メディアフォーカス

中国,“段ボール入り肉まん” 報道で波紋

中国の地方テレビ局,北京テレビは7月8日,『透明度』という番組の中で,肉まんの具に段ボールを混ぜて加工する様子を“隠し撮り”した映像を,偽物食品を摘発する特ダネとして放送した。これを中国中央テレビ(CCTV)などが自ら確認しないまま放送,ニュースは全国,さらには中国製品の安全問題への関心が高まっている世界中に伝わった。ところが10日後,北京テレビはこの報道が虚偽のものだったとして陳謝,番組制作を担当した臨時職員が逮捕されたのをはじめ,テレビ局のトップなど数人が北京市当局から処分を受けた。

この事件についてメディアを管轄する中国共産党中央宣伝部と国家ラジオ映画テレビ総局(SARFT),新聞出版総署は23日,全国各地のメディア管轄部門に通知を出し,この報道が全く根拠のない虚偽のものであり,社会に対しきわめて悪い影響を与えたと述べた。通知によると,北京テレビの臨時職員は,市場で買った肉まんや小麦粉,段ボールなどを用意し,人を雇って段ボールを水につけ肉まんに混ぜる工程をやらせ,その様子をビデオで撮影し放送したという。通知では各メディアに対し,メディアへの投書やインターネットに掲載された情報などについての管理規定を厳格に守り,確認の取れていない情報を掲載・転載することがないよう求めている。

今回の事件について,問題の北京テレビの臨時職員ら当事者は記者会見などを行っておらず,当局の発表を全面的に信じることは出来ないとの声もある。最近,中国製品の安全をめぐっては,実際にアメリカで中国産の原料を含んだペットフードを食べた猫や犬が相次いで死んだり,中国産の練り歯磨きから有害物質が見つかったりするなど,世界的に関心が高まっている。ある中国のメディア関係者によると,「今食品安全の話が注目を集めているので世界的なニュースになり,オリンピックが近づく中で政治指導者が重視する問題となったが,不衛生な肉まんをこっそり売るなどというのはよくある話だ」という。

このように事件の真相にはまだ不明な点もあるが,その背景となる中国メディアの問題は,はっきりしている。改革開放によって,中国メディアの収入は,従来のような政府予算でなくほとんどが広告収入に切り替わった。このため各メディアは視聴率や部数を上げようと,市民が関心を寄せる分野に力を入れている。特に消費者の権利意識が高まる中,CCTVの『毎週質量報告』など偽物製品を摘発する調査報道番組は,高い評判を得ている。ところが激しい視聴率競争は往々にして現場での行き過ぎを呼び,ショッキングな特ダネが実は捏造だったというケースは最近頻繁に起きているのが実態だ。

CCTVの関係者によると,今回のケースは捏造の手口が巧妙で,北京テレビの編集幹部もCCTVの担当者も映像を見ただけでは内容が虚偽だとは全く気づかなかったという。この関係者は,「臨時職員が自らの地位を保ち続けるためにやったことと思う。北京テレビは地方局としては大手であり信用したが,本来自ら確認すべきだった」と話している。

市場経済化した中国メディアが「速さ」と「刺激の強さ」に引きずられがちな現状を考えると,こうした事件の根絶はなかなか難しいが,事件を機に当局によるメディア締め付けが強化されつつあることがより重大な問題と言えよう。

山田賢一