新型コロナの感染拡大が続き、大学では教育への影響が長引いています。いま、大学ではどのように学びの場を確保しているのでしょうか。対面とオンライン、それぞれメリットやデメリットがある中、大学側と学生側の声を取材。学びの多様性を模索する大学のいまを取材しました。(2020年12月取材)
(NHK名古屋ディレクター立野真央)
■どの授業を対面にするか。進む“基準づくり”
愛知県春日井市にある中部大学は、7つの学部がある私立の総合大学です。学生数は約1万人。
中部大学では現在、教養科目や一部のゼミなどの授業をオンラインで実施しています。コロナ禍の中でオンラインと対面授業のバランスを模索しながら、どの授業を優先して対面にするのか、基準づくりを進めてきました。
通常キャンパスに滞留している学生数は6000〜7000人。大学側はその半分、3000人をめどに対面授業を行うことにしました。大学が最優先にしたのは、実習や実験などオンラインでは効果が得られにくい授業でした。
現代教育学部幼児教育学科の授業の様子です。
この授業では、幼児教育の内容を生徒どうしで発表します。音に合わせた体の動かし方を生徒がグループで考えます。言葉だけではなく、身体的なコミュニケーションも求められる授業は、オンラインでは代替できないと教員も生徒も感じています。
学生「子どもと関わっていく職業になるので、人と関わりながら授業を受けられるのがいいなって思います」
実習や実験、演習など、オンラインでは代替できない授業のほかにも、中部大学では
・大学生活に慣れていない1年生の科目
・語学など、基礎的な科目
を優先的に対面授業にする方針を決定。加えて専門科目では、各学科へのアンケートをもとに優先順位を決定していきました。
中部大学副学長・杉本和弘さん
「コロナでありながら、授業の質をどう保証していくかというのが、いちばん大きな、われわれにとってのテーマです」
■学内でもオンライン授業。進む環境整備
学生の家が大学から離れている場合、対面授業に続いてすぐに家でオンライン授業を受けることは困難です。そこで、学内にオンライン授業を受けられる場所を確保している大学もあります。
名古屋市立大学では、Wi-Fiや充電用タップを整備した教室を準備。手指の消毒やマスク着用、換気などの感染予防対策を取りつつ、学内でもオンライン授業をスムーズに受けられるよう環境整備を進めています。
■見えてきたオンライン授業のメリット ~愛知県内の大学アンケートより~
番組が愛知県内の大学に行ったアンケートでは、オンライン授業には次のようなメリットがあると回答が得られました。(2020年11〜12月実施。愛知県内32校からの回答)
[大学側の声]
・授業を見直すよい機会となった
・資料配布・回収の効率化ができた
[学生側の声]
・1対1で質問ができる時間が増えた
・チャットの方が質問しやすい
■オンライン化で教育の多様性を広げる
コロナ禍で得たオンライン教育の技術やノウハウを学部生の教育以外に活用する大学も出てきています。
こちらは、愛知県立大学で開かれた市民向けの公開講座です。会場ではおよそ20人、オンラインではおよそ50人が参加しました。これまでは実際に足を運ばなければ受講できませんでしたが、オンライン授業にすることで遠方に住む人や感染に不安のある高齢者なども参加できるようになりました。
愛知県立大学では来年度以降も、新型コロナの感染状況にかかわらず、市民向け公開講座の配信を継続する方向で検討しています。
愛知県立大学教授・宇都宮みのりさん「対面を残しながら、オンラインの良さも検討していくという意味で、選択肢が広がったというふうに思います」
コロナ禍で急速に進んだ教育のオンライン化。その知見は、日本の教育の多様性を広げる可能性も秘めています。
NHK名古屋は、子どもを取り巻く課題と解決のため継続的に取材しています。
新型コロナウイルス対策でマスクをする機会が増えたことで、聴覚に障害のある子どもたちが学ぶ「ろう学校」では、口元の動きが見えず、授業がわかりにくいという問題が起きています。
新型コロナウイルスの影響で学校行事が中止あるいは縮小される中、愛知県で最も人口の少ない村にある全校生徒24人の豊根村立豊根中学校は昨年11月、3時間半にわたるプログラムを生配信する「オンライン文化祭」を開催しました。
「自ら学ぶ力」をどう育む?~コロナで問われる子どもの学び(前編)~
新型コロナウイルスは、子どもたちの学びにも大きな変化をもたらしています。専門家が行った調査によると、2020年春の一斉休校期間中に高校生が学習した時間は、1日わずか2時間。さらに、62%の生徒が、「何をして過ごせばよいのかよくわからない」と答えました。
「自ら学ぶ力」をどう育む?~コロナで問われる子どもの学び(後編)~
中国地方の教育現場の例からポストコロナの新たな“教育像”を考える2回シリーズ。オンラインと学校(対面授業)で学ぶ「ハイブリッド型授業」を取材した前編に引き続き、後編では広島県の小学校で進む、「自ら学ぶ力」を育むための先進的な取り組みをお伝えします。
大阪府立西成高等学校。この高校のユニークな取り組みが、大きな注目を集めています。その名も「反貧困学習」。格差と貧困の連鎖を断ち切るために始まった、先生と生徒たちの挑戦を取材しました。