2021/8/27

貧困の連鎖を断て!西成高校の「反貧困学習」

大阪府立西成高等学校。この高校のユニークな取り組みが、大きな注目を集めています。その名も「反貧困学習」。格差と貧困の連鎖を断ち切るために始まった、先生と生徒たちの挑戦を取材しました。(「逆転人生」ディレクター渡辺秀太)

 

かつては「教育困難校」と言われた西成高校

 西成地区は古くから非正規労働者や貧困家庭が多く、親から子へと貧しさが受け継がれる「貧困の連鎖」が問題になってきました。その中で、「どうせ自分なんか・・・」と学びへの意欲を失ってしまう子どもも少なくありません。その「西成」という地名がついた高校・西成高校を訪れてみると、そこに現れたのは‥・。

 

 

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西成高校の様子(2020年9月撮影)

 

 

 「こんにちは~。」

 ニコニコと挨拶をしてくれる生徒たち。

 

 見ず知らずの私に、生徒たちから先に挨拶をしてきてくれたのです。昔はかなりの教育困難校だったと聞いていたこともあり、正直言って面食らいました。「えっ?えっ?」 と脳内が混乱しつつ、山田勝治校長の取材に臨むと、私の心を見抜いたのか、こうおっしゃいました。

 

 「みんな、いい子たちでしょ?」

 

 

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授業を見て回る山田勝治校長(2020年9月撮影)

 

 大阪・西成区と聞いてイメージするものーー。

 新聞やテレビ番組などで伝えられる釜ヶ崎のドヤ街の様子や、そこで暮らす日雇い労働者の姿が頭に浮かぶ人も多いのではないでしょうか。私自身もそのようなイメージをもっていました。

 

 その後、先生方や生徒たちを訪ねて西成の街を歩くうち、私が抱いていたイメージは大きく覆りました。普通と変わらない、どころか、むしろ優しくて思いやりのある人が多かったのです。番組に出演してくれた卒業生の堀田賢さんは、「西成というとみんなあれこれ悪いこと言うけれど、優しい人が多いんです」と教えてくれました。

 

 

改革の中心は「反貧困学習」。学びへの意欲を取り戻せ!

 15年前、山田先生が教頭として赴任した時、この地区出身の子どもたちが多く通う西成高校は、荒れに荒れていました。生徒たちの多くは学校への不信感から先生と敵対関係にあり、年間100人近くもの生徒が、学校を辞めていたのです。

 

 新しい風が吹き始めたのは翌年。人権教育に長けた前比呂子校長を迎え、本格的な改革が始まります。前校長は生徒や家庭の実態調査を通して「こどもの貧困」が荒れた学校と関係することを突き止め、「格差の連鎖を断つ」ことをミッションに掲げました。ここから高校としては異例のプロジェクトが始まったのです。

 

 その改革の中心となったのが、「反貧困学習」です。総合学習の一環として行われるこの授業では、生徒たちに自分が置かれた状況を意識させることから始まります。生まれ育った家庭のこと、格差や貧困が連鎖する社会の現状を理解し、そこに立ち向かう主体として自らを自覚する。その上で、労働者の権利や社会保障制度などを学び、将来を切り開く力を養います。

 

 反貧困学習は貧困当事者である生徒たちの琴線に触れ、失われていた学びへの意欲をかきたてました。先生と生徒が貧困問題を共に考えることで、信頼関係を取り戻すことにも成功しました。次第に非行や中退が、減っていったのです。

 

 

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西成高校での授業の様子(2020年9月撮影)

 

 私は堀田賢さんをはじめ、西成高校に通っていた卒業生たちを取材しました。育児放棄された人。母子家庭で育った人。そして自らもシングルマザーになった人。まだ高校生だった彼らの苦しみや悲しみは、想像を絶するものがあります。貧困の闇に飲み込まれ、夢も希望も持てず、絶望していたのです。でも西成高校で先生方の熱意に触れ、彼らは大きく変わっていきました。いま20代後半となった彼らのまっすぐな生き方に、私は胸を打たれました。「学び」の大切さを改めて教えてくれる、貴重な取材となりました。

 

 

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西成高校の卒業生・堀田賢さん

 

 

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西成高校の卒業生・上田円さん

 

 

 番組は、当時の先生方のご協力も得て、西成高校の逆転劇を丁寧に描きました。コロナ禍で教育のあり方が問われる今、子どもたちの学びのために何ができるのか、考えるきっかけになればと願っています。

 

 

逆転人生

 逆転人生「貧困の連鎖を断て!西成高校の挑戦」

 2021年1月25日(月) 放送[総合]

 第58回ギャラクシー賞選奨 受賞番組

 

 

 

コロナ禍でろう学校に変化

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新型コロナウイルス対策でマスクをする機会が増えたことで、聴覚に障害のある子どもたちが学ぶ「ろう学校」では、口元の動きが見えず、授業がわかりにくいという問題が起きています。

 

 

 

「ICT先進村」が切りひらく新しい学びの可能性

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新型コロナウイルスの影響で学校行事が中止あるいは縮小される中、愛知県で最も人口の少ない村にある全校生徒24人の豊根村立豊根中学校は昨年11月、3時間半にわたるプログラムを生配信する「オンライン文化祭」を開催しました。

 

 

「自ら学ぶ力」をどう育む?~コロナで問われる子どもの学び(前編)~

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新型コロナウイルスは、子どもたちの学びにも大きな変化をもたらしています。専門家が行った調査によると、2020年春の一斉休校期間中に高校生が学習した時間は、1日わずか2時間。さらに、62%の生徒が、「何をして過ごせばよいのかよくわからない」と答えました。

 

 

「自ら学ぶ力」をどう育む?~コロナで問われる子どもの学び(後編)~

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中国地方の教育現場の例からポストコロナの新たな“教育像”を考える2回シリーズ。オンラインと学校(対面授業)で学ぶ「ハイブリッド型授業」を取材した前編に引き続き、後編では広島県の小学校で進む、「自ら学ぶ力」を育むための先進的な取り組みをお伝えします。

 

 

オンラインと対面 学びの多様性を模索する大学

模索する大学7サムネ.JPG新型コロナの感染拡大が続き、大学では教育への影響が長引いています。いま、大学ではどのように学びの場を確保しているのでしょうか。対面とオンライン、それぞれメリットやデメリットがある中、大学側と学生側の声を取材。学びの多様性を模索する大学の今を取材しました。

 

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