「ファミリーシップ宣誓制度」。皆さんはご存じですか?
同性のカップルなどを「結婚に相当する関係」と認めるパートナーシップ宣誓制度はこれまでもありましたが、同居する子どもも家族として認める制度です。
カップルが「宣誓書」などを市役所に提出すると、家族と証明するカードが発行され、パートナーの子どもが保育所に入る手続きなどが代わりにできるようになります。
この制度はことし7月、九州・沖縄の自治体で初めて、福岡県古賀市が導入しました。
この制度を利用する一組の「家族」の姿を見つめました。
(2021年9月~10月取材)
古賀市のある1組の家族
「いただきます!」
古賀市でファミリーシップ宣誓制度を利用する明日香さん(仮名・30代)家族です。
パートナーの碧さん(仮名・30代)とそれぞれの子どもあわせて7人で暮らしています。
明日香さんと碧さんの2人はいずれも元夫と離婚。互いに悩みを聞くうち、付き合うようになりました。明日香さんには子どもが2人、碧さんには3人いて、それぞれの子どもを連れて一緒に暮らし始めました。
制度でできることは?
明日香さんは、この制度に入ったことで、病院で聞くことができなかった碧さんの子どもの病状説明も受けられるようになったと言います。
明日香さん
「パートナーの子どもの病歴などは本人から聞いていますが、先生(医師)から聞いていないので、そこを聞けるのはありがたいです。普通なら、第三者は知り得ない情報になりますので。」
ただ、この制度に法的な効力はありません。カードを示すことでパートナーの子どもの親として可能になるのは、保育所に入る手続きなどに限られています。
2人が抱えた苦悩
明日香さんは、なかなか周囲から自分たちの関係を理解されず悩んでいました。明日香さんが、碧さんの子どもの面倒を見るため家に帰りたいと会社の上司に申し出た際、心ない言葉を言われ、傷つくこともあったと言います。
明日香さん
「当時の上司に『友人の子どもなんだからあなたの身内じゃないでしょ』と言われました。泣きましたね。職場でガンガン泣きました。本当に心底思います。これ(制度)があったら違っただろうな。」
碧さん
「私の中ではもう家族同然と思ってた中で、社会的にそういう認識なのだと悲しかったですね。やっぱり、自分の感覚だけじゃだめなのだなというのが、すごく思いました。」
公に認められてうれしい
そのため、この制度に入って1番うれしかったのは、公に家族として認められたことだと言います。
明日香さん
「小学校で、先生に『あーおめでとう』みたいに、拍手までいただきました。ありがたいことに、みなさんウェルカムしてくれてますね。」
明日香さんは、子どもたちに尋ねました。
「ファミリーシップ。私の子どもになるよ。いいですか?」
「(そろって)うん!」
「なんでよかったと思う?」
「きょうだいみたいやけん」 「楽しそう!」 「きょうだいがもっと増える」
碧さん
「この制度を通して、家族で話し合った時に、子どもたちが素直に家族になれることがうれしいって思っているのが分かったのが、1番うれしいですね。」
導入した古賀市は
導入した古賀市は、この制度が多様な家族を支援する一歩になればと期待しています。
古賀市役所人権センター 男女共同参画・多様性推進係 劉洋さん
「やはりこの制度は多様な生き方、多様な家族を応援するという面において、非常に大きな意味があると思います。実際にどれだけの行政サービスを利用できるかは、現在の法律上の制限があってなかなか難しいですけど、いろんな市町村に広げていただいて、全ての人が生きやすい社会、自分らしく生きていける社会になったらとてもいいと思います。」
取材後記(NHK福岡 記者・若林諒太)
古賀市には実際にいくつかの自治体から、この「ファミリーシップ宣誓制度」を導入したいと問い合わせが来ているそうです。この取材を通して、家族として周りから認められたこと、子どもたちとも家族なのだと再認識できたこと、そうした気持ちの面が大きいと明日香さん家族が話していたのがとても印象的でした。
日本では同性のカップルは法律上結婚が認められていませんし、この制度で受けられる行政サービスも限られています。それでもこうした制度を通じて誰もが暮らしやすい社会の実現に向けた一歩になればと思います。