海外放送事情

アメリカにおけるブロードバンドの普及拡大とニュース接触行動の変容

アメリカではブロードバンドの普及がこの1~2年で急速に拡大し、それに伴って人々のニュース接触行動に変化の兆候が見られる。テレビや新聞ではなく、オンラインでニュース接触する人々が増加しているのである。本稿は、ここ数ヶ月に発表された幾つかの調査結果やリポート等を概観し、変化の諸相と背景、放送メディアへの影響等について考察するものである。

 

アメリカのインターネット普及率は68%(2005年末現在)である。そのうちブロードバンドを利用する人口は過去1年間で30%増加し、1億人を超えた。また都市と地方での利用状況の格差も縮小傾向にある。

非営利の社会調査機関、The Pew Research Centerが今年7月に発表したリポートによると、オンラインで「週3回以上ニュース接触する人」は31%で、テレビや新聞といったニュースメディアと遜色のない水準に近づいている。他方、テレビや新聞で「日常的にニュース接触する」人の割合や平均接触時間は減少傾向が続いている。

こうした中、テレビや新聞などの既存メディア側も、ニュース番組や新聞のオンライン配信、ブログやRSS、ポッドキャスト等、様々な形でインターネット利用者に向けたサービス戦略を拡大させてきている。

ブロードバンド利用の拡大とオンラインでのニュース接触行動の増加は、幾つかの重要な意味や問題を含んでいる。コミュニケーション論的には人々の情報行動や社会的言論空間の多様化・多元化をもたらすポジティブな可能性を持つが、他方、メディア論的にはYahooやGoogleといった少数のメディア資本に情報が集中するという「寡占化」の兆候や、全体的なニュースへの関心の低下といった現象も見過ごされるべきではないであろう。

研究員 米倉 律