2024/4/11

「不登校から始まる学びとは?」(後編)

 学校に行かなくなった子どもたちはどう学んでる?  ~「決められた目標」ではなく「ボトムアップ式」で

▶不登校30万人の時代の“学び”

 2022年度の小中学生の不登校の数はおよそ30万人(202310月文部科学省)。10年前の倍以上になりました。学校に行かなくなった子どもたちのために、文部科学省も教育支援センターや学びの多様化学校(旧不登校特例校)の拡充、フリースクール等の民間施設との連携を進めるなど様々な支援を行っており、学校以外に学べる機会や場所は少しずつ増えてきました。

 前編の記事「傷つき、疲れ切った時期から回復まで」では、不登校の初期、スイッチが切れたようになり、何もできなくなって、人と会うことも怖くなった子どもたちが、回復するまでの道のりについて取り上げました。

後編では、充分な休養と遊びを得た子どもたちが、その後どのように学んでいくのかを見ていきます。前編でお話を伺った古山明男さんが講師を務めるフリースクール「まなびスペースCOCOCARA」を取材しました。

※文中の年齢や学年は、取材した2024年1月現在のものです。

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▶「学ぶ場所が必要だった」

 千葉市にあるフリースクール「まなびスペースCOCOCARA」。住宅街にある一軒家で週に3日ほど開けています。小学1年生から中学2年生まで15人が在籍しています。

(※2024年1月時点)

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代表の漆原幸子さんのお子さんは、学校に行かなくなった時、前編の記事で紹介した「森でどんじゃらほい」という外遊びの場に通っていました。定期的に顔を合わせるようになり、仲良くなった子どもたち。漆原さんは他の保護者たちいっしょに週に1回、学びの場を開くようになります。しかし次第に物足りなくなり、もっと一緒に何かをできる場所を作りたいと思うようになったといいます。

 漆原さん「やっぱり子どもの育ちの場として、それから子どもの学びの機会を保障していくという意味合いでは、日数も時間も足りないと、スタッフの私達が思い始めたということが、1つありました。それから子どもたちが‟次会えるのいつ?“と言うようになったりとか。子どもたちのためにもう少し頻回にフリースクールを開けないかなと思いました。」

こうして、フリースクールを開設するに至った漆原さん。一軒家を借りて、週に3日ほど活動するようになりました。午前中は希望者が参加する学びの時間、それ以外は自由に好きなことをして過ごします。臨床心理士としてのキャリアがあり、社会科の教員免許を持つ漆原さんは、子どもたちが育っていく様子を見て「自由な遊びは自己形成にも深く関わっている」と考えるようになりました。

 

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漆原さん

「たぶん子どもの育ちの本筋というのは遊びにこそあるだろうなと思っていて。これが好きっていうことだったり、これがやりたいっていうことだったり、これが今日は作りたいから作るとか、頭の中に素敵なイメージが湧き起こったりするとそれを絵にしてみたいとか、それを実際にお人形ごっこで表してみたいとか、それってその子どもにとっての内なる欲求ですし、それは情熱ですよね。なので自分の“やりたい、好き”という情熱からやることは結局、その子の芳醇な体験となり、自己形成の核になっていくのだろうと思うんですよね。子どもたちにも、ここは学ぶことと遊ぶこと両方大事にするフリースクールなんだよと一番に伝えています。」

 

 自由に遊べる時間を保障された子どもたち。近所の公園で遊んだり、カードゲームやボードゲームをしたり、好きなように絵を描いたり、おままごとをしたり、十分に遊んできました。すると、3年目に入ったあたりから求めることが少し変わってきたといいます。

 

 

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漆原さん

「それまではじゃれ合ったりとか、何かしらのルール遊びみたいなのをやったりとか、直接的な遊びとか相手と関わること自体がすごく楽しかったし、すごく満足も得られていたと思うんです。

