メディアフォーカス

米ネット上の海賊行為禁止の2法案,IT企業やネットユーザーの抗議で採決延期

1月にアメリカ連邦議会で採決が予定されていたPIPA(Protect Intellectual Property Act=知的財産権保護法案)とSOPA(Stop Online Piracy Act=オンライン海賊行為防止法案)の2つは,法案の内容がインターネットの検閲にあたり,自由な情報の流通を妨げるとして,GoogleやTwitterなどのIT企業や多くのネットユーザーから反対の声が上がり,議会は採決延期を余儀なくされた。ネットの世論が,ワシントンを舞台にした既成勢力による法律制定を実際に阻止した動きとして注目される。

法案は,アメリカ製の映画や音楽などの海賊版の流通を防止するため,検索エンジンが海賊版コンテンツを提供するサイト(主に外国のもの)を表示することなどを禁じたもので,上院がPIPA,下院がSOPAを提案した。これらの法案は,アメリカの知的財産を保護するものとして,全米映画協会や米商工会議所,ソニーやタイム・ワーナーなどのコンテンツ企業の支援を受けて法制化の準備が進められ,上下両院の多くの議員も賛成していた。

ところが,法案の内容が明らかになると,情報を自由にやり取りできるインターネットの特徴が損なわれる上,規制の表現があいまいで,政府がネットへの介入を強めることで表現や技術革新の自由が失われることへの懸念の声が強まった。また,世界で流通する全てのオンライン・コンテンツを常時,監視することは現実には不可能で,法案の実効性を疑う声もあった。

こうした声を受けて,様々なIT企業が抗議行動に訴えた。インターネット百科事典のWikipediaは1月18日,英語版の通常サービスを24時間中止した。サイトにアクセスすると,黒い画面に“情報の自由がない世界を想像してみよう”という白抜きの文字が表示された。Googleは議会に提出するために法案反対の署名集めを始め,ネットを通じてまたたく間に450万人分を集めた。Twitterでは,PAやSOPAをキーワードに多くのツイートが交わされ,人々の関心を高めた。また,地元選出の議員に法案に反対するファックスを送信するための専用サイトを素早く立ち上げ,利用を呼びかけたIT企業もあった。

かつてないネット界からの強い反発の声に,法案の共同提案者や賛成を表明していた議員が,次々に態度を保留したり法案支持を撤回したりした。法案成立のためのキャンペーン責任者だったテキサス州選出の共和党下院議員は,自分のFacebookのページで「法案を提出する前に,もっと時間をかけてその影響を検証すべきだ」と述べ,態度を改めた。この問題については,ホワイトハウスも1月14日時点で,2つの法案が採択されても大統領は拒否権を使うことを明らかにしていた。

これらの動きを受けて1月20日,民主党のリード上院院内総務は,PIPAの採決を延期すると表明し,下院のSOPAの採決も延期された。今後の審議の予定などは明らかになっていない。

今回の一件は,インターネット企業とユーザーの社会的影響力の大きさを示したが,同時に,インターネット利用の自由とコンテンツ保護(著作権保護)のバランスをどのようにとるのかという難しい問題を改めて問いかけている。

柴田 厚