海外放送事情

検証:イラク日本人人質事件報道

~香田証生さん事件から~

2004年10月、イラクで起きた香田証生さん殺害事件は人の生死に関わる重要なニュースの取材の難しさと事実確認の危うさを報道人と関係者に改めて問いかけました。

10月26日夜、日本時間の27日早朝、中東のテレビ局アルジャジーラは「イラクの武装勢力が日本人だとする男性を拘束し、48時間以内に日本の自衛隊が撤退しなければ、男性を殺害すると脅迫する映像がインターネットのホームページに掲載された」と伝え、映し出された男性はまもなく福岡県直方市出身の香田証生さんと判明しました。イラクでは日本を含む多くの国の外交官やジャーナリスト、NPO活動家などが相次いで拘束されたり、殺害されたりして依然危険な状態のため、日本政府はアメリカの政府やイラク駐留軍に香田さん救出に向けて全面協力を要請し、日本のマスメディア各社も24時間の取材・即応体制を敷きました。

香田さんは日本時間の31日未明、殺害されて見つかりましたが、本小論は香田さん殺害が未確認の時点で「香田さんが殺害された」と断定し、誤報を出した共同通信社と、「遺体は香田さんの可能性があるが、確認中」と踏みとどまって伝えたNHK(など)の報道比較検証を試みるものです。具体的には、誤報後に共同通信社がまとめた報告書とNHKの出稿・放送記録をもとに、10月30日未明の共同通信社とNHKを比較し、共同通信社の「断定報道」の瞬間を分析しています。

共同通信社がまとめた報告書は率直、かつ詳細に記述されており、評価できる内容です。今回の教訓は放送や新聞を含むすべてのマスメディアにとって他山の石となるとの判断から、共同通信社が同時にまとめた再発防止策の内容についても紹介しています。

放送文化研究所 岡本 卓