2021/8/27

「自ら学ぶ力」をどう育む?~コロナで問われる子どもの学び(後編)~

中国地方の教育現場の例からポストコロナの新たな“教育像”を考える2回シリーズ。オンラインと学校(対面授業)で学ぶ「ハイブリッド型授業」を取材した前編に引き続き、後編では広島県の小学校で進む、「自ら学ぶ力」を育むための先進的な取り組みをお伝えします。

 

 

「自ら学ぶ力」を育む試み
②何を学ぶか、子どもたちが決める小学校

 

 まず取材したのは、広島県福山市にある高島小学校です。5年生の算数の授業が、少し変わった方法で行われていました。

 

 先生「今日はみなさん何をします?」

 

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 先生が一方的に決めるのではなく、「学び」をどう進めるかを子どもたちに委ねます。

 

 実は広島県は、全国に先駆けて「学びの変革アクションプラン」を進めています。知識を伝えるだけではなく、自ら深く考え、新しい答えを創り出すための実践が各自治体の現場で行われているのです。

 

 考えるテーマは、児童たちが話し合いながら、自分たちで決めていきます。先生はあくまでもサポート役。児童たちに指示をすることはほとんどありません。

 

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 この日の授業は「円と正多角形」について。児童たちは、「円周率はなぜ 3.14になるのか」という問題を自分たちで設定しました。

 

 まずは、身の回りの糸などを使って実際に円周を測りながら、計算していくことにしました。

 

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 しかし、測った数値は、3.14になかなか近づきません。

 

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 結局、疑問は解けないまま、この日は時間切れになってしまいました。しかし、休み時間になっても、なぜ違った数値になるのか引き続き話し合っています。

 

 「もう一回やる?」「でも着替えんといけん」「25分までやる!」

 

 先生から与えられたものではなく、自分たちの疑問だからこそ、児童たちは粘り強く答えを導き出そうとしていました。

 

 この他にも、一斉休校中に登校してきた児童たちが、自ら時間割をつくって学習するなど、学び方に変化が起き始めていると言います。

 

 我妻育子校長(当時)「どのように学んだら自分の疑問が解決できるかなと、自分で考えて、自分たちで答えを導き出していく。子どもたちがこれからの人生で生きていくための選択というか、自己決定につながっていく力になるのではないかと思います」

 

 

 

「自ら学ぶ力」を育む試み
③校則も、子どもたちの手で変えていい

 

 また、学校の運営をも、子どもの主体性に委ねようという取り組みも進んでいます。福山市にある久松台小学校では一昨年度、子どもたちの手によって校則が大きく変えられました。

 

 例えばこれまで、持ち物については、筆箱の中身は鉛筆5~6本、色ペンは3色など、細かく決められていました。しかし、5・6年生の児童たちが中心になって2か月にわたって議論。新しい校則では、「学校生活に必要なものを自分で考えて持ってくる」と改められました。

 

 これまでおよそ60個あった細かいルールが16個にまで減少したのです。

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 当時、議論の中心になったのは 5・6年生の児童でした。

 

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 Aさん「自分の思ったとおりじゃない校則だったけど、自分たちで考えて決めることで、自分が過ごしやすく、みんなも過ごしやすい学校になったかなと思います」

 

 Bさん「将来、理不尽なことがあっても、ちゃんと伝えたら変わるかもしれないという未来の希望の知恵を学べたと思います」

 

 

 清水正憲校長(当時)「子どもたちが生きていくのは学校という社会だけではありません。どんなことが将来、起こるかわからない中で、そこに主体的に関わっていける力をどう育てていくか。学校も頑張っていかないといけないのではないかと思います」

 

 

 

ポストコロナの学校とは?

 

 子どもたちが自分たちで主体的に学ぶ学び方で、基礎学力全体をカバーできるのか。こうした疑問に対して熊本大学教育学部の苫野一徳准教授は、実は画一的なカリキュラムや一斉指導が中心の授業の方が学力保障の妨げになることが多くの研究からわかっていると語ります。

 

 苫野准教授「みんな同じペースで、同じことを勉強させられると、ついていけない子や逆に簡単すぎてつまらないという子が必ず出てきてしまいます。その点、自分のペースで自分に合ったレベルの“学び”ができ、しかもそれを先生や仲間がしっかり支えてくれる。そうした環境を整える方が、一人ひとりの学力をしっかり保障できるということがわかっています」

 

 そして、「学び」を自分ごとと捉えることの大切さについて、次のように話してくれました。

 

 「大事なのは、高島小学校や久松台小学校のように自分たちが“学び”の主役なんだというこういう感性をしっかりと支えて育てることですね。そうすると、“学び”が自分ごと(自分の事)になって学力保障もより力強くできるようになると考えられています。今の子どもたちは日常生活のほとんどを、大人が決めた大人時間で生きている。誰かの決めたスケジュール、誰かの時間を生きるのではなく、自分の時間をめいっぱい生きて、自分のやりたいことを見つけて探求していく、そういった時間を私たちが保障する必要があるなと改めて思います」

 

 

 

 

取材後記(NHK広島放送局ディレクター 髙橋 弦)

 今回取材を進める中で、たびたび耳にしたキーワードがあります。「Build Back Better(よりよい復興)」という言葉です。「新型コロナ前の状態に戻すのではなく、今回の“痛み”をきっかけに、よりよい学校をつくりたい」そうした教職員たちや教育委員会の方々の気概に触れた取材でした。

 また、新型コロナの影響が続く中でも、みずから前向きに学びに向かおうとする子どもたちの姿には大きな勇気をもらいました。一方、「大人である自分は、主体的に学び、考え、行動できているか」という問いを突きつけられたようにも思います。学校や子どもの学びについて考えることは、私たち大人にとっても大切な気づきをもたらしてくれるのだなと感じました。これから学校はどうなっていくのか、引き続き取材を続けたいと思います。

(2021年3月)

 

前編はこちら>「自ら学ぶ力」を育む試み ①オンライン+学校で学ぶ「ハイブリッド型授業」

 

2021年2月11日放送 特集番組「ポストコロナの学校を描け!」より

取材 NHK広島放送局ディレクター:髙橋 弦、記者:秦 康恵

NHK 広島放送局ホームページ

 

 

コロナ禍でろう学校に変化

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新型コロナウイルス対策でマスクをする機会が増えたことで、聴覚に障害のある子どもたちが学ぶ「ろう学校」では、口元の動きが見えず、授業がわかりにくいという問題が起きています。

 

 

 

「ICT先進村」が切りひらく新しい学びの可能性

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新型コロナウイルスの影響で学校行事が中止あるいは縮小される中、愛知県で最も人口の少ない村にある全校生徒24人の豊根村立豊根中学校は昨年11月、3時間半にわたるプログラムを生配信する「オンライン文化祭」を開催しました。

 

 

貧困の連鎖を断て!西成高校の「反貧困学習」

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大阪府立西成高等学校。この高校のユニークな取り組みが、大きな注目を集めています。その名も「反貧困学習」。格差と貧困の連鎖を断ち切るために始まった、先生と生徒たちの挑戦を取材しました。

 

 

 

オンラインと対面 学びの多様性を模索する大学

模索する大学7サムネ.JPG新型コロナの感染拡大が続き、大学では教育への影響が長引いています。いま、大学ではどのように学びの場を確保しているのでしょうか。対面とオンライン、それぞれメリットやデメリットがある中、大学側と学生側の声を取材。学びの多様性を模索する大学の今を取材しました。

 

※NHKサイトを離れます


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