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米FCC,「全米ブロードバンド計画」発表 地上放送事業者から反発も

FCC連邦通信委員会)は3月16日, 今後10年間のアメリカにおけるインターネット政策の指針となる『Connecting America: The National Broadband Plan(アメリカをつなぐ:全米ブロードバンド計画)』を議会に提出した。

これは,オバマ政権が誕生した後,議会の要請を受けて,J・ジェナコウスキー新委員長を中心にFCCが1年をかけてまとめたもので,報告書は360ページ余りに上る。それによると,2000年には800万人だった国内のブロードバンド利用者は2009年には2億人まで増えたものの,依然としてアメリカ国民の3分の1にあたる1億人がアクセスできていないとしている。このため,①全米に広がる高速ブロードバンド網の構築と,②それを誰でも利用できる環境の整備を目的にしている。具体的には,今後10年間で次の6つの目標を設定した。

  1. 現在ブロードバンドを利用していない1億人に,毎秒100メガバイトのダウンロード/50メガバイトのアップロード環境を実現する
  2. 界最速で“ユビキタス”の無線ネットワークを作り,移動端末で世界をリードする
  3. すべての国民がアクセス可能な接続環境と料金システムを作り,利用法を習得する
  4. 学校や病院などの公共施設については,毎秒1 ギガバイトの高速接続網を整備する
  5. 警察や消防などの組織が相互に交信できる全米規模の無線ネットワークを構築して,公共の安全に寄与する
  6. 環境負荷の少ないエネルギー社会実現のため,日々のエネルギー利用の把握にブロードバンドを活用する

この計画内容に対して,オバマ大統領は「ブロードバンド網の整備は,かつての大陸横断鉄道や全米の高速道路網の建設に匹敵する。インターネットの活用は雇用や教育,社会保障などに役立ち,ひいては経済成長と国の発展につながる」と,その重要性を強調した。

FCCの計画については,高速無線ネットワークを作るためのデジタル周波数帯をどう確保するかが大きな課題となっている。計画によると,現在FCCが管理しているのは50MHzのみで,これを5 年以内に300MHz,10年後には500MHzの帯域を確保する必要がある。FCCでは,デジタル移行で地上放送局が多チャンネル放送をできるようになったが,未使用の帯域があることから,これを自発的に返還するよう呼びかけている。提供された周波数はオークションにかけられ,利益の一部を放送局に還元する方針であるとしている。しかし,必要とするデジタル帯域が集まらない場合は,強制的に返還させられることも予想されることから,NAB(全米放送事業者協会)では「地上放送こそが,無料で全米にあまねく情報を提供しているメディアである」として,帯域の強制的な徴収には強く反発している。一方,無線通信業界やコンピューター関連会社などは,周波数帯域の開放を歓迎している。

全米ブロードバンド計画には関係する業界から賛否両論の多様な意見が寄せられており,議会上下院での公聴会を経たあと,計画を実施に移すための法案作りが行われることになる。インターネットを重要な社会基盤と位置づけた今回の計画が,今後どのような形で具体化されていくのか注目される。

柴田 厚