
予測技術で早期避難は果たせるか
捧(NHK):今回の洪水予測システム、6時間前にリスクがわかり、かつ今、人流データもあります。洪水浸水想定区域のエリアの中で、令和2年7月豪雨発生の前の月、「この曜日・この時間帯に人がどれ位いるか」、どこに人が多くいるかが、人流データで推定できます。
捧(NHK):人吉下球磨消防組合の早田さん。どこに人が多くいそうかというデータは役に立ちそうでしょうか。
早田(人吉下球磨消防組合):当時、河川の水位が上がるにつれて、川沿いを中心とした広報活動がメインになったんですけども、この人流データを見ると、川沿いから少し離れたところにも人がいる。内水氾濫で亡くなられ方もいらっしゃいますので、そういったところも、「まだここに人がいるんだな」というのがわかるとですね、より広報の精度が高くなってくるのかなというふうに思います。
早田(人吉下球磨消防組合):赤で囲んであるところ、ここが紺屋町、中心地なんですけれども、ここのあたりがどうしても、令和2年の豪雨災害では広報としては優先順位が低かったのかなと思います。この人流データをもとにしたら、判断材料になると感じます。
紺屋町エリアでの救助の様子
捧(NHK):関本さん、こういった人流データを見て、何か生かせる点、課題は感じますでしょうか。
関本(東京大学):災害時の人流で滞在人数が多いところに、もちろん割合的には高齢者とか、要支援者の方がいる確率は高いと思います。避難行動要支援者名簿などとセットで活用するというのが大事ではないかと思います。
牛山(静岡大学):人吉市さんや消防の方に伺いたいんですが、先ほど佐山先生からのご説明にもありました、長時間先の予測について。2020年7月3日午後3時の時点での予測に基づくと、深夜から未明にかけてですね、氾濫危険水位を越えるような状況が21ケース中3ケースくらいあると。確率的な言い方だと「15パーセントくらいの確率で洪水が起きそうだ」と。その場合に、なるべく早い段階での呼びかけを行うとなると、その情報で何か積極的な対応がとれるかどうかという辺り。率直にご意見がいただけると非常に参考になると思うんですがいかがでしょうか。
鳥越(人吉市防災課):その当時、そういった予測情報が日中にあれば、早期の呼びかけはできたと思います。今は最悪の想定で判断して、情報を出すようにしています。最悪の場合を想定して情報を出さないと人命を守ることができないというところがございます。
牛山(静岡大学):どれくらいの頻度まで、早期に避難情報などを出せるかというところが、非常に関心をもたれるところです。例えば避難準備を呼びかけるような状況はですね、年に1回くらいはいけそうなのか。あるいは、出水期ですと毎月1回くらいでもいけそうなのか。そのあたりについてはどのような感触を持っているのでしょうか。
鳥越(人吉市防災課):高齢者等避難以上を、昨年は6回出しております。
牛山(静岡大学):レベル3以上の避難情報が6回ということですね。それで実際に住民の行動っていうのは、「避難情報発令の頻度が高すぎて対応しきれない」とか、「これくらい当然」とか、その辺りの反応はいかがでしたでしょうか。
鳥越(人吉市防災課):令和2年の7月豪雨災害を受けて、市民の方々もシビアになっていまして、昨年については多くの方が避難をされておりました。
牛山(静岡大学):ありがとうございます。これまでのいろいろな災害例では、被災した直後は皆さん警戒心が高く積極的な対応をされるけど、時間が経ってくるとなかなかそれが難しくなってくるといったこともあるように聞いています。今後どうなっていくかという辺りが、人吉市さんもなかなかこれから難しいところかと思いますが、その辺りの取り組み等をですね、ぜひ全国に向けていろいろ発信していただくと大変参考になるんじゃないかと思いました。
佐山(京都大学):長時間の予測情報というのをどういうふうに活用するかということですが、例えば「テレビを見ていてください」ということだけでもですね、発災前日の夜くらいにみんなに伝わっているとだいぶ状況が変わるんじゃないかと思います。夜中に避難指示が出るなんて想像もせずに夜11時位に寝てしまうと。で、雨が夜中に降り始めて、避難指示が出ているけど寝てたらそれがわからないですよね、普通は。で、気がついたらもう家の周りが浸かっていたという実態があったかと思います。スマホへのプッシュ型通知でもいいですし、テレビでもいいけれども、とにかくちょっと、「今日は流石にヤバそうなのでテレビは見ておこう」とか、そういうふうに伝われば、避難準備という意味でも価値があるんじゃないかなとは思います。
