海外放送事情

【シリーズ】国際比較研究:放送・通信分野の独立規制機関

第4回 イギリスOfcom(放送通信庁)

~放送規制と市民/消費者~

このシリーズでは、放送規制を検討する上で重要な独立性や透明性の論点で各国の規制機関の現状や課題を調査している。シリーズ4回目は、イギリスの放送通信分野の独立規制機関Ofcomについて、その組織の成り立ちや役割を概観し、Ofcomの放送規制に焦点をあて、規制の変化を負う。最後に、各国比較の視点でまとめを行い、透明性や説明責任、市民/視聴者の利益の促進という論点で課題を提起する。

Ofcomは、これまであった放送・通信分野の5つの規制機関を統合し、2003年放送通信法を基に、免許の付与、番組規制、市民/消費者の苦情の取り扱いと裁定、新しいメディア政策に関する政府への助言などの機能を果たしている。また、Ofcomの最高意思決定機関である役員会は、会長・副会長を含む非執行役員6人と執行役員3人の合計9人で構成され、非執行役員は、公募制によって候補者が選ばれ、担当大臣が任命するという手続きがとられている。

誰が放送を規制監督するのか、という視点でイギリスの放送規制を歴史的に振り返ると、1980年代に番組苦情処理委員会が法定機関として設置されたことが、外部規制の始まりであり、その後複数の機関が設けられたが、組織の合理化を目的に統合が行われ、最終的にOfcomにすべてが吸収された。外部規制の流れは、公共放送BBCにも波及し、Ofcomは、BBCの番組についても番組コードに照らしてコード違反があったと認められる場合には、制裁として罰金の支払いを命じる権限を持っている。また、融合状況に対応する規制緩和政策の下で、共同規制というシステムが導入された。新しいサービスとして登場したテレビ番組のオンデマンドサービスの提供者らによって設立されたATVODが、2010年3月にOfcomの共同規制者として初めて制度上認められ、 ATVODの加盟社が納める管理料を財源に運営されている。

Ofcomは、会長らの任命に公募制を導入し政治的独立が保障されている。また各種の政策立案や見直しの際に広く意見を募集することで市民/消費者の参加が確保されている。しかし、アメリカのように公聴会が義務付けられていない点や、意向の吸収は行うが、決定の理由説明は不十分である点から、透明性や公開性に問題がある。また、Ofcomは「市民と消費者の利益の促進」という目的を持っているが、放送の質や多元性・多様性の確保と言う「放送の公共性」は、どのように保障されるのかが不透明と言う問題を抱えていると考える。

メディア研究部(海外メディア)中村美子