メディアフォーカス

米,PBSの『セサミストリート』,大手番組事業者HBOで放送へ

アメリカを代表する子ども番組『セサミストリート(Sesame Street)』を制作するSesame Workshopは8月13日,番組をこの秋から5年間,映画やドラマの有料ケーブルチャンネル大手のHBOに提供することで合意したと発表した。充分な制作資金が確保され,番組の充実につながると歓迎する声がある一方で,無料の公共放送から有料放送に移ることで番組が視聴者に公平に行き渡らなくなり,番組内容に特定のスポンサーの意向が反映されることを懸念する声も出ている。

セサミストリートは,非営利組織のSesame Workshopが制作し,1969年から公共テレビPBSで放送されてきた。ビッグバードやエルモなど多くのキャラクターを生み出し,教育と娯楽の要素をあわせもつ良質な子ども番組として世界150以上の国・地域で人気を得ている。New York Timesなどによると,これまで制作費の多くは番組DVDやビデオの販売収入,キャラクターグッズのライセンス料,さらに番組を放送するPBSからの協賛金などに頼ってきた。しかし,最近ではインターネットのストリーミング配信や無料動画サービスの普及で,DVDなどの売り上げが落ちている。それに加え,PBS自体の収入が減っていることから協賛金の額も減らされ,2014年のWorkshopの年間予算は,前年より1,100万ドル少ない1億400万ドル(約125億円)で,セサミの年間制作本数は18本だった。一方のHBOは,『ザ・ソプラノズ~哀愁のマフィア』や『セックス・アンド・ザ・シティ』など話題のドラマや映画,スポーツを放送するアメリカの代表的な有料ケーブルチャンネルで,番組制作には多額の資金を投入することでも知られている。

Workshop側は,今回のHBOとの合意で,セサミの制作本数が年35本とほぼ倍になり,人気キャラクターを使った “スピンオフ”番組のシリーズ化や新たな番組開発も行い,子ども向けコンテンツを充実させられるとしている。またHBO側にも,新しい番組の参入でこれまでターゲットとしてこなかった「子ども」という新たな視聴者層を引きつけられるメリットがある。HBOでは,番組を放送(テレビ)だけでなく,ネット上のOTTサービス「HBO Now」などにも展開して,スマートフォンやタブレットでアクセスする利用者の増加をめざしている。なおHBOで放送されたセサミストリートの新作は,9か月経てばPBSが使用料を払わずに放送できる。

こうした動きに対して,教育関係者や識者で作るParents Television Councilなどの団体からは「HBOに契約できる世帯の子どもだけが見られるということは,子どもの選別につながる」「無料で放送しているPBSは,公共放送の責任を放棄している」などの批判が出ている。また,資金を出すHBOが番組に干渉して,これまでの制作手法や内容が変わる可能性も指摘されている。さらに,重要番組を手放すPBSに対しては,今後も同様のケースが続けばPBSの存続そのものが危うくなるという声も出ている。

HBOの幹部は「これでセサミの将来は安泰だ」と述べたが,デジタル化によりメディアを取り巻く環境とビジネスモデルが大きく変わる中,伝統あるセサミストリートも変化の波の中で大きく揺れている。

柴田 厚