2021/8/27

「自ら学ぶ力」をどう育む?~コロナで問われる子どもの学び(前編)~

“何をすればいいか分からない”子どもたち

 新型コロナウイルスは、子どもたちの学びにも大きな変化をもたらしています。専門家が行った調査によると、2020年春の一斉休校期間中に高校生が学習した時間は、1日わずか2時間。さらに、62%の生徒が、「何をして過ごせばよいのかよくわからない」と答えました。

 

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 「自ら学ぶ力」を子どもたちが身に付けるために、学校や授業はどうあるべきなのか。前・後編の2回にわたり、中国地方の教育現場の例からポストコロナの新たな“教育像”を考えます。

 

 

「自ら学ぶ力」を育む試み 
①オンライン+学校で学ぶ「ハイブリッド型授業」

 国は2020年度、教育の情報化のために、およそ2500億円の予算を計上しました。2021年3月中をめどに、全ての公立小中学校に1人1台の端末が配備され、公立高校でも順次進められていく予定です。

 

 その一方で、オンラインではカバーできない「学校の役割」に向き合い始めた高校があります。岡山県立林野高等学校です。林野高校は4年前から1人1台のパソコンを使った授業に力を入れています。去年の一斉休校中には、他の学校に先駆けて完全オンラインの授業も実施しました。

 

 しかし、一部の生徒から意外な声が寄せられました。それは、

 

「オンライン授業は普段の学校の授業よりも自分には合っていた」

 

「家なのでリラックスして臨むことができた」

 

 というものでした。オンラインの授業があれば、学校はいらないのではないかという、根本的な問いを突きつけられたのです。

 

 学校のICT活用を担当する瀬田幸一郎先生です。

 

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 瀬田先生「オンラインでもある程度授業が成り立つ中、わざわざ学校に来て、みんなが集まって授業を受ける。そこに、どういう学びがあるのか。学校の存在意義というか、生徒たちがわざわざ学校に来て勉強する意義が問われているのかなと思います」

 

 そこで、瀬田先生が現在、力を入れて取り組んでいるのが、オンラインと学校(対面授業)、それぞれの長所を組み合わせた「ハイブリッド型」と呼ばれる授業です。

 

 化学の時間をのぞいてみましょう。授業の開始とほぼ同時に、実験が始まりました。事前説明がほとんどないにもかかわらず、生徒たちは手際よく作業にとりかかっています。

 

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 実は授業の前日、生徒たちは、事前に瀬田先生が作成し配信した「実験手順の映像資料」をもとに自宅でオンライン学習していたのです。

 

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 これによって、学校の授業では、単に知識を伝えるのではなく、生徒同士で実験の意味を議論し、なぜこうした結果になったか考えを深めることに時間をさくことができます。

 

 生徒の一人に聞いてみると、「自分で考えて学べるので、ハイブリッド型の方が勉強になると思います」と話してくれました。

 

 国は、ハイブリッド型授業で「知識の習得」と、話し合いを通して考えを深める「協働的な学び」を繰り返すことで、主体的に考え、課題を解決する力などが育まれるとしています。

 

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 瀬田先生「友達やグループ、クラス全体で話し合いながら授業を進めることで、新しい考え方に触れ、自分の持っていない考え方に出会えることは必ずあると思うので、そういった学校でしか得られない学びを感じてもらいたいなと思います」

 

 新型コロナが、「学校での学びのあり方」を変えていく大きなきっかけになると、熊本大学教育学部の苫野一徳准教授は言います。

 

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 苫野准教授「学校教育はだいたい150年くらいの歴史がありますが、これまであまり大きくシステムは変わってきませんでした。つまり『みんなで同じことを同じペースで、同じようなやり方で、言われたことを言われたとおりに勉強する』というシステムです。このことが、学びを“自分ごと”としてとらえ、自ら取りに行くものなんだ、というマインドを子どもたちからいくらか奪ってきてしまったんじゃないかなと思います」

 

 「公教育の原点は、すべての子どもたちが自由に生きるための力を確実に育むことです。今こそ、自分たちで問いを立ててみんなで話し合う、対話を重ねながら自分たちの答えにたどり着く、そういった経験を保障することが求められていると思います

 

 

 このように主体的に考え、問題を解決できる子どもを育てるためには、小さな頃からの教育が重要になります。続く後編では、広島の小学校で進む、「自ら学ぶ力」を育むための先進的な取り組みをお伝えします。

(2021年3月)

 

後編はこちら>「自ら学ぶ力」を育む試み ②何を学ぶか、子どもたちが決める小学校

 

2021年2月11日放送 特集番組「ポストコロナの学校を描け!」より

取材 NHK広島放送局ディレクター:髙橋 弦、記者:秦 康恵

 

 

 

コロナ禍でろう学校に変化

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新型コロナウイルス対策でマスクをする機会が増えたことで、聴覚に障害のある子どもたちが学ぶ「ろう学校」では、口元の動きが見えず、授業がわかりにくいという問題が起きています。

 

 

 

「ICT先進村」が切りひらく新しい学びの可能性

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新型コロナウイルスの影響で学校行事が中止あるいは縮小される中、愛知県で最も人口の少ない村にある全校生徒24人の豊根村立豊根中学校は昨年11月、3時間半にわたるプログラムを生配信する「オンライン文化祭」を開催しました。

 

 

貧困の連鎖を断て!西成高校の「反貧困学習」

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大阪府立西成高等学校。この高校のユニークな取り組みが、大きな注目を集めています。その名も「反貧困学習」。格差と貧困の連鎖を断ち切るために始まった、先生と生徒たちの挑戦を取材しました。

 

 

 

オンラインと対面 学びの多様性を模索する大学

模索する大学7サムネ.JPG新型コロナの感染拡大が続き、大学では教育への影響が長引いています。いま、大学ではどのように学びの場を確保しているのでしょうか。対面とオンライン、それぞれメリットやデメリットがある中、大学側と学生側の声を取材。学びの多様性を模索する大学の今を取材しました。

 

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