海外放送事情

人々の政治・社会意識とメディアコミュニケーション

~「日・韓・英 公共放送と人々のコミュニケーションに関する国際比較ウェブ調査」の2次分析から~

公共放送は、人々の政治・社会的コミュニケーションのための共通の基盤(公共の広場)を形成するという役割を持っている。しかし近年の多メディア・多チャンネル化とそれに伴って進展している情報行動、メディア接触行動の個人化・細分化傾向の中、公共放送がその本来の役割を果たすことが難しくなってきているのではないかと言われる。

今年3月に実施した「日・韓・英 国際比較ウェブ調査」の結果データから、人々の政治や社会に対する意識と、公共放送や商業放送、インターネットなどの諸メディアに対する評価や意識との関係性に焦点を当てて2次分析を行った結果、以下のような知見を得た。

2次分析の結果、公共放送の視聴や公共放送への意識・評価(満足度、信頼度、放送内容への評価など)と人々の「政治・社会意識」の間には、特に日本とイギリスにおいて顕著な相関関係が見られる。これは現在もなお、公共放送が人々の公共的コミュニケーションを媒介するという機能を完全に失っているわけではないという可能性を示すものである。
ただし、日本の場合、「政治・社会意識」が高い層の割合は、イギリスや韓国と比べて低く(日37%、英61%、韓66%)、またこの層が、それ以外の層よりもよく視聴する公共放送の番組ジャンルも「ニュース・ニュースショー」と「ドキュメンタリー」という2ジャンルに限られている。NHKが人々のコミュニケーション空間において「公共の広場」を作ることに仮に成功しているとしても、その「広場」は小さく、限定的なものであるという可能性がある。
また、公共放送以外に、人々の「政治・社会意識」との間に明確な相関関係が見られるメディアはなく、インターネットでは「政治・社会意識」の高い層、低い層がともに積極的・能動的に利用するという「二極化」と呼ぶべき傾向が生じている。

メディア研究部(海外メディア)米倉 律
メディア研究部 原 由美子