海外放送事情

【シリーズ】国際比較研究:放送・通信分野の独立規制機関

第1回 台湾NCC(国家通信放送委員会)

~「政治的独立」をめぐる苦悩~

NCC(=National Communications Commission,国家通信放送委員会)は、通信・放送の融合という世界的な潮流と共に、1980年代以降の台湾政治の民主化を背景に2006年3月に設立された、放送と通信の分野に関する独立規制機関である。アメリカのFCCなどに範を取り、政治圧力から独立した形で放送や通信を管轄する任務が期待されたが、政治的二極対立が激しい台湾において、NCCの歴史はまさに「政治的独立」をめぐって苦悩してきた歴史でもある。本稿では、2010年2月下旬に行った現地調査を踏まえ、NCCが具体的な事案について行った対応とそれに対する関係者の評価を検証しつつ、NCCの今後の課題を考察する。

メディア関係者がNCCにとって最も重要な“使命”と見なしているのは、以下の2点である。1つは、台湾政治が、中国との関係をどう考えるかという基本理念の違いを背景にした「藍」「緑」(藍は与党国民党系、緑は野党民進党系の勢力を指す)の二極対立という構造の下に置かれた中で、政治的独立の立場を守ることである。そしてもう1つは、過当競争にあえぐ放送業界が陥りがちな「過剰な商業主義」による番組の質の低下を防ぐことである。NCCの運営に対する各界の評価をまとめると、「過剰な商業主義の抑制」に関しては、当事者に様々な不満はあるものの一定の利害調整が行われていると言えるのに対し、「政治的独立性」に関しては野党側が強い不満を持ち、十分実現できていないことを示している。例えばアメリカのFCCや韓国のKCCでは5人の委員のうち2人について野党側が推薦できる形になっており、NCCも何らかの形で野党が一部の委員の人選に関与できる制度設計を行うことが、「政治的独立性」についてのコンセンサスを確保するために重要だと思われる。

メディア研究部(海外メディア)山田 賢一