全国ハザードマップ

発災時 データで命は守れるか

2022/5/27

7. 発災前・発災時 リアルタイムデータ共有は可能か

 

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福森(Honda):どれくらいリアルタイムで出せるのか、プライバシーの問題等々含めて、現時点でどこまで皆さんに開示できるのかという話になってくるかと思っています。弊社は、基本的に皆さんにお出しできるレベルは、ポイントのデータに関しては、統計化の手法次第でどこか「目的地に行った」とか、「そこで何分滞在した」とか、個人を特定できない範囲で正確に出せると思います。一方で道路リンクで統計化すれば、「ここの道路を何キロで走っていますよ」っていうのも出せます。通行実績に関しては、1時間前のデータを道路ベースで出していますが、そこはなんで1時間前かっていうと単純にコストがその方が安いからで、やろうと思えば5分なり10分前くらいのところも技術的にはできます。ただ金額的に高くなってしまうのでやっていないだけ。

これからの車の話をすると、数分前くらいのリアルタイム感で、あと5年もすれば弊社以外も含めてそれなりの車の量が分単位でサーバーとコネクテッドになる仕様にアップデートされるので、リアルタイムに近いレベルで、左から右にデータ連携・簡単な統計処理を行えば、どこの道路が何キロくらいで走ってるのか走ってないのかくらいまでは、お出しできるような時代になるとは思っています。ただ懸案は2つで、「個人情報」の話と「コスト」です。これがクリアになれば、弊社に限らず他社含めて、大半の交通量をカバー出来るようになると思います。そのレベルで多分出せる日がいずれくると思います。今はなぜそんなにないかっていうと、単純に皆さん、毎年車を買うことはない。だいたい9年とか10年スパンで車を買い替える方が多いので、新しい車を出してもそんなにすぐ市場には浸透しない。だいたい5年~10年すると、すごい短い間隔でサーバーと通信するような車が徐々に世の中に広がっていくので、防災とかにも、その頃には役立つデータ量が貯まるのかなと思います。

 

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溝上(熊本学園大学):人流のデータは、4次メッシュ、500メートルメッシュで集計されるんですけど、これは機械的でシステマティックなんですけど、そのエリアにいる方々の行動を反映していないと感じています。コミュニティ単位といいましょうか、町丁目は小さすぎるかもしれませんけれども、そういう範囲で集計していただくと、もっとリアリティのある情報が得られるんじゃないか。

それに地形とか交通ネットワークを重ねればもう少しいろんなことがわかるし、もっと基礎な地理やデモグラフィックの情報を平常時についてもきっちり地図に載せて見ていく事が重要。平常時と比べた異常値についても、その単位でデータを集計できるようであれば,地図に載せて観てみる。そうするとそれらの因果関係とかがもっと明瞭にわかるんじゃないかなと思っています。今回、ここまで各種の情報をGISに載せられて、「ああすごく便利だな」と思ったのですが、「この集計単位でいいのかな」と考えておりました。

私は交通が専門なので、被災後のネットワークやそこでの人流や交通流というものをイメージするわけですが、そこで有用なのがプローブの情報です。しかし、取得のための予算とプライバシーの問題があります。それらが解決できれば、どんどん、公表できるようになるかもしれない。しかし、プローブでは通ったところしか分からないので、「通っていない」のか「通れない」のかが判別できないということになります。なので、プローブデータから得られる情報で、本当に通れない状況なのかを知る手立てっていうのは、結局は実際に現場を見にいくしかないのかもしれません。あるいは、定点観測ができる装置の設置やドローンによる移動観測ができれば、実際に浸水しているかどうかわかるようになるかもしれません。

機械的に得られる情報と、マニュアルチックでもそれを補完するような観測の方法、それをうまく重ね合わせていって、「本当に通れるところはどこなんだ」と、いうことがAIなどの技術で予測できるようになれば、先ほど紹介のあった千寿園から病院への移動も、「搬送される時の最短距離もわからない」ということだったようですが、そういうことは少しずつ回避できるようになるんじゃないかなというようなことを、お話を聞いて思いました。

それと、研究では災害時の人流や洪水のフローを予測するモデルを作るんですが、それらの中にはパラメータがいっぱい入っていて、特に採用している人の避難行動の原理なんていう要素モデルが、果たして合っているかどうかもわからない中で,「シミュレーションをやってみたらこうなるはずだ」といっています。しかし,実際の行動や現象を観測すると、たとえ非常に少ないデータだとしても,たとえばメッシュごとのある時点の存在人数とかが分かるわけですから、そのデータをモデルにフィードバックして要素モデルの中のパラメータを更新してモデル全体の信頼性を改善していく、よく言われるデータの同化を行っていくのが我々研究者の役割の一つであると考えます。そのとき,観測されるデータは多ければ多いほどいいんですね。ただ単にメッシュの人口だけではなくて、例えば「あるところからあるところまで何分かかった」という所要時間のデータとかの情報があるとより精度の高いモデルに改善できますから、そういう情報をできれば私たちに提供いただければありがたいと思いました。

 

8. 人口メッシュデータ 使いやすい単位はどれくらい?

