海外放送事情

【シリーズ】国際比較研究:放送・通信分野の独立規制機関

第5回 フランスCSA(視聴覚高等評議会)

~放送倫理の確立/その方法と特質~

このシリーズでは、放送規制を検討する上で重要な独立性や透明性の論点もからめて、各国の規制機関の現状や課題を調査している。シリーズ5回目は、ヨーロッパでは最も早く設立されたフランスの独立規制機関CSAについて、その設立の経緯や組織構造を概観した上で、子ども・未成年保護、仏語・仏文化擁護などのための規制について、具体的な制裁の例も示しながら、フランス的規制の特質とその背景を考察する。

フランスの放送は1980年台初頭まで国家が直接管理する体制が続いたが、82年の放送法は「視聴覚コミュニケーションの自由」を宣言し、これによって国家独占の原則が放棄されて、民間からの参入が相次いだ。こうした流れの中でCSAは、放送の自由を保障するとともに放送倫理の確立に努める、政府から独立した機関として誕生した。 評議会のメンバーは9人で共和国大統領、上院議長、下院議長がそれぞれ3人を任命し、この内、委員長については大統領が指名する。アメリカのFCCのように通信に対する権限は持たないが、パリの本部に300人、地方に100人の体制で、コンピューターによる番組保存システムも駆使しながら、極めて組織的、集約的に番組監視を行っている。

制裁に至るケースが多いのは、報道倫理、子ども・未成年保護、それに仏語・仏文化擁護に対する違反である。テレビで放送される映画作品の60%以上がヨーロッパ作品で、40%以上はフランス語の映画でなければならないし、ラジオのポピュラー音楽番組の40%以上がフランス語表現でなければならないと放送法で規定されている。CSAは年間を通じてこの量的規制を監視し、違反した放送局に対して警告したり、罰金制裁を科したりしている。報道倫理や子ども・未成年保護でも厳しい監視が行われ、「何度警告しても過激な性表現を改めなかった」としてラジオ局に対して、2200万円という巨額の罰金を科した例もある。こうした厳しい制裁に対して、放送界や言論界から職権乱用だといった反発や批判も出ている。

背景には歴史的要因として、国家による上からの統制が長く続いたことや、アメリカ映画や日本製アニメの暴力表現や性表現に対して、視聴者が敏感に反応してきたことがあげられる。一方、法的根拠として、 82年放送法に「市民は自由で多元的な視聴覚コミュニケーションを享受する権利がある」という条項がある。これは放送の自由には、送り手の自由もあるが、放送の受け手の自由も大切で、その選択の自由を保障するためには、公的機関による規制が必要だという考え方である。

メディア研究部(海外メディア研究)  新田哲郎