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米ケーブル最大手のComcast,2位のTime Warner Cableを買収

アメリカ最大手のケーブルテレビ事業者Comcastは2月12日,業界2位のTime Warner Cable(TWC)を452億ドル(約4兆5,200億円)で買収することを発表した。現地のメディアは,衛星放送やネット事業者に押されて契約者が減るケーブルテレビ業界が巻き返しを図る動きと見る一方で,市民団体などが事業の寡占化でコンテンツ配信に影響が出るのではないかと懸念を示していることを伝えている。

Comcastは現CEOブライアン・ロバーツの父親ラルフが,1963年にミシシッピ州で加入世帯1,200の小さなケーブル会社を買い取ったことから始まった。1990年に息子のブライアンが事業を引き継いでからは,法律の規制緩和を受けてネット事業への参入や吸収合併を繰り返し,親子2代でアメリカ最大のケーブル会社に成長した。現在の加入世帯約2,200万とTWCの約1,100万を合わせると,契約数はケーブルテレビ全体の3分の2,衛星を含めた有料放送全体では3分の1を占める巨大企業となる。

ケーブルテレビ業界では,衛星放送や通信事業者と激しい契約獲得競争が続いていることに加え,最近ではNetflixなどインターネットを使った価格の安い動画配信サービスが普及して,ケーブル契約を解除する世帯が増えている。その一方で,CBSなどの番組供給事業者からは配信するコンテンツの料金値上げを求められるなど,厳しい状況が続いている。こうしたことから,経営規模を拡大してコンテンツ事業者との交渉力を強め,ケーブル業界全体の巻き返しを図るために今回の買収を行ったのではないかと現地メディアは伝えている。2社の間では,Comcastが本社のあるフィラデルフィアやワシントンDC,ボストン,シカゴなどの東部中心,TWCがニューヨークやロサンゼルス,ダラスなどの大都市圏中心と,市場のすみ分けが行われていることから,ブライアン・ロバーツCEOは「両社の市場はもともと重なっておらず,買収後も利用者に不便が生じることはない」と強調している。

一方で,Comcastの巨大化でコンテンツ配信への影響が指摘されている。Comcastはケーブル事業だけでなく,インターネットのブロードバンド・サービスも提供し,約2,000万世帯が加入している。2013年には大手メディア企業のNBCユニバーサルの買収を完了したことで,従来からの配信サービスに加え,多くの番組コンテンツも獲得した。今年(2014年)1月に連邦控訴裁判所が,ネット上で全てのコンテンツを平等に扱うべきだとするFCC(連邦通信委員会)の『ネット中立性』規則を無効と判断したことから,今後,巨大化したComcastが自社のコンテンツを優先的に扱ったり,Netflixなどトラフィックを大量に使う動画事業者には配信のための追加料金を求める可能性もあり,利用者の不利益につながるおそれがあると,メディアを監視する市民団体などは懸念している。

買収が確定するにはFCCや司法省の承認が必要だが,過去にも通信事業者2位のAT&Tが4位のT-Mobileを買収しようとした案件が不承認となるなど,大型の買収には審査に時間がかかるとみられる。しかし,ニューヨーク・タイムズなど複数のメディアは,Comcastが強力なロビー活動を展開して,最終的には2014年末頃までに買収が承認される可能性が高いと伝えている。

柴田 厚