授業で見た動画の一部を紹介しておきます。

・障害者と地域住民の防災訓練で課題を発見

バリバラ「震災からいのちを守る」 (2018年3月4日放送)

・住民が主体的に避難所を運営

東北発☆未来塾 防災の日スペシャル「生き延びるチカラ@熊本」(2016年9月4日放送)

・地域の課題をみんなで仕事に変える協同労働

 クローズアップ現代「働くみんなが"経営者"~雇用難の社会を変えられるか~」(2013年2月7日放送)

アーカイブスの使い方2. レポートでのリサーチ
 地域共生論の場合、授業のメインテーマと言える部分とアーカイブスの目的がかみ合っているというラッキーな面があったのが前提ですが、今年度は授業の最終レポートに関するリサーチの重要な参考用サイトのひとつとして、アーカイブスを紹介しました。つまり、授業で特定の動画を視聴するというだけでなく、学生がアーカイブスを検索して、自分の問題関心に沿った動画を探して視聴するという、アーカイブスならではの利用を試みたのです。

 レポートにおいて、学生は自身の関心のあるテーマを選んだうえで自分の地元にある地域課題を探します。その課題に対して全国で行われている先進的な事例を調べ、その事例をふまえて地元での改善策を考える、ということをやっています。

 地元と、先進的な取り組みが行われている地域は普通、様々な前提条件の違い(例えば大都市部と地方など)があります。あるいは課題そのものの微妙なズレ(似ているけれど厳密に考えると同じではない課題もある)、という場合もあるでしょう。そうした部分をふまえて考察できるかがひとつポイントとなってきます。ちなみにこの時、地上波での放送であればローカルの扱いで全国で紹介されないような事例も、地域に限定されず視聴できる点もアーカイブスを利用する強みとなっています。

 先進事例が集まっているサイトのひとつとして、アーカイブスを紹介しているわけですが、やはり動画を通して見ると、先進事例においては何をどこまで改善でき、どんな課題が残っているかが比較的理解しやすい点や、(動画にもよりますが)取り上げられている地域や組織の雰囲気なども、なんとなく見えてきます。文字でまとめられた情報の場合、課題解決に焦点が当たりすぎていると、そうした背景知識が見えにくい場合もあるわけですが、画面にはそうしたものが映り込むものです。

アーカイブスを利用する意義の分析
 以上のような授業実践をふまえて、現在のところ考えている「アーカイブスをこの授業で用いている意義」を、私なりに考察してみました。

 理工系の学生向けの教養科目ですので、学生はほとんどの場合、強い関心や専門的な知識を持ってこの科目に取り組むわけではありません。複雑な話や法制度の詳しい話を展開しても、学生の興味を引くことはできません。例えば丁寧に福祉に関する制度の話をして、その話自体はあるていど理解できたとしても、本来知っておくべき前提となるような部分を知らなかったりします。動画では、地域で具体的に困難を抱える人がいて、それを人々がどのように改善しようとしているのかという姿をリアルに「見て取る」ことができるのが強みです。

 例えば、障がい者の福祉というテーマは必ず取り上げていますが、日本では2022年夏に国連から勧告を受けたように(注 )、障がいを持つ人と持たない人がともに学ぶインクルーシブ教育が進んでいない現状があります。そうなると、障がい者と日常的なレベルでコミュニケーションを取ったことのある学生が限られているわけです。障がい者が抱える困難がイメージできていないのに、制度や一般的な話だけされても、ピンとこないのは当然です。

 アーカイブスで「障がい」とキーワードを入れれば、関連する動画が出てきます。動画を通して、障がい者の抱えている困難と、それを改善するための地域での取り組み、そのための苦労などを具体的なイメージの中で知ることができます。もちろんそれも、映像というメディアを通したものでしかないとしても、登場人物の声、表情、コミュニケーションのあり方、周囲の環境など、文字では表現しきれない具体性をもって知ることができるのです。

 このことは、「基本事項の説明」で書いた(1)の目的、一市民として、日本社会で具体的に起きている課題を把握するという点で大きな意義があることは言うまでもありませんが、(2)の点、自分が専門として学ぶテクノロジーが、その課題の改善にとって役立つ可能性を考える「きっかけ」にも役立ちます。というのは要するに、例えば障がいを持つ人に対する支援において具体的にどのようなニーズがあるのかを映像を通して具体的に知ることができるので、自分が専門で学んでいるテクノロジーが役立つかもしれない、ということを考えやすいわけです。もちろん実際に現場で役に立つようなものを創るというのは簡単にできるものはありませんが、専門で学んでいるテクノロジーを課題解決のために用いることへの意識づけにはなります。

 現状では、時間的な制約や、受講生の所属する4つの学部で学ぶテクノロジーが多種多様であるため、「特定の動画で出てきた地域課題を解決するのに、自分が専門で学んでいるテクノロジーが役立つ可能性」を考えるような形で、アーカイブス内の番組を取り上げることはしていません。とはいえ、このような形でアーカイブスを利用することもできるのではないかと考えています。

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授業で学んだ地域の課題を、映像を通した現場の生の声として受け止められるのアーカイブスの魅力

おわりに
 以上はあくまで私の担当している授業での使用例と分析に過ぎません。アーカイブスの魅力は何と言っても収録動画の本数の多さと、テーマや地域が多岐にわたる点です。地域課題に対する様々な取り組みが紹介され、検索も容易で、社会科学系や地域関連の授業であれば色々な形で使えるであろう広い間口を持ったサイトだと思います。これを機にサイトをのぞいてみてはいかがでしょうか。

授業で使っています!

神子島 健さん

1978年東京都多摩市出身、在住。近代日本の戦争に関する文学・思想などを中心に研究し、著書に『戦場へ征く、戦場から還る』(新曜社)など。そのほか、地元の東京都多摩地域で地方自治の研究や行政の審議会に参加するなど、地域に関する研究・活動も積極的に行っている。

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