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英BBC,政府に意見書を提出

~BBC以外へのテレビ受信許可料配分に反対を表明~

イギリスの公共放送BBCは9月25日,政府が広く意見を求めていた「地域・地方・ローカルニュースを維持する方策」について,BBCの意見書を提出したことを公表した。イギリス政府は,放送通信白書『デジタル完了後のイギリス』発表後,経営難によって地上商業テレビのITVが提供している地域ニュースの減少が予想されることから,BBCを含む地域ニュースの複数性を維持するために,新たなニュース組織(IFNC:Independently Funded News Consortia)を設立し,その財源として,テレビ受信許可料の一部を充てるという提案を行い,意見を求めていた。2012年度までのテレビ受信許可料の値上げの取り決めには,全国民のデジタル移行という目的に限定して使用する資金が上乗せされているが,円滑なデジタル移行によって余剰金が生じるという見通しがたっている。政府はこれを使って,早ければ2010年からIFNCの試行運転を始めたいと考えている。これに対しBBCは,IFNCのような組織の必要性を認める一方,これまでBBCだけに割り当てられていたテレビ受信許可料を他のサービスや組織に使用することには反対する立場を次のように表明した。

  • 地域ニュースの財源として受信許可料の一部を利用することは,「強いBBC」の基礎となるBBCの独立性と説明責任を損なうおそれがある。また,余剰金が生じる場合,BBCはそれを政府に返還する意向である。
  • 地域ニュースやそれ以外に特定された公共サービスコンテンツを制作するために,公的資金を入札制で割り当てるという政府の提案は,伝統的に維持されてきた公共サービス放送のエコロジーを損なう結果を生むおそれがある。例えば,芸術系の番組は現在BBC ONEや地上商業テレビの娯楽番組で放送されているが,入札制が導入されることによって,そうした番組が主流のチャンネルから姿を消し,ニッチな番組の視聴者数をさらに減少させる可能性がある。また,類似のシステムを導入したカナダやニュージランドの例では,官僚制の批判を受け,必ずしも費用対効果の高い良質のコンテンツの創造につながっていない。
  • 政府が地域ニュースの複数性を維持するために大規模な政策介入が必要であると思うならば,2014年には地上デジタル周波数の経済的価値を反映した利用料(AIP)が年間約1億3,000万ポンド国庫に納められる見通しがあり,このAIPを財源に充てるべきである。AIPの収入を地域ニュースや公共サービスコンテンツに投資することは,放送全体への投資の減少にならないばかりか,放送周波数の価値が公共サービスコンテンツの提供と結びつくという公共サービス放送の文脈に沿っている。

BBCはこうした意見をまとめるために,8月から9月にかけて,4,040人を対象とした面接方式の世論調査を行ったほか,全国7か所でワークショップ形式の質的調査を行った。世論調査結果では,受信許可料の値下げを求める声が半数近くに上る一方,質的調査では地域差はあるものの,全般的に値下げを期待せず,BBC以外への利用を支持しないという意向を得ている。なお,政府の意見募集にはBBCを含む44の個人・団体の意見が寄せられ,政府のサイトで公開されている。

中村美子