メディアフォーカス

裁判員制度下の事件報道新聞協会,民放連が対応指針等を発表

2009年5月までに実施される「裁判員制度」を控え,NHKや在京キー局も加盟している日本新聞協会は2008年1月16日,「裁判員制度開始にあたっての取材・報道指針」を発表した。

裁判員制度は,2004年5月に成立した裁判員法によって導入されるもので,殺人や放火など重大な刑事事件の審理に国民が参加し,有罪か無罪かを決めるほか,量刑の判断も行う。検討の過程でメディアの事件報道が裁判員に偏見を持たせないよう,事件報道を規制しようとの議論があったが,報道関係機関が強く反対し,削除された経緯があった。

メディア側は被疑者の権利を不当に侵害しない努力をしてはいるものの,被疑者を犯人と決めつけるような報道が,裁判員に過度の予断を与えるおそれがあるとの意見は根強く残っている。今回の指針は,このような経緯を踏まえ,公正な裁判と報道の自由の調和をはかろうと,新聞協会が取材と報道のあり方について,あらためて確認したものである。

指針では,まず事件報道には事件の真相を明らかにすることに加え,「犯罪の背景を掘り下げ,社会の不安を解消したり危険情報を社会ですみやかに共有して再発防止策を探ったりすることと併せ,捜査当局や裁判手続をチェックするという使命がある」としたうえで,次の3項について確認している。

(1)捜査段階の供述の報道にあたっては,内容のすべてがそのまま真実であるとの印象を読者・視聴者に与えることがないよう記事の書き方に十分配慮する。(2)被疑者の対人関係やプロフィルは,当該事件の本質や背景を理解するうえで必要な範囲内で報じる。前科・前歴についてはこれまで同様慎重にとりあつかう。(3)識者のコメントや分析は,被疑者が犯人であるとの印象を読者・視聴者に植えつけることがないよう十分に留意する。

さらに取材に関して,裁判員等への接触について,「裁判員等の職務の公正さや職務に対する信頼を確保しようという立法の趣旨を踏まえた対応をとる」としている。

日本民間放送連盟も2008年1月17日,「裁判員制度下における事件報道について」と題して,考え方を発表した。

同連盟は,日常の取材・報道活動の道標として「報道指針」をすでに定めており,今回の考え方はこの指針を補足するもの。具体的な留意事項として以下の8項目をあげている。

(1)事件報道にあたっては,被疑者・被告人の主張に耳を傾ける。(2)一方的に社会的制裁を加えるような報道は避ける。(3)事件の本質や背景を理解するうえで欠かせないと判断される情報を報じる際は,当事者の名誉・プライバシーを尊重する。(4)多様な意見を考慮し,多角的な報道を心掛ける。(5)予断を排し,その時々の事実をありのままに伝え,情報源秘匿の原則に反しない範囲で,情報の発信元を明らかにする。また,未確認の情報はその旨を明示する。(6)裁判員については,裁判員法の趣旨を踏まえて取材・報道にあたる。課題が生じた場合は裁判所と十分に協議する。(7)国民が刑事裁判への理解を深めるために,刑事手続の原則について報道することに努める。(8)公正で開かれた裁判であるかどうかの視点を常に意識し,取材・報道にあたる。

奥田良胤