 でも今、思春期に差し掛かった子たちは特にそうなんですけれど、そういう関わり合いだけではなくて、自分自身が何をやりたいかとか、自分がどう生きていきたいかとか、自分のアイデンティティみたいなものの形成時期に差し掛かっているんじゃないかと思っています。一部の子どもたちはもう少し学習がしたいと言うようになり、自分で自宅学習を進めている子もいますし、中学を目の前にして自分の進路をどうしようかと考えるようになっている子もいます。恐らくですけど、自分が安心できる場に身を置いて、自分がありのままの姿でそこにいられることが主体性みたいなところに繋がっていくと思います。ここに長く通っている子どもたちは、そこはもう十分担保されている、満たされている状態が出来上がりつつあって、じゃあ次のステップとして自分が何をやりたいかみたいなところに目が向くようになってきてるんじゃないかなと思います」

 

▶「やりたい・学んでみたい」を実現する

 新年度のある日、これからどんなことを学んでいきたいかを話し合うミーティングが行われていました。

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漆原さん「今年はこれをやりたいなと思うことありますか?」

 子どもたち

「社会科見学!」

「権力について学ぶ」

「グループレッスン。何人かでやりたい項目、たとえば歴史をやりたい人がいたら集まって複数人で授業を受ける」

「防災教育を自分もうちょいやりたい」

「お金のお勉強」

「高校受験の勉強をしなければ!」

 

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このあと漆原さんは、子どもたちの希望を実現するために奔走。お金の勉強、防災教育、一人ひとりの進度に合わせた個別学習など、それぞれに対応できる先生を探し当てました。

 

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<ファイナンシャルアドバイザーによる「お金のお勉強」>

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<「お金のお勉強」 ジンバブエの紙幣を見ながらインフレについて学ぶ>

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<「防災教育」 実際に震災が起きた場合にどうするかをシミュレーション>

 

「防災教育をもっとやりたい」と提案したのは、中学2年生のかいりさんです。外遊びの時には、よく火起こしをして遊んでいました。そこから、泊りがけで野山に行って行うサバイバル体験が趣味になりました。

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<外遊びのときに火起こしをするかいりさん>

 
かいりさん

「災害が起きた時、どういうふうに逃げればいいかとか動画を見てたら興味が湧いてきて。サバイバルにもたぶんそこは繋がってくると思って。元々火おこしが好きで、薪割ったりタープ建てたりとかロープとかが好きなので、そこから興味が湧いてきてっていう感じです」

 学校では「読みたくない本も読まないといけなかったのが嫌だった」というかいりさん。しかし防災教育の授業を受けるうち、防災士の資格取得を目指したくなり、今は自分でテキストを読んで勉強をしています。防災のことだけでなく、英語や数学、歴史も学びたいと語るかいりさん。数学は動画やテキストを使って勉強するのがやりやすいと、自分なりの方法で学んでいます。

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 かいりさん「学校だと、時間に縛られてこの時間はこれをしてこの時間はこれをしてと、全部決まってて。でもここでは勉強やりたい人はずっと勉強やっててもいいみたいな、自由な時間がある」

 

▶「国語」はクイズと対話から

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<千葉大名誉教授 首藤久義さんの国語の授業>

 

 この日は、新しい授業が始まりました。千葉大学名誉教授の首藤久義さんによる「しーちゃんのCOCOCARAこくご」。首藤さんは漢字字典の編纂などもされてきた国語教育の専門家で、古山さんの知り合いでもあります。「本格的に国語を学びたい」という思いが湧いてきたCOCOCARAの子どもたちにも授業をしてもらいたいと、漆原さんが依頼しました。首藤さんは、自らを「先生ではなく、学びの支援者、ラーニングサポーターです」と自己紹介して授業が始まりました。

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第1回目の授業は、クイズをやりました。ただし出題者は子どもたち。首藤さんが答えます。出題形式は口頭での説明でも、絵でも、ジェスチャーでもなんでもOK。出題者は首藤さんが正解できるまでヒントを出し続けるというルールです。まずは小学5年生のあやかさんが出題しました。

