2022/11/28

【世界初】植物は会話していた!?
人には見えない“生き物の別世界”を可視化した!

よく耳にする「生物多様性」という言葉。でも私たちは、それが本当はどういうことなのか、まだ知らないのではないか。生き物たちは、厳しい生存競争を繰り広げる一方で、種を超えて複雑につながり合い、助け合って生きている。“人間は最も進化した生き物だ”という思いこみをやめて、生命の星・地球を支える「生物多様性の本当の姿」を見つめたい。

 

そんなテーマを掲げて制作された、NHKスペシャルの大型シリーズ「超・進化論」。番組では、これまで見ることができなかった生き物たちの驚くべき世界を、映像化することに挑んでいる。植物がまるでおしゃべりするかのようにコミュニケーションをしている様子や、幼虫からまるで違う成虫の姿へと大変身するサナギの中の透視映像は、世界で初めて撮影されたものだ。私たち人間にはこれまで見えていなかった、生き物たちの世界…。そこには、私たちと生き物たちとをつなぐ大切なカギが隠されていた。

(NHKスペシャル「超・進化論」ディレクター白川裕之)

 

(※本稿は11月6日放送「NHKスペシャル 超・進化論」取材班が制作した記事を紹介しています。)


堺雅人さん「僕らの知らない世界がある、という喜び」

 

NHKスペシャル「超・進化論」の中で、生き物たちが主役の不思議なドラマの収録現場に迷い込む、という設定で登場する堺雅人さん。思いもよらない新たな世界を知ることになる。

 

堺さんは、収録の時に私たちにこう話してくれた。

「(番組のストーリーを知るにつれ)自分が見ていなかった新しい世界があるんだ、というのがどんどん分かってくる。僕らの知らない世界があるというのが、喜びとして伝わってきた。まだまだ豊かなんだと」

 

だるまさんが転んだ_184.JPG

そう、私たちの目の前には、未知なるすばらしい世界が広がっている。

 

しかし、身の回りの自然にどれだけ目を凝らしても、その世界は見えない。なぜか。不思議な世界は、「目に見えないところ」にあるからだ。

 

この「目に見えない世界がある」ことが、私(筆者)がこの企画を着想した原点だ。

 

きっかけは、「植物がコミュニケーションをしている」という研究だった。植物が、周りの植物や虫たちと、何らかの情報のやりとりを行なっている。そうした科学的な知見が集まり始めていることを最初に知ったのは、15年以上も前だ。とても興味深い話で、心の中にずっと残っていた。ただし、目に見えない営みである。映像で表現する対象として特に考えることはなかった。

 

しかし、月日を経て、違う思いが湧き起こった。「目に見えない」ことこそが、重要なのではないか。ここからプロジェクトはスタートする。シリーズ放送開始の5年前のことである。

 

目に見えない世界にこそ、真実がある

 

私は、京都大学生態学研究センターの髙※たか林純示さんを訪ねた(※「たか」ははしごだか)。日本の植物コミュニケーション研究の第一人者である。髙林さんらの研究の出発点には、ある謎があった。

 

例えば、あるテントウムシは、小さなハムシの幼虫が大好物でそればかりを見つけ出して食べる。こうした、虫が虫を捕まえるという一見当たり前のような事象に、実は不思議があるという。

 

「(小さなハムシを見つけ出すテントウムシは)例えて言えば、広い砂浜の中に落とした一粒の真珠を探すぐらい難しいことをやっている。どうしてそんなことができるのか、これは長い間謎だったわけです」

 

08植物とコミュニケーションする虫たち

その謎を解くカギは、意外にも、「植物」にあった。

 

ハムシの幼虫が大好物のヤナギの葉を食べたとき、ヤナギが「ある物質」を放出して、テントウムシを呼び寄せていることが、髙林さんらの研究から分かったのだ。なんとその物質は、「ハムシの幼虫に食べられている」という情報をテントウムシに伝える“メッセージ”になっているという。

 

「虫は自分の力だけで食べ物を見つけているのではなかったんですね。植物が発する“声”を聞くことで初めて、獲物にありつくことができているわけです」(髙林さん)

 

まさに、目に見えないやりとりこそが、自然界の営みを司っている。

 

