全国ハザードマップ

発災時 データで命は守れるか

2022/5/27

10. 個人情報 発災時に利活用すべき?

 

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臼田(防災科学技術研究所):よく言われるのはやっぱりオプトイン(事前許可)方式をもっと進めるべきだっていうのが1つ大きいと思います。もう1つ、あまりまだ、これが議論されていない部分かと思っているのが、「災害時」の定義がはっきりしていない部分もあります。これも統一見解がまだ出ていないんじゃないかと思っているんですけど、例えばいわゆる災害対策本部が立ちあがったことを災害時と呼ぶ場合もありますが、水害に関しては、そこからではもう遅いわけですよね。そういう意味では警戒本部の段階であるとか、「○○情報が出た段階からは災害時と呼ぶ」とか、その辺の定義の仕方によって、個人情報を使うタイミングが変わってくると思うんですよね。そうなると、災害が起こって、もう決壊して、そこから救助のために初めて個人情報を見ますでは遅いところを、いわゆる「まだ災害が起こっていない」「今こそ避難してほしい」という段階で個人情報を扱えるようになってくるだけでも、救える命が大きく変わってくると思うんです。そういったところはすごく議論すべきところかと思います。この検討会でもそういったところは議論した方がいいんじゃないかなと思います。

 

関本(東京大学):そうですね。この検討会も最後に提言もあり得るというように、NHKさんもおっしゃっているので、ぜひそのへん盛り込んでいければと思いますし、今おっしゃっていただいた、例えば警戒情報の段階くらいから電子的に、少しシェアするゾーンを広げていくようにして、現場が共有しやすくするっていうのはあり得るということですかね、今の法律の範囲で言えば。

 

臼田(防災科学技術研究所):個人情報の保護は大事でありつつも、「人の生命の方が大事だ」ということもあって、必ずしも個人情報保護法は縛りではなくて、「こういうラインを引いてここからは使えるようにしていく」と、いろんな方法で事前に決めておけば、確認は必要ですけれども、やることはできるわけです。ではどういうふうにやると、どれだけの人が救えるのか、っていうことをしっかり、今回のこういったデータを使って示していけると、決してそれは全面反対になることとは限らないので、ぜひそういった議論ができると非常に前向きでいいんじゃないかなと思っています。この場、自治体の方に参加いただいておりますので、まさに現実的な議論ができるんではないかなと思います。

 

関本(東京大学):人吉市さんにお戻しすると、そういう運用、災害時になるべく早めに少しオートマティカルに電子情報が共有されることが、こういう検討会を通じて少し提言があったりすると、もう少し動きやすくなったりする可能性はありそうですか。

 

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鳥越(人吉市防災安全課):事前情報、災害予測があれば、早めに要支援者の方々に対しての情報提供というのができます。「避難してください」という声かけをして周知をして、それから実際に避難していただいた方々の避難に要した時間などを以前に聞いた時に、1時間半から2時間ほど必要とのことでした。

 

関本(東京大学):先ほどラフティング協会さんのお話もありましたが、民間組織的なところでも共有は可能になるんですか。

 

鳥越(人吉市防災安全課):事前の情報共有は、それこそ法的にどうなのかなというところですね。そこが読めない。実際ラフティング協会の会長さんとか、常備消防と、消防団。救助の時に、令和2年7月豪雨の時は救助活動いただいた。事前にそういう情報を出せるかどうかっていうのは法的なところが私どもの方も把握しておりませんので、どうなのかなというところです。

 

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畑山(京都大学):私が知っているところでは、現状では支援団体に避難行動要支援者名簿を共有するのは難しいという認識のところが多いと思いますね。行政間と自治組織の共有は、災害時の形ではいけるんだけれども、支援団体は、今回のラフティング協会さんは、活動実態もはっきりしてるところですので、やれる可能性はあると思うんですがその線引きがなかなか難しくてですね、災害支援団体って、「昨日名乗り出しました」っていう人も現れたりしますし、阪神淡路大震災の頃からやってる老舗団体もある。それを行政の方で見分けながら、「こっちには出してこっちには出さない」みたいなことがなかなかできないと思って、そうなるとやはり、少しためらわれることが多いのかなと。おそらく、個人情報保護法の、例外規定を使えばできないこともないんですが、それでもちょっとその先の保証ができないということで、あまりそこまで提供されているという事例は見たことがないです。

逆にいうと、今回ラフティング協会さんみたいに地元密着でやられているところは、事前に協定とかを結んでいればですね、協定を結んでいるからという理由で出せる可能性はあってですね、そういう形で、地元の支援団体の方々とはですね、そういう協定を結ぶっていうのは一つのやり方かなとは思います。

 

11.地震に豪雨 災害によって必要なデータも違う

 

捧(NHK):ここまでの議論を踏まえて、小山様、当時ヘリ救助も担当された中で、ご意見があればぜひお願いいたします。

 