 

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柴山(Agoop):Agoopも、ドコモさんもやっていると思うんですが、50メートルメッシュまでは細分化はできています。町丁目字界でも、人流が見えている。スマホは加速度センサーがありますから、どの速度で移動しているかもわかると。結構細分化された情報っていうのは実はあって、今コロナ対策でも、町丁目字界単位で見ないと、どこでコロナがうつってるのか、もしくは危ないエリアはどこか、500メートルメッシュじゃわからないんですね。大枠で市町村で見ててもこれはよくわからない。50メートルにして町丁目字界にまとめるという形は、ドコモさんもAgoopもやっている情報です。

 

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鈴木(ドコモ・インサイトマーケティング):現状メッシュで見ているという部分に関して言いますと、データを使う側の方々の使いやすさっていう部分もあると思いますが、密度っていう観点でいうと、エリアに問わず、メッシュ単位、50メートルメッシュとかが見やすいかと思います。また、行政単位でこれをまとめ上げる。その辺はニーズに応じてアウトプットする出力の方法を整備しておくっていうのはすごく大事だろうと思いました。あとこの辺りの人流のデータに関していいますと、人流データを提供されている会社さん、みな一緒だと思うんですが、単純な人数っていう見え方だけではなくて、性別であるとか年代であるとかどこにお住まいの方なのか、非住民の方なのか、そういうようなことも日々、数字としては把握することができます。そういったデータの活用が大事だろうと思っています。

1点、ちょっと違うお話をさせていただくと、実際に災害があったとき、人流の把握は「正確な数字を提供する」「開示をする」、そういった努力を常日頃やってはいるんですが、難しい点がありますよということで情報共有だけさせて頂ければと思っています。災害時、災害の規模にもよりますが、ご高齢の方がスマホを持っていない・携帯を持っていないということもさることながら、「極力消費電力を落とすために省電力モードにする」「電源を極力入れない」とか、そういった使われ方、携帯電話の使われ方をするとそもそものデータ・信号が上がってきませんから、そういったところも色々加味しながら検討する必要があるだろうなというふうには思っていました。そういったことを考えても先ほど、人吉市の方もおっしゃっておりましたが、公助だけだとなかなか難しいという話が当然あると思うんですけど、人流データを使うと、実は共助ですね、「ボランティアとして助けてくれる・力になる方々が周辺にどれだけいるのか」、そういった見方もできるかと思っていますので、そう言った切り口で考えてみるのも有益じゃないかなと思って話を聞いておりました。

 

柴山(Agoop):基盤情報の重要性は本当に我々もわかっておりまして。実はデータ解析する時に、「どこが住宅地なのか」「どこが観光地なのか」「どこが繁華街なのか」、きちっとデータを取らないと、大きなミスリーディングをしてしまうんですね。コロナでも経験していて、繁華街ってやっぱり夜のお店がある場所なんです。で、そうすると50メートルメッシュで繁華街のエリア、ちゃんと作り上げるんですね。で、そこで夜だと人が増えてる・減ってる。繁華街は500メートルメッシュで見るんじゃなくて、きちっと繁華街のエリア、住宅街のエリア、っていうものを作るっていうのが、実は情報の精度を上げるためには位置情報データ、人流データだけではなくて、基盤データの整備というものが非常に重要になる。

 

9. 避難行動要支援者名簿の活用 課題は

 

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関本(東京大学):先ほど、人吉市の方からも説明があったように、要支援者の1100人の許諾は取れている名簿があり、ある程度は共有されてはいるが、知る人ぞ知るくらいのレベルなのかどうかや、他の自治体でも消防の人たちは割と使いこなせているのかなど、その辺のもう少し現場感を知りたいです。

 

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早田(人吉下球磨消防組合):令和2年豪雨災害のような規模の災害になりますとやはり、避難行動要支援者名簿といった情報を活かし切ることが出来ないほどの災害であったというのは痛感しています。もちろん先ほどから出ていますように、自助共助の部分をどうクリアしていくかっていうのが、私たち、水害の後の検証会の中で話し合いをしてるんですけれども、やはりその、住民、浸水想定されている区域に住まれている方の意識が変わらないことにはどうしようもないと今、考えているところです。

要支援者がどこにいるかというのはさすがにわれわれもピンポイントではわからないんですけど、その町内会、ましてや地元の消防団あたりはですね、まあまあ把握されているんではないかと思っています。その中で、いわば、消防から・市町村からでも、連携をとりながらですね、情報をいち早く地区住民の方に知らせる何らかの手立てがあればですね、いち早く自助共助で避難をしていただけないかというのが私たちの希望であります。

要支援者の情報というのは、ファイルとして綴ってはあるんですけども、通信情報課で管理していますので、通常、119入電した際に通信指令システムに入力している情報で確認している状況です。

災害が発生して、そのファイルを持ってきて、みんなで情報共有できるのか、というのがなかなか難しいかと思います。うちの管内が、6市町村を管轄していますので、それぞれの地域の要支援者情報がありますので、莫大な量になるのかなと思っています。

 

関本(東京大学):マイナンバーカードのレベルだと、徐々に市役所側もマイナンバーの処理対応はスムーズになってきている部分もあるので、うまく、似たような感覚で扱えるようになってくるといいかなって個人的には思っております。臼田さん、先ほどAI防災協議会の話もありましたが、法律の、運用の方でもっと努力した方がいい点と、もちろんそういうのは時間がかかるので、自発的な行動とかアプリの対応とかでやった方がいいことって両面あると思うんですけど、今の、避難行動要支援者名簿の扱い、何かご意見ありますか。

目 次

1. 令和2年7月豪雨×熊本県 リアルタイムデータ検証

2.犠牲の多くは高齢者・要支援者

3. 浮き彫りになる 「公助の限界」

4. 人・車の位置情報 どこまで共有すべき?

5. 要支援者の位置情報 避難・救助に生かせるか

6. リアルタイムデータ整備 そもそも誰のため?

7. 発災前・発災時 リアルタイムデータ共有は可能か

8. 人口メッシュデータ 使いやすい単位はどれくらい?

9. 避難行動要支援者名簿の活用 課題は

10. 個人情報 発災時に利活用すべき?

11. 地震に豪雨 災害によって必要なデータも違う

12. 防災協定で 発災時に効果的な連携を

13. 災害規模に応じたデータ利活用判断が不可欠

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