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アメリカ,地上デジタル放送へ全面移行 大きな混乱もなく実施

アメリカの地上放送は6月12日,ハワイ州などすでに移行済みの地域を除き,アナログからデジタルへ全面移行した。12日にはFCC(連邦通信委員会)への問い合わせ電話が一日で30万件を超えるなどの反響はあったが,移行は大きな混乱もなく行われた。

当初,移行日は2月17日だったが,オバマ新政権から視聴者の準備が十分整っていないことが指摘され,日程は4か月延期された。当日は全米約1,800局のうち,すでにアナログ放送を終了した局を除き,大都市圏の放送局を中心にした971局がデジタルへ移行した。

アメリカでは1億1,400万世帯の8割以上が衛星やケーブルテレビに加入しており,FCCなどでは延期された4か月の間にさまざまな対策を講じ,地上放送のみを受信している1,200万世帯を中心に支援に力を入れた。具体的には,移行にあわせて4,000人をコールセンターに配置して視聴者からの質問に答えたほか,全国600か所余りにWalk-in Centerを開設してデジタル‐アナログ変換コンバーターの接続方法やクーポン券の申請などについて相談に応じた。また,お年寄りや障害者など自分で作業ができない人のために,出張して接続などを代行するIn-home Assistanceのサービスを無料で実施した。

一方,NTIA(商務省電気通信情報局)が担当するクーポンプログラムは,今年1月から予算不足で中断されていたが,オバマ大統領が新たな財源を投入したことで3月に再開された。クーポン券の発行総数はこれまでに6,000万枚を超え,半分以上がコンバーター購入のために使われた。こうした結果,ニールセンの調べでは,デジタル未対応世帯の数は2月1日の580万から移行直前の6月7日時点で280万世帯まで減少した。

移行当日,FCCのコールセンターに寄せられた相談電話の件数は,31万7,450件に上った。このうち3分の1はコンバーターボックスの設置に関するもので,チャンネルの「リスキャン(再設定)」をアドバイスすることでほとんどが解決した。そのほかに多かったのは,アンテナの交換が必要かどうかなどのアンテナ設置に関するもの,デジタルになって受信できない放送局があったというもの,さらにクーポン券の申請方法などであった。

FCCでは,デジタル対応をまだ行っていない家庭向けに「移行を呼びかけるメッセージ」や災害などの緊急ニュースをアナログ波で引き続き放送するよう全国の放送局に要請した。これに応えて,全米で121の放送局が「ナイトライト」と呼ばれる放送を実施し,早めにデジタル対応するよう促している。

移行翌日の13日に会見したFCCのコップス委員長代理は「60年間続いたアナログ放送からデジタルへの歴史的転換の第一歩を踏み出すことができた。しかし,移行は一日では終わらない。もうしばらく忍耐と努力をもって,この事業を成し遂げよう」と呼びかけた。

ニールセンの6月末の調査では,デジタル未対応世帯は全体の1.5%,170万世帯まで減っている。

FCCでは6月29日,新しい委員長にジュリアス・ジェナコウスキー氏が就任した。ブロードバンドの積極的な活用を目指すオバマ大統領のもと,アメリカのテレビは本格的なデジタル時代に入ったと言える。

柴田 厚