やっぱり本来洪水警報とか、そういったものが役割を果たすべきだと思うんですが、おそらく経緯からして、洪水警報とかはかなり広域に頻繁に出るということで、なかなかその具体性を持って、「本当にこの家の周りが危なくなる」という実感をちょっと持てないですよね。だんだんと洪水予測情報が良くなってきていますから、より具体性を持った、「川が溢れるのか溢れないのか」とか、そういった情報に換算・変換した上でその可能性を住民の方にうまく伝えられる仕組みができるといいんじゃないかと思いました。
牛山(静岡大学):より具体的な、「どこでどんなことが起きそうなのか」という情報。早い段階ではピンポイントでというのは難しいかもしれませんけれども、可能な範囲でですね、「具体的にどこがどんなふうに危険になりそうなのか」って情報を伝えることができれば、これは非常に有効な話と思います。佐山先生にご指摘いただいた、「テレビだけでも見ておいてください」という呼びかけ、これも非常に重要なポイントと思います。最近気象庁はですね、どこでどのくらいっていうとこまで確度は高くないけれども、「非常に激しい現象が起きそうだ」というような場合には全般気象情報というのを出して、例えば「大気の状態が非常に不安定になっていて、西日本で大雨になりそうだ」というもの。一般的な情報のように聞き流してしまいそうですけども、そのフレーズが出てきて、しかもNHKその他全国メディアがそういう情報を伝える時っていうのは気象庁が非常に緊張感を持っている時な訳なんですよね。それがまさに佐山先生のおっしゃる「テレビ等で少し注意を向けておいてください」という、最初のトリガーになると思うんですよね。
それに加えて個々の地点において、どんなことが起きそうなのかという情報が伝えられていけばですね、様々な生かし方があると思います。内閣府のガイドラインは全般を通じてですね、「こういう情報が出たらこうしなさい」という書き方ではないんです。例えば「これこれの条件に該当した場合には警戒レベル3、高齢者等避難を発令することが考えられる」というようなフレーズになっています。つまり何か、国が命じてるというわけではなくて、やはり基本的には現場・各市町村が、それぞれの手持ちの情報をもとにして、最終的には判断をしていくと。そこが重要なんだっていう精神が非常に流れているわけなんですね。
現実にはいろいろ、ガイドラインを命令であるかのように理解されている方がいて、守らなかったことを責めるような風潮も一部あるんですけど、私はそれは適切でないと思います。やっぱり各市町村が自律的に、「これはまずいな」と思ったら各市町村の持てる力ですね、情報を伝えるツールもそうですし、判断の材料もそうですけど、そういったものを生かして判断し、それを伝えていく。それが基本中の基本だと思います。ですから、今回話に出ました、水位の予測が仮に実用化されてきたとすれば、全国一律ではなくて、個々の自治体ごとにそういった情報を生かして、自治体の判断につなげていくということ。これは非常に重要と思います。
今日、佐山先生にいろいろ丁寧にご説明いただきましたけれども、こういった予測情報は振れ幅が大きいわけなんですね。あるいはこの情報をどう見たらいいのか、どのくらい確からしさがあるものとみていいのか。水位の高さもですし、空間的な位置・場所の問題もそうですけども、こういう高度な情報は、「どう読んだらいいか」が、特にふだん使い慣れていない人からするといろいろ誤解を生じやすい。ですから、こういう高度な情報になればなるほど、その情報を作った人、あるいはその情報を送っている側と受け止める側がちゃんとコミュニケーションを取って使っていくというのが大変重要になってくるんだと思います。「高度な情報が出ればそれですぐに解決」というものではないわけでありますから、その情報を使うためにどう、専門家、情報出す側と使う側がやりとりができていくかというところ。ここがとても重要になってくるところかと思います。
捧(NHK):ありがとうございます。お時間をいただき本当にありがとうございました。引き続きこういった取り組みを継続していきたいと思っております。引き続きお力添えいただければ幸いです。