2024/2/3

学校外の“学び場”とつながり、新しい教育のカタチを作れるか?
信州型認証フリースクール制度の挑戦

不登校の小中学生が30万人に達する中で、学校以外の学び場の必要性が高まっています。
長野県では全国に先駆け、民間が運営するフリースクールなどの「学びの場」と行政が連携し、すべての子どもに学ぶ機会を保障する制度の検討を始めました。
新たな制度づくりの中で、これまでの公教育をとらえなおす大きな変革の可能性も見えてきました。(「“学校”のみらい」 ディレクター 山浦彬仁)

 

 

不登校の子どもが増える中、「安定した子どもの居場所」「学び場」を行政が支える

 

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2023年4月、長野県で「信州型フリースクール制度」の創設に向けた検討会議が発足しました。全国的に不登校の小中学生が増えるなかで、長野県の小中学校では、令和3年度時点で4707人が不登校となり、前の年より20%近くも増加して過去最多でした。こうした中で、民間で運営されてきたフリースクールや居場所を公的に位置づけ、支援する「認証制度」を新たに導入しようと検討会議を立ち上げたのです。

 

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これまでフリースクールは、利用者からの月謝などで運営費がまかなわれていて、財源が安定していないといった運営上の課題がありました。
この認証制度は、一定の要件をみたしたフリースクールに、県が補助金を出すなどし運営をサポートします。さらに、学校に行かない子どもたちが、自分に合ったフリースクールを見つけられるよう、情報サイトを立ち上げることなどを計画しています。

 

これまでも全国のいくつかの自治体では、フリースクールなどの民間の学び場に補助金などにより支援する取り組みはありました。しかし長野県では補助金を出すだけでなく、フリースクールの運営に関わる人たち同志の交流なども将来的に行っていく計画です。

 

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全国に先駆けて始まったフリースクール認証制度。検討会は、フリースクールや居場所を運営する関係者だけでなく、保護者や学識経験者がフラットな立場で話し合います。検討会の座長を務めるのは信州大学で教育行政学を研究する荒井英治郎さんです。荒井さんは長年、公教育制度のあり方を研究してきました。

 

▼荒井英治郎さん
公教育の原理をもう一度、考え直していきたいと考えています。
これまで長らく日本の公教育は学校しかありませんでした。しかし不登校が30万人にも達する中で、学校以外の学び場を整備することが求められています。こうした時代になった時に、子どもの学ぶ場所が「学校か、学校以外の学び場か」という選択によって、そこで受けられる学びや支援、ケアのレベルが変わってしまうことは問題があるのではないかと思っています。
長野県では、さまざまなフリースクール・民間の学び場が、多種多様な学び場を運営してきました。これまでフリースクールは、まさに言葉通りフリーに「自由」に運営することが魅力で持ち味だった。こうした持ち味を損なうことなく、改めて「学校外の学び場」のあり方を皆で一緒に議論していきたい。多種多様な実践を尊重しながらも、将来的には研修なども行い、行政や学校も関わりながら、ともに子どものための学びや居場所を作っていきたい。こうした連携が広がることによって、これまでは公教育制度の外にあった民間のフリースクールの位置づけが変わる。そのことによって既存の学校教育にも良い変化が起きるのではないかという期待があります。

 

 

「居場所」や「学び」を誰が定義するのか?
新たな制度を作る上で浮かび上がった問題

 

長野県は認証制度を作るにあたって、子どものニーズに応じた学び場とマッチングしていこうと、子どもの学びを重視する「学び型」のフリースクールと、居場所を重視する「居場所型」の二種類に類型化をすることを考えていました。
しかし信州型フリースクール認証制度の検討会では、「学び」や「居場所」の定義が難しいと戸惑う声が上がりました。

 

▼フリースクール関係者
学びってやっぱり最も難しい定義で、居場所こそが学びだという運営者もいます。教科学習のような、体験学習のような物こそ学びだっていう捉えかたももちろんあると思うし、居場所・学びという言葉で類型化していくのはとてもシビアなことになってくるのかなと率直に思います。

 

▼フリースクール関係者
フリースクールに来ていることに誇りを感じている子どもたちもいる中で、認証されたフリースクールに来ているっていうのと、自分が通っているところが認証されていないっていうふうにとった時の子どもたちの受けとめが心配。

 

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長野市内でフリースクール信州親子塾を運営している齋藤光代(さいとう・みつよ)さんです。
ここでは、1日の過ごし方は子ども自身が決めています。齋藤さんは一日中ゲームをして過ごすことも、子どもの大切な時間として尊重してきました。

 

▼齋藤光代さん(信州親子塾)
自分のタイミングで自分の好きなことをやっていいんだというのがトコトン享受できる。それが体験出来ると子どもは殻を破って脱ぎ捨ててチャレンジしていく。子ども達の休息する場所でもあり、チャレンジする場所にもなりたいと思ってきました。そのために大切なのは「大人が子どもを引っ張りあげる」じゃなくて「待つ」。もうひたすら子ども一人ひとりのタイミングを「待つ」。

 

齋藤さんも、フリースクール認証制度によってこれまで自由に運営してきたフリースクールの良さが削がれるのではないか、と懸念していました。

 

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▼齋藤光代さん
これまで学校や大人が用意してきた枠に当てはまらない子ども達が集まっているのがフリースクールなのに制度によって枠を作ってしまうと、今までの運営がそのまんまに自由に出来なくなるのではないか。結局、子どものための制度にならないのではないか?
既存の言葉から「あるべき学び場」のイメージが凝り固まっている大人は、うちのような1日中ゲームをやっていてる子どもの姿を見たときに、こんなことさせていていいのか、とか、受け入れられないという方もいっぱいいます。

