海外放送事情

公共放送の事業運営と視聴者への「約束」

~ヨーロッパ公共放送の事例から~

直接、視聴者に対してサービス内容などについての「約束」をして、それがどの程度達成されたかを報告する公共放送機関がしだいに増えている。

  1. イギリスBBCの場合: BBCは、政府との協定書に基づいて、1996年に52ページ、合計230の具体項目を含む「約束」公表した。その後BBCの「約束」は、2003年放送通信法の規定に盛り込まれて今日に至っている。
  2. アイルランドRTEの場合: アイルランドでは2002年に公共放送のあり方をめぐって国民的議論が行われたが、RTE(アイルランド放送協会)はそこで受信料の値上げを認められ、その代わりに2003年から50項目弱の「約束」を公表してその達成度について政府の評価を受けることになった。
  3. ドイツARD(ドイツ公共放送連盟)の場合: ドイツの3つの公共放送(ARD、ZDF、ドイチュラントラジオ)も、2004年10月1日に最初の「約束」を公表した。そのうちARDは、初期のBBCのそれとほぼ60ページの「約束」を公表している。内容は、抽象的・具体的併せて「報道番組」「文化番組」……「少数者サービス」など、10分野103項目の約束が示されている。

このように、今公共放送が視聴者に対して「約束」を公表し、その達成度を検証・報告するという方法を採り始めているのは、デジタル時代の公共放送にとっての財源の確保という問題があるからである。公共放送が事業を継続的に行うためには、

  • 第1: 政治からも、商業的諸勢力からも"独立"な放送機関の必要性
  • 第2: 財源としての受信許可料制度
  • 第3: 料額の妥当性

について、受信許可料支払者の理解と支持を得なければならないが、これらは相互に深くからみ合っていて、切り離せない関係にある。

"視聴者主権"時代の公共放送は、

  1. あまねく国内の視聴者に伝達できる
  2. 国民生活に関連する基本的情報を伝える
  3. 政治からも、商業勢力からも独立である
  4. 質の高い番組を放送する
  5. すべての視聴者層に奉仕する
  6. 支払金額に見合ったサービスを提供する

という使命を訴えつつ、公共放送事業を安定的に継続してゆくための財源について、「約束」を通じて広く理解と支持を訴えてゆく以外に道はないと考え始めているようである。

副部長 横山 滋