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あやかさん「たんすの裏で亡くなったザリガニの名前は?」

首藤さん「たんすの裏で亡くなったザリガニの名前。名前がついてるのね?じゃあ“ザリ”」

あやかさん「あーちがう」

首藤さん「漢字でも書ける?」

あやかさん「自分は知らない」

首藤さん「そうか。漢字にすると難しいのか。一応存在はしてる。カタカナね?カタカナ何文字ですか?」

あやかさん「3文字」

首藤さん「3文字ね。ええと3文字のカタカナで一番最初に何が付きますか?」

あやかさん「メ」

かいりさん「あ、わかった!わかりましたわかりました。メロン!」

あやかさん「正解!」

首藤さん「メロンちゃん。漢字で書くとどういう字なんだろう。メロンて」

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そばにいた中学1年生のおとさんが自分のスマホを取り出して調べ始めました。おとさん「あ、これだよこれ~」首藤さん「瓜っていう。甘い瓜っていう意味だね多分」

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クイズを考えて表現したり、ヒントについて回答者とやり取りしたり・・・多様な対話が、新たな学びと相互理解につながるのだと首藤さんは言います。

 

▶フリースクールの学びを記録する

フリースクールは公的に認められた学校ではありません。そのため、フリースクールでは卒業資格を与えたり、成績を出したりすることはできません。子どもたちは地域の公立学校に籍を置いたままになっています。ただ最近では、在籍している学校の校長の判断によって、フリースクールでの出席が「在籍校の出席」として認められる場合が増えてきました。その場合、フリースクールで学んだことの「記録」を提出するよう求められることがよくありますが、フリースクールでの学びは、学校の学習のスタイルとは大きく異なるため、記録するのが難しいと言います。

 

漆原さん

「フリースクールでやっている活動は、簡単に測り切れないものがすごくあります。それなのに「〇〇をやった」とか「●●の授業をやっている」ということを書いた報告書の提出を重視されるところがあります。実際に活動をやっている中で子どもたちがどういうふうに育っているのか、人間性がそこでどう育まれていくか、みたいなことは「何をやっているか」みたいなことだけでは測れないし、それだけでは全然その子の発達を伝えきれないというところがあったんです」 

 ところが数年前、困っている漆原さんたちのもとに、学びの記録ができるアプリを開発したいという人が現れました。エンジニアとして働く梶原勇希さんです。梶原さん自身も、学校での学びが合わず、独学をしながら博物館などのワークショップを活用して専門知識を身に着け、飛び級で大学に入ったといいます。梶原さんの担当教授から「とても優秀だが大学に来ないしどうしたら良いのか分からない」と、COCOCARAの講師の古山さんに相談があったのが知り合ったきっかけだそうです。

 

梶原さんと古山さん名前あり

梶原さん

「僕は課題を忘れたりやってこなかったり、授業中に別のことをしていたりして問題児だったんですけど、中学高校とそれを理解してくれる先生がいたので不登校にはならずに済みました。でも、基本的に学校で勉強するっていうことにあまり意味を見出せなくて。結局僕は中学高校はロボットコンテストの部活を自分で立ち上げて大会に出て。今仕事はエンジニアをやっているんですけれど、エンジニアのスキルというのも基本的にはその中学高校の部活の中で培ったこと。今ではそれが生きる糧になっているところがあるので。一部の変わった才能を持っている人間にとっては、学校に行くというよりはもうちょっとこう違うところで学ぶという選択肢があってもいいのかなと思います」

 

 梶原さんが友人とともに開発したアプリは、「活動の記録」をしていくものです。

 

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 まずは活動の種類を選びます。「生活」「運動」「ことばで表現」「読書・映画・YouTube」「自然・生物」「社会」「乗り物」「実験・工作・原理」「絵画・アート・映像」「ゲーム・コンピューターゲーム」「パズル・算数」「コンピュータ・プログラミング」「音楽・ダンス」「オンライン学習・通信教育・参考書」。

