海外放送事情

調査研究ノート

韓国「論文ねつ造事件とメディア」

今年1月11日から韓国の検察による捜査が進められているファン・ウソク(黄兎錫)ソウル大学元教授の論文ねつ造事件は,韓国社会を激しく揺るがせた。同問題の真相を明かそうと,いち早く昨年中頃からファン元教授とその研究チームの取材を始めたのは,公共放送の側面も併せ持つ地上テレビMBC(文化放送)の調査報道番組(韓国では「探査報道番組」)『PD(プロデューサー)手帳』である。

しかし、ファン元教授はクローン牛やクローン犬の出産、ヒトの胚性幹細胞(ES細胞)研究などの「輝かしい成果」で、韓国ではノーベル賞に最も近い科学者として期待を集め、国民的英雄でもあった。そうしたファン元教授に関わる、研究用卵子の取得方法をめぐる生命倫理問題や論文のねつ造疑惑に肉薄した同番組に対し,大手新聞や衛星・ケーブルテレビのニュース専門チャンネルを中心とした他メディアや、ネチズン(ネット上の市民)らを始めとした国民,与野党を超えた議員などから加えられた攻撃は激しく,韓国のジャーナリズムが抱える問題をも浮彫りにした。そこで本稿では,『PD手帳』の取材・放送の経緯、それに対するさまざまな反応をたどりながら、韓国メディアの問題点を中心に考察する。

上智大学院 千命載/主任研究員 塙和麿