海外放送事情

<世界の公共放送 デジタル時代の課題と財源>

第6回 アメリカ PBSが進める多チャンネル戦略

アメリカの公共放送は、1967年に誕生して以来、受信料を財源とせず連邦、州、地方の各政府からの交付金、個人の寄付金、広告収入など財源を多方面に求めるという特異な構造を特色とし、それゆえに制度においても財源においても常に脆弱で不安定な運営を宿命づけられてきた。

地上デジタル化は、PBSにとって大きな財政的な負担となり、FCC(連邦通信委員会)の定めたPBSのデジタル化の期限(2003年5月)までに移行できないPBS局が続出することになった(349局のうちの188局が延期申請、2004年10月現在でなお60の局が未移行)。地上デジタル化にかかるコストはおよそ17億ドル(=1850億円)、このうちの10億ドルまでは政府・州からの公的資金や個人・企業からの寄付金などで賄うことが出来たが、今後引き続き7億ドルの費用を集めなければならない。

その一方で、多チャンネル放送やデータ放送などデジタル技術で可能になった多様な放送サービスは、PBSにとってより多くの視聴者を獲得する可能性も秘めている。特に多チャンネル放送は、地域における多様なコミュニティやマイノリティなどのニーズにきめ細かく応えていくことで公共放送の存在意義をアピールする有効な手段になり得るとして、PBSは多チャンネル放送サービスを積極的に進めている。

アメリカの公共放送を取り巻く制度・財源の現状と、デジタル技術を利用して新たなサービスを展開しようとする幾つかの試みの具体的事例、そして今後に向けた課題等を整理・報告する。

メディア経営 研究員 米倉 律