地域づくり情報局

教育からの地域・人・未来づくり

離島の高校を拠点に、地域の担い手づくりに取り組んできた岩本悠さん。さらに活動の場を広げ、人づくりを通じた持続可能な地域づくりに挑みます。

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2020年06月15日 (月)

学校魅力化で育む日本の希望

18歳の将来への不安が数字に表れる

2019年11月に、若者の「社会や国に対する意識」の国際比較調査(日本財団)に関して驚くような結果が発表された。自分たちの将来についてのさまざまな設問に関して、欧米やアジア9か国の18歳を比較したものであるが、日本の18歳は他の国に比べてきわめて低い数字が並んだのである。

「自分の国の将来について」良くなると思う日本の若者は10%(他国は21~96%)、「自分で国や社会を変えられると思う」は18%(他国は40~83%)、「社会課題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している」は27%(他国は55~88%)、「将来の夢を持っている」は60%(他国は82%~97%)であり、他の項目も同様に低率だ。

未来に対して希望ではなく、不安を抱え、社会をより良いものにしようという意欲に欠け、内向きになっている日本の18歳の姿が浮き彫りになったように思われる。日本の若者たちは大丈夫なのか、日本の未来はどうなっていくのかという不安を感じる方もいるだろう。

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高校魅力化に取り組む生徒たちの意識

しかし、その一方で、希望や可能性が見て取れるデータもある。私が共同代表を務める一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームが都市銀行のリサーチ会社と協働で行った調査データであり、島根県内の高校魅力化に取り組む16校の生徒(4104人)と、全国の高校生の意識を比較したものだ。高校魅力化というのは、学校と地域が連携し、高校生が地域社会の課題解決や価値創造に挑戦するといった独自カリキュラムを実施することで、多くの生徒が行ってみたい、保護者も通わせてみたいと思えるような魅力的な高校にすることである。

魅力化校の生徒たちは「うまくいくか分からないことにも意欲的に取り組む」は76%(全国平均52%)、「難しいことでも、失敗を恐れないで挑戦している」は68%(全国平均41%)で、挑戦意欲は全国平均よりも高い割合を示している。

また、「将来、自分の住んでいる地域のために役に立ちたいという気持ちがある」は66%(全国平均38%)、「地域をよりよくするため、地域における問題に関わりたい」は54%(全国平均29%)、「関心を持ち、解決したいと考えている社会の課題がある」は39%(全国平均27%)、「私が関わることで、変えてほしい社会状況が少し変えられるかもしれない」は38%(全国平均30%)と、地域社会への参画・貢献意欲も全国平均よりも高い割合を示している。

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人口が減りつつある離島や中山間地域の高校の生徒といえば、「意欲が低く」「社会感度も鈍い」というイメージを想い浮かべる人がいるかもしれないが、魅力化に取り組んできた高校生たちは、予想に反して、全国の高校生たちよりも前向きな姿勢で社会と向き合っていることがわかる。

では、何がこうした高校生の意欲や意識を高めたのだろうか。調査結果を分析してみると、「地域の人や課題などにじかに触れる機会がある」高校生ほど、「私が関わることで変えてほしい社会状況を少し変えられるかもしれない」と思っていることがわかった。各高校が地域と連携して取り組んできた課題解決型学習などを通して、自分たちで地域や社会を変えていけるという実感と自信が育まれたのではないだろうか。また、生徒の周りに「地域の人や課題など、生徒が興味を持ったことに対してすぐに橋渡しをしてくれる大人がいる」ことが、「将来、自分のいま住んでいる地域で働きたいと思う」等の項目に関係していることもわかった。

さらに、「自分が何かに挑戦しようと思ったとき、周りは手を差し伸べてくれる」と「うまくいくか分からないことにも意欲的に取り組む」にも相関関係が見られた。子どもや若者が何かをやってみようと思ったときに、周りの大人が否定したり、抑えつけたり、子ども扱いするのではなく、ちゃんと話を聴き、背中を押したり、応援したりすることで、彼らの挑戦意欲は自然と育くまれていくのである。

国際比較の調査データを見ると、将来に対して暗澹たる気持ちが広がるが、魅力化校の調査データをみれば、私たち大人のかかわり方次第で、若者たちが本来持っている未来への前向きな気持ちがよみがえってくることがわかる。彼らは大人から必要とされ、社会と積極的にかかわることで、地域や社会の「希望」となるのである。自分自身を乗り越えていくのは若者たちの責任であるが、その土壌を用意するのは、私たち大人の責任である。「不安」を「希望」に変えるためにできることは、まだたくさんある。

《続く》

教育からの地域・人・未来づくり

岩本悠さん(地域・教育魅力化プラットフォーム 共同代表)

大学時代から途上国支援や開発教育に取り組む傍ら、卒業後はソニー(株)で人材育成や組織開発に従事。2006年に東京から島根県の海士町へ移住し、廃校の危機にあった県立高校で教育改革に取り組んできた。

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