 

スクリーンショット アプリのカテゴリ

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たとえば、「生活」を選ぶと「料理」「衣服」「掃除」「育児・ペットのお世話」などの詳細な内容が選べるようになっています。お昼ご飯を作ったのであれば、「料理」。クイズで学ぶ国語の授業をした日は、「ことばで表現」から「対話・討論」を選ぶ、というわけです。写真や動画、テキストも記録しておくことができます。

 

 

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一人ひとりが何をどのように学んだのか、何年にもわたって記録できるこのアプリ。利用する人数が増えればデータが蓄積され「〇歳ごろにこんな活動をしていた子どもは、〇〇という進路を選択し、〇〇という職業に結びついていく」という傾向もわかるようになります。「子ども自身が選んだ学び」が将来にどのようにつながるのかが分かるようになるのではないかと、梶原さんは期待しています。

梶原さん
「これからという段階ですけど、年数とか人数がたまっていったら、このカテゴリーのこういうことをやっている子は、こんな本を読んでいるらしいよ、こういうふうな職業について、こういうふうな大人になるらしいよ、という統計めいたものがある程度取れるようになってくるので。学んでいる姿勢、学んでいる過程そのものが新しい道しるべになっていくんじゃないかと思っています」

 

 

▶取材後記

 学びスペースCOCOCARAは、まだ開校して3年目のため、ここを卒業して大人になった人はまだいません。ですが、学校に行かなくなり、COCOCARAで行われている学びのような、子どものやりたいことから始まる学びを積み重ねてきて大人になった人たちは既にたくさんいます。

 古山さんの教えてきた子どもたちの中には例えばこんな人たちが。

■スケートボードに熱中。自分のフォームを撮影して研究したり、道具も作る。中学・高校は行かずに17歳で高卒認定試験のための勉強を開始。その後、物理に興味を持ちAO入試で大学に進み大学院まで行きエンジニアに。

■小学3年生から学校に行かず、家庭を拠点にさまざまな社会資源を利用して学ぶホームエデュケーションで育ち、音楽など様々なことに夢中になり、中学は離島留学。その後音楽の専門学校へ。

■ホームエデュケーションで育ち、伝統工芸の職人に弟子入り。

 学校の学び方に慣れ親しんだ者からすると「決まったカリキュラムをやらずに興味のあることから学び始めて大丈夫なのか?」と心配になりますが、学校に行かなくなった子どもたちに、予め決められた学習を無理にやらせようとしたところで、前編の記事にあるように、追い詰められてスイッチが切れてしまった子どもたちは、まずはやってみたいことから始める以外に動き出すことが出来ない場合が多々あります。

 一方で、他者からソフトに、或いは厳しく強制されて学ぶのではない「子どもから始まる学び」。不登校を経験した子どもたちの学びをみると「本当に学ぶってどういうことだろう?」と考え直さざるを得ません。

 記事の最後にご紹介した「学びの記録」は「学習履歴」というものですが、テストをしたり他の子と比べてその子どもの達成度合いや能力を評価する成績表とは異なり、「何をしてどんなことをどんな様子で学んだか」を記録していくものです。これまでの学びが、決められた到達目標に向かっていくものだとしたら、学習履歴が表すフリースクールの学びは、「今の時点」から積み重ねる学びで、時間がたつとそれが蓄積されて形になっていくボトムアップ式の学びです。私たちのよく知っている「カリキュラム」という言葉は実は馬車の轍(わだち)を意味する「クレレ」というラテン語から来ているそうで、本来はその人の「履歴」とか「経歴」という意味だったそうです。フリースクールの子どもたちが行っている「積み上げていき、後になって振り返ると軌跡が分かる」ような学びを表すための学習履歴が、実はカリキュラムの元々の意味に近かったことになります。

 子どもに何かを強いるのではなく、子どもから始まるものを支えていく。そこから見えることに、とても本質的なことがたくさん詰まっているのではないかと、改めて思いました。

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