「食う・食われる」という、目に見える関係を、メッセージを伝える物質のやりとりという、目には見えない生き物同士のコミュニケーションが支えているのだ。

 

ep01_01

陸上の他の生き物たちについても取材を広げてみると、植物だけでなく、昆虫や微生物もまた、目に見えない形でコミュニケーションをとり合いながら生きていることが分かってきた。生き物たちの営みのほとんどは、目には見えないところで繰り広げられているという当たり前とも思える事実と、今一度向き合った。

 

私たちは、分かったような気になってはいないか。自分の目を通して見ている、この世界を。

 

見えない世界にこそ、生き物たちの営みがある。科学の最前線を追うことで、その見えない世界の一端を描き出すことはできないものか。その志からプロジェクトは始動した。

 

今回、専門家の全面協力により、植物同士がコミュニケーションをしている様子を、2年がかりで初めて鮮明に撮影することに成功した。

 

植物コミュニケーション

(左虫に食べられた植物 (右)虫に触れられてもいない植物

実験協力:筑波大学 木下奈都子

 

撮影した実験の映像では、例えば虫に食べられた植物は、虫にそれ以上食べられないよう防御の反応を起こすことが確認できた(実験上は、特殊なタンパク質を使って、防御反応が起きると明るく光るように工夫した)。そして、驚くべきことに、その後、少し離れた所に生えた、虫に触れられてもいない植物まで、なぜか光り始めたのだ。そう、これこそが、植物の“おしゃべり”の証拠。最初の植物が、「虫がいるぞ!」と少し離れた所に生えた植物に伝えている。そのコミュニケーションの様子が初めて映像でとらえられたのだ。 

 

最先端の科学を駆使し、見えざる世界に迫ることで、かのチャールズ・ダーウィンが「進化論」を唱えた時代には分からなかった、新たな世界が見えてくるのである。

 

人類はまだ知らない!「食う・食われる」だけじゃない、本当の“地球のルール”

 

生き物が感じている“もうひとつの世界”とは?

 

NHKスペシャル・シリーズ「超・進化論」の企画の出発点の一つは、「生き物たちの営みの大半は、私たち人間には見えていない」ということ。

 

そしてもう一つが、「生き物たちは、人間とは違うやり方で世界をとらえている」ということだ。人間の目線から脱却して、生き物たちの目線、生き物たちが感じている“もうひとつの世界”に近づきたいというアプローチだ。

 

しかし、生き物たちは、一体どのように世界をとらえて生きているのか。

 

企画を立ち上げてしばらくたってから、一つの興味深い研究が一流科学誌サイエンスに発表された。論文の筆頭著者は、埼玉大学の豊田正嗣さんだ。植物の葉が虫に食べられたときに、どのような反応が起こるのかを映像化することに見事に成功していた。

 

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研究室を訪ねると、豊田さんはこちらの企画をいたく気に入ってくれた。植物がどう感じているかというアプローチは、私たちの狙いとぴたりと重なっていたものだから、豊田さんと私はすっかり意気投合。お会いしたその日に、人の手で触れたときや雨粒が降ったときなどに植物が示す反応をいかに可視化していくかについて議論した。

 

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ほかにも、植物の「感覚」とも言うべき、周りの環境を感知する能力の研究が進んでいることが分かってきた。アメリカ・トレド大学のハイディ・アペルさんのグループは、「植物が、音(=振動)に反応する」という新しい知見を発表していた。アペルさんが明らかにしたのは、虫が葉をかじる音に対して、植物が防御の反応を起こしているという事実だ。アペルさんに話を聞くと、彼女はこう語った。

 

「植物には、間違いなく“音”を感知して反応する能力があります。その一つが、身の危険を知る上で重要な、葉をかじる“音”なのです。植物には目もなければ耳もない。人間が持つような感覚器官を持っているわけではないため、私たちは彼らの能力を過小評価してしまうのです」

 

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目も耳もなく、動くこともない彼らは、「ただ黙って立っているだけの、鈍感な存在」にも思える。しかし、最先端の研究者たちからすると、むしろ逆で、植物は動けないがゆえに、周囲のあらゆる環境の変化を、時に動物以上に敏感に感じ取って対応している可能性があるというのだ。

 

わずかずつ見えてきた、人間とは異なる「植物たちが生きる世界」。実は、さらにもっとすごい別世界が、“意外なところ”に広がっていた。次章で見ていこう。

 

究極の別世界 それは地下に広がっていた!

