宮崎県日向市にある、創業21年の清掃会社。
ハウスクリーニングからビルのメンテナンスまで幅広い仕事を担い、およそ90人が働いています。
正社員は11人。そのうち8人が女性です。業界の平均は2割ですが、それを大きく上回っています。
さらに、管理職の7割を女性が占めるなど、女性の登用を積極的に進めています。
清掃会社 社長 税田和久さん
「男性だから女性だからとかあまり意識はしていない。うちの会社は女性活躍とかそういうレベルっていうか、もう当たり前になっている。」
入社4年目、正社員として働く山本瑞貴(やまもと みずき)さんです。
この日の現場は、大型スーパー。
夜の営業を終えたあと、清掃作業を始めます。
山本さんが扱うのは大型の機械。重さは300キロもあります。
山本さん
「重さ自体はすごく重量があると思うんですけど、動かし方は慣れると、女性でも簡単に使えます。」
以前、大型機械を扱っての清掃は、男性だけが行っていました。女性は主にハウスクリーニングを担当。
しかし、引っ越しシーズンなどの繁忙期以外は仕事が少なく、男女で業務量に偏りが生じていました。
そこで、この会社は男性と女性で仕事を分けることをやめ、女性にも大型機械の操作を覚えてもらうことにしました。
当初は戸惑った山本さんですが、3日ほどの練習で操作を習得。
今では、大小さまざまな機械を使いこなしています。
山本さん
「大型機械を回すとかって男の人の仕事ってずっと思っていたけど実際やったら、全然できるし、私の中でいまは考えが変わってなんでもできるみたいな、もう男女とか関係ないと今は思っています。」
元々アルバイトとして入社した山本さん。今では正社員として営業や社員のシフト管理なども担うようになりました。
男女の仕事を分けないようにしたことで、女性の活躍の機会が増えています。
さらに、以前は残業が多かった男性の負担も軽減されました。
一人ひとりがライフスタイルに合わせて働けるようになり、男女ともに育児休業取得率100%を達成しています。
清掃会社 社長 税田さん
「男性しかやっていないところを女性がどんどんできるようになれば、職域の差がなくなってシフトの調整もバランスよくできるようになりました。一人ひとりが活躍して自分の可能性で最大限に発揮できる、そういう会社にしたいなと言うふうに思いますね。」
さらに、この会社では、正社員になりたいと希望するパート社員や契約社員に対して、研修制度を整えています。
資格の取得や必要なスキルを磨くための様々なカリキュラムを設け、普段の仕事をしながら受けられるようになっています。
例えば、経理事務では、パソコンソフトの操作スキルや簿記検定などの資格取得。
清掃業務では、専門的な技術の資格取得や、現場のリーダーを務めるための講習などがあります。
研修にあたっては、社長が自ら社員と面談を行い、方向性を話し合うようにしています。
清掃会社 社長 税田さん
「本人の、苦手をスキルアップするっていうよりはどちらかというと、得意分野をさらに伸ばしてほしいっていうのがあって、それで自信を持ってその次のステップを踏んでもらいたいなっていうふうには思っています。」
山本さんは、去年の4月から半年間、キャリアアップの研修を受けました。
山本さん
「(このような制度は)前の会社では全くなかった。この会社に入って具体的なスキルアップの説明を受けてこれを受けたら正社員になれると思って。これはやれるかもなと。」
以前、保険会社に勤めていた山本さんは、その経験を活かすことにしました。
営業部門の研修を選び、この会社における顧客との対応のポイントなどを学びました。
山本さん
「保険の営業のときは、お客さんがわりと慎重といいますか、やっぱり形のないものを売るっていうのはすごく難しいなと思っていたので研修とかいろいろ受けさせてもらって、今まで以上に接客はすごく得意になったのではないかと思います。」
入社して4年、着実にキャリアアップしている山本さん。家庭では、2人の子どもを育てる母親でもあります。
育児をする人が仕事と生活の両立を図れる仕組みも、この会社は整えています。
この日、山本さんは仕事を他のスタッフに引継ぎ、早めに自宅へ帰ることにしました。
それぞれの現場はチームで動き、社員が互いの仕事をカバーし合える体制をとっているからです。
帰宅した山本さんは、翌日に部活動の大会を控えた娘のためにユニフォームを仕立て直し始めました。
最近では、子どもたちも家事を協力するようになったと言います。
家庭と両立しながらいきいきと働く山本さんを、夫の正太(しょうた)さんも、応援しています。
夫 正太さん
「自分の天職っていう感じで働いているんじゃないですか。こっちもサポートができればサポートしたい。」
山本さん
「大変なんですけど明日も頑張ろうみたいな。みんながなんでも挑戦してなんでもやってみて失敗したらまた反省して頑張ってみて、そういう社風で、それがやってて充実しているなっていうのがあります。」
ただ働きやすいというだけでなく、家庭と両立しながらキャリアアップを図れる会社作りを行う社長の税田さん。
かつて人手不足に悩んだ経験から、社員一人ひとりが力を発揮しながら長く働けることが大切だと考えています。
そこで掲げるのが、「ダイバーシティ経営」です。
「ダイバーシティ」とは「多様性」のことですが、障害のある人や引きこもりだった人などを積極的に採用し、協力し合いながら働ける環境づくりを進めています。
「多様な人材が相乗効果で大きな力を生み出すことを期待しているそうです」と税田さんは言います。
【取材後記 NHK宮崎 ディレクター・齋藤 吏恵】
今回、取材に協力していただいた山本さんは、以前13年勤めたスーパーを結婚・出産をきっかけに退職したそうですが、「同僚に恵まれ、やりがいもあり、できれば仕事を続けたかった」と話していました。私の知人でも同じようにキャリアを積んでも家庭の事情で仕事を諦めざるを得なかった、という声を聞きます。
一方、山本さんが働く清掃会社の社長・税田さんは、女性がキャリアの途中で辞めてしまうことは会社にとっても働く本人にとっても損失と考え、長く働ける環境づくりに取り組んできました。
そんな税田さんの言葉でとても印象的だったのが、「ライフワークバランス」。一般的には「ワークライフバランス」と言われますが、税田さんにとっては「ワーク」より「ライフ」が先。「家庭や生活に会社が合わせられるようにしたい」という考えを、その言葉に込めたそうです。この会社の取り組みは、これからの働き方を考える上で様々なヒントに満ちていると感じました。
私は宮崎出身でずっと宮崎で働いていますが、誰もが無理なくキャリアを重ねながら働ける職場が地元に広がり、自分らしく活躍できる同郷の女性が増えていってほしいと思っています。