 

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「認証」をどのように進めるべきか。検討会の座長、荒井さんはフリースクールに足を運び、ヒアリングと意見交換を重ねてきました。この日は、齋藤さん達が運営する、信州親子塾を訪ねました。

 

齋藤さんは、これまで運営が難しかったフリースクールのような場所に補助金などが出る制度が出来ることは歓迎する一方で、制度によって、子どものための施設や取り組みが制限されることの心配があることを、荒井さんに問いかけました。

 

▼齋藤光代さん
不登校になった子ども達は、どうしても自己肯定感が下がったり、エネルギーを失ってしまったりしている子も少なくないです。そこから紐解く時間もとても重要なんです。
子どもが何に困っていて不登校になるのか。子どもにとって本当に必要な場所はどういう場所なのかという議論をしていかないと、第2・第3の学校のような場所が増えていって、結果的に傷つく子どもが増えることにつながってしまうのではないでしょうか?
学び型・居場所型と分けたときに、多くの親御さんにとって魅力的にみえるのは「学び型」で、「居場所」型のように1日ぼーっと過ごすことも出来るような場所が少し、劣っているようにも見えてしまう。本当に子どもに必要な場所を選べるような制度になるのでしょうか?

 

▼荒井英治郎さん
心配されることはすごくよく分かります。行政側が新たにしくみを作ることによって、施設を一方的に評価してしまい、これまでフリースクールで行われていた「豊かな学び」の可能性を制限してしまうことを議論の中で一番重くとらえました。
今回のフリースクールを作ることによって、単に行政が補助金を出すのではなく、学校外の学びの場がどうあるべきなのかという議論を行政側だけでなくフリースクールの関係者も含めて皆で議論したい。
こうした議論をすることによって、フリースクールで行っている学びを、公立学校のあり方を見直すきっかけにもしたい。これまで公立学校として凝り固まっていた概念を打ち破ってフリースクールの実践から得られる事もあるかもしれない。このことで、公教育自体のあり方をアップデートしていきたい。

 

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10月、子どもの居場所やフリースクールの関係者、不登校の子ども、保護者そして学校現場の教職員など50人が集まり、意見交換会が開かれました。学校外の学び場の持続可能な運営に向けて何が必要か。子どもの「学び」をどのように定義するべきなのか。そして今後、学校はどのように変わっていける可能性があるのかなどについて、広く意見が交わされました。

 

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この席に参加した信州親子塾の齋藤さん。これまで長野県内の様々な団体や学校関係者と一緒に議論する機会は、多くはなかったといいます。

 

▼齋藤光代さん
認証フリースクール制度は、すごいチャレンジだと思います。新たな学び場をつくろうと頑張っている仲間が、こんなに大勢居ることが励みになりました。孤独感が軽減されました。私たちも協力しながら、ちゃんと子どものために良い制度を作るために声を上げていかないといけないと感じました。

 

荒井英治郎さんは、これまでの「学び」や「居場所」、「出席」「成績評価」といったこれまで自明のものとしてあった学校や教育にまつわる言葉をアンラーン(unlearn)(すでに持っている知識や価値観などを破棄することで、思考を広げること)していくこと、新たな公教育制度をつくる第一歩だと考えています。

 

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▼荒井英治郎さん
現時点でも悩ましい論点としては学びや、居場所の質をどのように評価するのか?誰が評価するのか?ということです。日本という国では実は未だノウハウがないという状況です。すなわち「学びとは何か」「居場所とは何か」という未知の問いに対しての構想力がない部分があるので、であるならば、今回のフリースクール認証制度は行政だけが作るのではなくて、いろんな現場を運営している方や当事者も含めてひとつの仕組みを作っていきたい。
これまで、誰も公教育制度というものを問い直してこなかった訳ですね。今まで学校一択しかなかったものが、別の学び場も選択肢のひとつとして広く認知されることによって、学校関係者も自分たちの学びや自分の学習スタイル、指導スタイルはこのままでいいのかということを突きつけられる訳ですね。子どもを真ん中において、子どもの育ちや学びのあり方を考えていく。そうして学校関係者も、学校観や子ども観や指導観をもう一度考え直す起爆剤になればいいなと期待しています。

 

 

【取材後記】

ジェンダーや働き方の分野をはじめとして、これまで当たり前だと思われてきた「善い価値」から無意識の偏見「アンコンシャスバイアス」を見直すことが近年、社会に変化をもたらしています。これまで学校にあった、絶対的に守るべきルールや校則、評価のあり方など一つ一つを見直す議論が始まっています。荒井さんがインタビューの中で話していた「これまでの公教育をアンラーンしていく」という言葉が印象的でした。「学びとは何か」「学校のあるべき姿とは何か」といったこれまで問われることのなかった教育の原点に立ち返った議論が長野では始まりました。更に今後はこうした学び場が子どもにとって安全・安心な場所として運営することをどのように担保していくのか。まだまだ学校外の学び場を巡る議論は始まったばかりです。いま日本全体でもう一度これからの時代に必要な学びとは何か。そしてすべての子どもに安心・安全な学びの場をどのように保障していくのかといったことも含めて、みんなで考えていく時に来ていることを実感しました。


📺NHKスペシャル「“学校”のみらい~不登校30万人から考える~」のダイジェスト動画
★フリースクールで学ぶ子どもたち★生徒が自由に学ぶことを決める韓国の代案学校の様子が見られます(※NHKサイトを離れます)



※NHKサイトを離れます

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