海外放送事情

公共放送NHKの課題と役割

スマトラ沖巨大地震&大津波と放送

2004年12月26日にインドネシア・スマトラ島西部沖を震源として発生した巨大地震とインド洋大津波は自然災害史上、未曾有の被害をもたらしました。この小論は地震大国日本のNHKが発生直後からおよそ24時間の初動段階で、これをどのように取材・放送したかについて若干の検証を試みたものです。

まず、NHKや在京民放各社、それに外国通信社(APとロイター)が巨大地震と大津波の発生の第一報を伝えた時刻を比較しました。日本のテレビではNHK と民放各社の間に歴然とした「差」が見られたものの、NHKにも反省すべき点がなかったわけではないとの立場から、特に大津波に関する対応上の問題点に言及しました。

次に今回の災害はインド洋沿岸のリゾートに滞在中の日本人を含む世界各国からの多くの観光客を直撃した点にも一つの特徴があります。このため、小論は NHKがラジオ日本やNHKワールドTVを通して行ったニュース・情報の海外発信、とりわけ大津波に関する(警報)放送がスムーズに行えたかどうかについて、当日の放送記録を基に検証しました。

さらに、巨大地震による大津波はアフリカ大陸の東海岸や南極、南米へと実に広範囲に及びました。しかも被災地が政情不安であったり、辺境の地であったりしたうえ、もともと脆弱だった通信基盤が壊滅したため、被災地での取材と発信が困難を極めました。地震発生や津波襲来の瞬間を捉えた映像のほとんどは観光客らアマチュアカメラマンの手によるものでした。こうした観点から、映像の入手と伝送手段についても考えました。

最後に、甚大な被害に見舞われた各国では大津波襲来に迅速的確に対応できなかった当局や放送メディアの責任も問われました。災害報道に実績を持ち、防災に放送を生かす取り組みを続けるNHKが国際協力の場でどのような貢献ができるのかを問いかけました。

放送文化研究所 研究主幹 岡本 卓