メディアフォーカス

韓国検察が産経前支局長を名誉棄損で起訴,「報道の自由」への懸念が国際的に拡大

韓国の検察は10月8日,根拠のない記事によってパク・クネ(朴槿惠)大統領の名誉を毀損したとして,産経新聞の前ソウル支局長を「情報通信網法」に基づく名誉毀損罪で在宅起訴した。

事の発端は8月3日,当時のソウル支局長,加藤達也氏が産経新聞のウェブサイトに,「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日,行方不明に…誰と会っていた?」と題するコラムを掲載したことである。2014年4月16日に発生した旅客船沈没事故の当日,パク大統領が7時間もの間,所在不明になっていたとする韓国の大手紙「朝鮮日報」のコラムや,この問題に関する国会でのやりとりを紹介しながら,「証券街の関係筋によれば,それは朴大統領と男性の関係に関するものだ。相手は,大統領の母体,セヌリ党の元側近で当時は妻帯者だったという」「コラムでも,ウワサが朴大統領をめぐる男女関係に関することだと,はっきりと書かれてはいない」などと報じている。なお,青瓦台(大統領府)はこの内容について否定している。

産経新聞の報道を受けて,韓国では複数の市民団体が刑事告発し,青瓦台のユン・ドゥヒョン(尹斗鉉)広報首席秘書官も「口にするのも恥ずかしいことを記事にした。うそを書いて読者を増やせるかもしれないが,とことんまで厳しく対処していく」と語った。

韓国では,インターネットによる不正行為を規制する「情報通信網法」で,名誉毀損罪の最高刑を懲役7年と定めている。ソウル中央地方検察庁は3回にわたって加藤氏から事情聴取を行った後,10月8日に,「客観的な事実と異なる」「根拠なく大統領の名誉を傷つけた」「反省や謝罪の意向を見せていない」などとして加藤氏を在宅起訴した。加藤氏は10月1日付で東京勤務の辞令が発令されたが,出国禁止措置のため帰国できない状態にある。

大統領に対する名誉毀損で外国メディアの記者が起訴されるという異例の事態に,ソウル駐在の外国メディアの記者で組織する「ソウル外信記者クラブ」は,「今回の起訴は韓国の言論を取り巻く環境に悪影響を及ぼし,自由な取材の権利を著しく侵害するおそれがある」として深刻な憂慮を示した。この他,ジャーナリストの国際団体「国境なき記者団」,日本新聞協会,さらにアメリカ政府も相次いで今回の起訴を非難する声明を発表した。

また,韓国のメディアからも,報道の自由が萎縮するといった声や,今回の起訴は青瓦台の意向が反映されたものだとの見方が示された。一方で保守系の新聞は,検察の対応には無理があるとしつつも,産経新聞に対しては,「公人とはいえ未婚女性の大統領の心に深い傷を負わせる内容」「韓国国民をも冒とくした記事」などと厳しい見方を示した。

ファン・ギョアン(黄教安)法相は10月13日,コラムの大半を韓国のメディアから引用した産経新聞だけが起訴された点について,「朝鮮日報の記事は間違った噂が流れることへの問題提起をしたもので,産経新聞とは違う」と釈明した。しかし,パク大統領が7 時間も不明であった点については,今なお疑問の声が出る中で,外国メディアの記者を強引に起訴した今回の検察の対応は,大統領の権力で言論を抑え込もうとするイメージを国際的に拡散させる結果を招く形となった。

田中則広