放送史

<放送史への証言>

テレビはもう一度“生”に戻れ

雑魚ざこ番組が輝いた!美術デザイナーの楽しき挑戦~

「放送史への証言」は,放送の発展に尽力されてきた方々へのヒヤリングにより,放送の歴史をオーラルヒストリーで描き出そうという試みである。1970~80年代、TBSで人気を博した音楽番組『ザ・ベストテン』と、バラエティ―番組『8時だヨ!全員集合』は、意外にも社内で「雑魚番組」と呼ばれていた。だからこそスタッフは発奮し、そのエネルギーの総和は視聴者に伝わった。そして番組を輝かせたのは、ともに奇抜で斬新なセットだった。そのデザインをほとんど一人で手がけた元TBSのデザイナー、三原康博さん(73歳)、山田満郎さん(67歳)に話を聞いた。

三原さんは、美術スタッフを縁の下の力持ち、と言われることが嫌いだという。だから「バックを作っている」のではなく、「セットの真ん中にタレントを置く」という逆の発想で、『ザ・ベストテン』のセットに挑んだ。たった一人で10年間、セットのデザインを担当できた活力は驚くべきものだが、生本番で消えていくものだということが、ある意味で力をくれたと彼は言う。毎週、ベストテンに入った曲を聴きながら歌詞を理解し、それがそのまま絵になっていった。そのうち、出演者側から注文をつけてくるようにもなり、その時代、双方が刺激し合う、いい関係が存在していた。「生放送」であることの気配は視聴者にも伝わる。だからもう一度、テレビは本来の機能である「生」と向き合うべきと語る。「音楽を絵にする仕事」を40年やってきた三原さん、編曲があるなら「編画」もあるのではないか、そんな時代が来ることをテレビ美術デザイナーとして願っている。

山田さんもまた、「生放送」の効能を深く感じているデザイナーであった。『全員集合』のコントでは、舞台上でセットが最後に壊れてしまう「屋台崩し」をよくやったが、出演者もスタッフも、全員が緊張していないと、撮り損なうし、大事故にもなる。その緊張感こそが面白いものを作ろうという全員の情熱になり、視聴者に伝わると信じていた。テレビ美術は「建築」と似ているが、違うのは新築ではないということ。そこにどういう人が何年住んでいたかが重要、だから、埃やゴミも美術なのだ。そして、その中で役者がいなくなり、照明が落ちると、セット自体がゴミとなる。セットは「花」というのが彼の持論。盛大に開いて、その間、見る人が楽しみ、そして盛大に散る。26歳の若さで「TBSの美術に不可能はない」と豪語し、山田さんはそれを実践してきた。2人の話を聞いて、テレビ美術の本質が見えてきたのと同時に、テレビの「原点」を思い起こした。

メディア研究部(メディア史) 廣谷 鏡子