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CATV局の区域外再送信 高知県の事案,大臣裁定で初の「不同意」

総務省の情報通信行政・郵政行政審議会は2011年6月20日, 高知県と山口県のCATV局3者が,区域外再送信に関する同意を民放局に求めて拒否され,大臣裁定を申請していた事案で,高知県の1者に対しては再送信に「不同意」,山口県の1者に対しては「同意」,同じく山口県の1者に対しては裁定資格を満たさないため拒否処分とする,との答申を行った。これを受けて片山善博総務大臣は21日,答申通りの「裁定」を行った。

高知県の事案は,須崎市や土佐市を業務エリアとするCATV局「よさこいケーブルネット」が,岡山県と香川県を放送エリアとする「テレビせとうち」(テレビ東京系列)の放送の再送信を求めていた。「テレビせとうち」は再送信により,「放送の地域性に係る意図」が侵害される,放送番組の販売収入が大幅に減少する,と主張して再送信に同意しなかった。このため,CATV局が有線テレビジョン法に基づいて,大臣裁定を申請していた。

同事案に関して審議会は,販売収入の落ち込みは再送信に同意しない正当な理由とは認められないとした。しかし,「放送の地域性に係る意図」に関しては一定程度の侵害が認められ,さらにCATV局が主張した「受信者の利益」は,両者のサービスエリア間の通勤・通学等の人の移動,経済的取引状況等は極めて小さく,「受信者が自らの生活等に必要な地域情報を取得」する観点からみた受信者の利益は極めて小さいとして,再送信に「不同意」とする答申を行った。大臣裁定で「不同意」となったのは,この事案が初めてである。

一方,同時に審議されていた,山口市や防府市などを業務エリアとする「山口ケーブルビジョン」とCATV事業を市として行っている「美祢市(山口県)」が,福岡県の民放局4局の再送信を求めた事案では,「山口ケーブルビジョン」に関しては4局すべてが再送信に「同意」すべきとの答申を行った。

この事案では,「放送の地域性に係る意図」については一定程度の侵害が認められるが,山口県と福岡県は,通勤や買い物での交流性が高く受信者の利益になり,比較衡量した結果,放送局が再送信に同意しない「正当な理由」に該当しないとした。
「美祢市」の場合は,美祢市と民放局との協議が2回しか行われておらず,協議が不調だった場合に認められる裁定申請の資格を満たしていないところから拒否処分とした。

民放局が再送信を拒否できるのは,「放送の地域性に係る意図」や「番組編集上の意図」が害される場合などに限定されているため,これまで大臣裁定で「不同意」が出ることはなかった。民放連は,このままでは地域民放局の経営に深刻な影響を及ぼしかねないとして,再送信先に同じ系列のチャンネルがある場合や,系列局が少なく地域局に番組を販売しているテレビ東京の再送信に関しては,CATV局が「区域外再送信」の裁定を申請するべきではないと主張していた。

今回の決定に関して民放連は,高知県の「不同意」は歓迎しているが,山口県の事案で再送信が「同意」されたことについて,「無秩序な区域外再送信」を容認すれば,民放局の存立基盤が危うくなるとして6月20日,「法的措置も含めて,今後の対応を検討」するとの会長コメントを発表した。

奥田良胤