 

私は、海外の複数のグループが、森の地下に注目して驚きの研究成果を報告していることに目を留めた。まさに私たちがこの目で見ているだけでは、まったく気づくことのできない、思いも寄らない別世界だった。

 

それは、森の地下には、木と木をつなぐ巨大な菌のネットワークが存在しているという事実だ。この目に見えない地下でのつながりは、遺伝子解析技術によって明らかになってきた。数十メートル離れた植物どうしが、同じ菌糸(細い糸状の菌)のネットワークでつながっていることが、遺伝子の解析から分かるのだ。

 

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それだけではない。植物が光合成で得た養分が、その菌糸のネットワークを介して、他の植物へと送られているという研究結果が発表されていたのだ。この「見えないつながり」は、葉に特殊な二酸化炭素を吸わせて、それをマーカーとして追跡して調べる技術によって判明した。

 

そんな世界中を驚かせる研究結果を発表した一人、イスラエル・ワイツマン科学研究所のタミル・クラインさんは、結果を得たときの興奮を私たちにこう語ってくれた。

 

「最初に結果を見たときは、何かの間違いではないかと心底驚きました」

 

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どうやら、植物たちは、お互いに同じ菌糸のネットワークにつながることで、生きるのに欠かせない養分などを時にシェアしていることが分かったのだ。例えば暗い森の中で生きることさえままならない小さな幼木は、大きな大木の地下で育まれた菌糸のネットワークにつながり、そのネットワークを通して栄養を得ることで、生き残れる可能性があるのだ。

 

あれ? 植物は、隣の植物と、栄養を取り合っていたのではなかったのか? 生存競争をしているのではなかったのか?

 

競争か、助け合いか

 

番組の取材を通して少しずつ見えてきた、生き物たちの見えざる世界。そこから浮かび上がってくるのは、生き物同士の「想像を超えたつながり」である。

 

植物だけでなく、昆虫や微生物など多くの生き物たちは、化学物質を使ったコミュニケーションによって、互いに情報をやりとりしている。彼らの情報を媒介するのは、人間が用いるような音声言語ではなく、「メッセージを伝える物質」である。

 

生き物の世界で、私たちのように音声言語を使ったコミュニケーションは、むしろ少数派。この地球上には、人間の耳には聞こえない膨大なコミュニケーションが、存在しているのだ。

 

01植物たちの見えざる世界を映像化する

コミュニケーションに限らず、生きるために欠かせないさまざまな物質が、生き物同士の間でさかんにやりとりされている。生き物たちは、個を超えて、種を超えて、周囲の他の生き物と、見えないネットワークで複雑につながって生きている。

 

命は、個で存在しているのではない。多くの生き物は、自分以外の周囲の生き物たちによって支えられている。

 

ダーウィン以来の生物学の常識、「進化論」を考える。それは厳しい生存競争の中で、有利なものが生き残り、子孫を残すという、“進化のルール”だった。最新の研究から明らかになってきたのは、そのルールの奥に隠された、驚くほど深遠なしくみだ。

 

詰まるところ、この世は競争。結局、弱い者は生き残れない。そう思われがちだが、実際にはそれほど単純ではない(そもそもダーウィンが考えていた「生存競争」は、もっと広い意味をもつものであり、単なる「弱肉強食」の意味ではない)。

 

実際、個々の生き物同士は、奪い合ったり競い合ったりして生きているばかりではない。競争は、エネルギーを多く消費してしまう。また、自分だけが良ければいいという、周りを排除するような生き方は、むしろ生き残れる確率が低くなる。

 

超進化論KV

競争するよりも助け合ったほうが、命をつなぐことができる。だからこそ、つながり合い、助け合う関係性が地球上にはあふれている。もちろん彼らには、“助ける”というような考えも目的もない。しかし、結果として、今の地球にはそうした周囲との“支え合いのルール”が横たわっていることが見えてきた。

 

生き物同士がつながり、助け合うように生きる、見えないネットワーク。その一端を私たちは、まだ分かり始めたばかりだ。

 

「超・進化論」に関する記事はこちら

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