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NHKのインサイダー取引 第三者委員会が調査結果を公表

2008年1月に証券取引等監視委員会の調査で,3人のNHK職員が外食産業の資本提携に関する情報をニュースの放送前に報道情報システムによって知り,当該会社の株の売買を行っていたインサイダー取引疑惑が発覚した。

この問題に関してNHKは外部委員による第三者委員会(委員長・久保利英明弁護士)を設置して,事件の徹底的な調査と再発防止の提言を要請していた。

同委員会は2008年5月27日,3か月以上に及んだ調査の結果を公表した。

調査は,NHKの役職員と一定範囲のスタッフ,関連団体従業員等1万3,221人を対象に,株の保有,勤務時間中の株取引の有無などに関して実施された。株を保有していたのは2,724名であったが,このうち943人については,証券会社への取引履歴開示の委任状の提出がなかったり不備があったりしたため,確認にはいたらなかった。

取引履歴調査によれば,報道情報システムに掲載された原稿に書かれた会社の株が時間的に近接して取引されたケースは51口座94取引あった。しかし,同委員会は,報道情報システムの情報を利用した株取引と認定できるものは確認できなかった,としている。

また,81人が休憩時間を含む勤務時間中に株取引をしたことが明らかになった。

インサイダー取引で懲戒免職になった3人については,証券取引等監視委員会から指摘された取引以外にも,報道情報システムの情報を参考にするなど職務上知りえた情報に基づくと認められる取引が合わせて22件あった。

同委員会はインサイダー取引が同時多発的に発生した直接的原因として,行為者らの倫理観,矜持,職業意識の欠如や,報道情報システムの不備等を指摘し,インサイダー取引の背景となった組織上の問題点として,(1)職業倫理を確保する体制を欠いていた報道部門の弱体化,(2)相次ぐ不祥事の事後対応に終始し新しいリスクへの対応視点を欠いたコンプライアンス施策による現場の疲弊,(3)統一的,包括的な情報セキュリティ・システムの不在,(4)組織の存続に対する一体的危機意識の乏しさ,(5)組織の縦割り制度の行き過ぎによる部門間の人事・情報の分断,の5点を指摘した。

そして,同委員会は再発防止策として,以下の10項目を提言した。

  • (1)「プロのジャーナリスト,報道機関とは何か」 「公共放送の使命」の議論の活発化。
  • (2) NHKの使命実現のための意識改革をめざすコンプライアンス施策と研修の実施。
  • (3) リスク管理としてのコンプライアンス施策の明確な位置づけ。
  • (4) 関連団体も一体とする懲戒制度の厳格かつ柔軟で実効性のある運用の確保。
  • (5) 縦割り組織の改編と変革。
  • (6) インサイダー取引を禁止する規定の制定と研修の実施。
  • (7) 報道情報システムへアクセス権を有する者又は報道業務に携わる者の株取引の全面禁止。
  • (8) 職務に関連して知りえた情報の目的外利用の禁止,就業時間中の株取引の禁止。
  • (9) 報道情報システムの管理システムの改善と運用基準の厳格化。
  • (10) 再生に対する国民によるモニタリングを得るために定期的・継続的な検証番組の作成。

奥田良胤