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アメリカの地上デジタル移行 最終期限を「6月12日」に変更

アメリカではハワイなどを除き,今年2月17日に全国一斉に地上デジタル放送へ移行する予定だったが,1月初めにオバマ次期政権から,視聴者の準備が整っていないことを理由に移行の延期を求める要請が出され,議会で審議を行った結果,移行の最終期限を6月12日に変更することが決まった。

主な変更点は,次のとおりである。

  • 移行日を2月から「6月12日」とし,一斉移行ではなく,2月17日から6月12日までの間に各放送局の判断でアナログ放送を終了する
  • 期限切れのコンバーター購入用クーポン券を「再利用」できるようにする

移行日をめぐっては,関係者の間で意見が分かれた。民主党や消費者団体などは,デジタル‐アナログ変換コンバーター購入を補助するクーポンプログラムが資金不足で中断していることや,地上放送受信世帯の多くを占める高齢者や低所得者,マイノリティーへの周知が十分に行われていないことなどを理由に,移行の延期を求めていた。

一方,共和党や地方の放送事業者などは,実施直前の変更は視聴者の混乱を招くとともに,アナログ放送の継続や新たな周知活動に費用がかかるとして,移行延期には反対していた。

また,アナログ終了で空いた周波数帯域を使って新たなサービスを行う予定の通信事業者や,全国的な緊急通信網の整備を予定していた警察・消防などの政府機関は,周波数帯域をなるべく早く使えるようにしてほしいと要望していた。

オバマ陣営の要請を受けて,民主党では上院のロックフェラー議員が中心となり,延期日程とクーポン券の運用などをめぐり共和党と協議を重ねた。そして,修正を経たのち,移行延期法案は議会上院に続いて,2月4日に下院でも264対158の賛成多数で可決された。

予算が不足しているクーポンプログラムについては,2月11日現在で398万人がNTIA(商務省電気通信情報局)の「順番待ちリスト」に登録されており,これに対応するため,景気対策法案の予算から6 億5,000万ドルを充てることが計画されている。

また,今回の法案では,全国の約1,800の放送局が6月12日より前にアナログ放送を終了することも可能であるとしている。FCCの調べでは,放送局の60%にあたる1,000局余りが期日より前に移行する準備を整え,ハワイやウィルミントンなどの143局ではすでにアナログ放送を終了している。ニールセンの調べでは2月1日現在,全米で580万世帯がデジタル化に備えた対策をとっていないため,こうした家庭では早い時期にアナログ放送を終了した局の番組を見られなくなる事態が懸念されている。

今後,放送局側は移行の時期をどのように決め,それを視聴者にどう周知するかが課題となる。一方,視聴者側には,1日も早くコンバーターなどの備えをすることが求められる。さらに,政府機関には,移行日変更の広報やコンバーター設置の支援活動,コールセンターでの問い合わせ対応などきめ細かい視聴者のフォローが求められている。移行がスムーズに行われるか,各国のテレビ関係者はこの4か月の動向を注視している。

柴田 厚