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小山(熊本市消防局):私は平成30年の4月から、昨年の3月31日まで、熊本県の防災消防航空隊でヘリコプターの航空隊長をやっておりました。平成30年に岡山県の真備町、そして令和元年に佐賀県の大町町、令和2年豪雨災害と、応援・受援と立て続けに経験しましたけど、やはり災害弱者の逃げ遅れが多いというのは事実です。そして令和2年7月豪雨災害時もですね、早朝からヘリコプターの要請、多々、対策本部からありましたけれども、他県消防防災ヘリコプター、自衛隊、海上保安庁、警察、全て救助ヘリは午前中の飛行は困難でした。私が航空隊長を務めていました、熊本県防災航空隊だけは「県内の地形を把握している」「緊急の着陸ポイントの選定ができている」、あと燃料をどこでも配備できるという利点がありまして、午前中に飛行しております。そして、数多くの方を救出したわけですけれども、私が思うのは、「どの地区にどれだけの人がいるのか」、避難者がですね、それと「災害弱者がその中でどれくらいいるのか」というのが、わかれば一番いいのかなと感じております。地震と豪雨災害で、ヘリコプターでの救出・救助は変わってきます。地震は救急搬送が多いです。あと、孤立者の救出が多いです。津波や豪雨災害では、「ヘリコプターでしか救出できない」とか、「ラフトボートでしか救出できない」という場合も多々あります。熊本地震の時はですね、全国から消防防災ヘリコプター20機がきましたけれども、30人の救出搬送でした。ただ今回の豪雨災害は、近隣県及び中国・四国地方含めて10機、それでですね、260名もの方をホイストワイヤー等で救出して、病院まで運んでいる。災害弱者の情報がピンポイントでわかれば、非常に人命救助には役立つのかなと思っております。それとやっぱり水流の中で活動を行うということですので、建物にいかに衝撃がかかっているか、圧力がかかっている場所がどこかが特定できればですね、そういうのも一つの救出方法の判断材料になると思います。あと個人情報の観点で課題もありますが、私いま、熊本消防局の情報司令課で勤務し指令管制をやっております。福祉情報、要支援者情報等も、情報司令課から現場活動隊には情報提供していますので、例えば119番通報があった時にその地区に要支援者が何名いるという情報の共有は、実災害でもできるのかなと、今感じました。

 

12. 防災協定で 発災時に効果的な連携を

 

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渕田(ラフティング協会):先ほど、防災の協定を結べばというお話があったと思うんですが、やはり人吉市、球磨川流域というのは、人吉市だけではなく、他の市町村も絡んでいますし、熊本県でいえば緑川、白川、いろんな河川がございます。そこでもしよければですね、熊本県とも、協定などを結べるんであれば、私どもは、どこへでも、車が行けたら行けますので。普段、50名くらいの協会員がいて、ボートも動けるので20艇は確実に動けると思いますので、その辺もちょっと考えていただければと思います。

 

13. 災害規模に応じたデータ利活用判断が不可欠

 

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三家本(熊本県危機管理防災課):ありがとうございます。協定など、検討させてください。

令和2年7月豪雨は、普通の水害とは違いました。一般的な水害は気象台から事前に警報等が流れてきて、それに基づき自治体や県はいろんな体制をとって、避難等の指示をしながら、ある程度の余裕を持って、危険な時間帯に入っていきます。その中で、例えば高齢者等避難においては、要支援者名簿を使うかどうかは別にして、高齢者の方の避難は、地区の方の力を使っていろんな対応はできることがあります。救助部隊、警察消防も、色々な対策をとっています。海上保安庁、自衛隊派遣要請の前においても事前にいろんな準備をして、危険な時期を迎えることができるんですが、令和2年7月豪雨は、7月3日の夜まで、こういうことになるとは誰もわかっていない中で、いきなり、21時くらいから気象が急変して、困難な状況を迎えました。従って、普段の体制を取れずに入っていきましたので、いろんなデータを使うにしても、そもそも「自治体が体制を取れない」、つまり職員が集まれない状況の中で、ああいった事態を迎えたのが7月豪雨の、県から見た実態だと思います。そういうことを踏まえまして、色々ご議論いただいた中で、こういった特異な災害を例にしてデータの検討を行うのか。まずは一般的な災害、例えば、一般的な台風で検討するのかを整理をした方がいいんじゃないかと感じているところがあります。熊本県は宿命的に、こういった大水害については本当に数年に一回は起こります。こういった中でしっかりとみなさんのお力をいただきながらですね、一人でも多くの命を守ることをやっていきたいと考えています。

 

捧(NHK):本日得られたお話、できることしたいこと、また現実の課題、どうすればクリアできるのかというところを一度整理して、各所共有、少し焦点を絞って取材も深めまして、次の検討会も行えればと思っておりますので、引き続きお力添えいただければと思っております。

 

関本(東京大学):本日は活発な議論をいただきどうもありがとうございました。取りまとめに向かってどうしていくかはまだ手探りな感じではありますが、せっかくみなさん時間を割いて集まっていただいているので、最後、提言にきちんとまとめて、実際に情報共有を試行的に進めていくとか、そういう形までうまくアクションまで持っていければいいと思っておりますので、皆様今後とも継続的にご協力頂ければと思っております、ありがとうございました。

 

 

【番組放送案内】

6月5日(日)21:00~

NHKスペシャル「いつ逃げる?どこへ逃げる?~新・全国ハザードマップ 水害リスクを総点検~」

目 次

1. 令和2年7月豪雨×熊本県 リアルタイムデータ検証

2.犠牲の多くは高齢者・要支援者

3. 浮き彫りになる 「公助の限界」

4. 人・車の位置情報 どこまで共有すべき?

5. 要支援者の位置情報 避難・救助に生かせるか

6. リアルタイムデータ整備 そもそも誰のため?

7. 発災前・発災時 リアルタイムデータ共有は可能か

8. 人口メッシュデータ 使いやすい単位はどれくらい?

9. 避難行動要支援者名簿の活用 課題は

10. 個人情報 発災時に利活用すべき?

11. 地震に豪雨 災害によって必要なデータも違う

12. 防災協定で 発災時に効果的な連携を

13. 災害規模に応じたデータ利活用判断が不可欠

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