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TBSが新買収防衛策を発表「楽天」との緊張関係高まる

TBSの井上弘社長は2007年2月28日の記者会見で,インターネット大手「楽天」との資本・業務提携協議の基本条件となっていた「覚書」を解消するとともに,新たな買収防衛策を発表した。

2005年10月13日,「楽天」は民放キー局TBSの発行済み株式の15.46%を取得して筆頭株主となり,TBSに共同持株会社方式による経営統合を申し入れた。TBSは,突然の申し入れに反発し,話し合いをする条件として「楽天」にさらなる株の買い増しをしないよう申し入れた。しかし,「楽天」は10月26日には19.09%まで買い増してTBSに圧力をかけた。TBSは,2005年6月に企業買収防衛策として新株予約権を発行していた。新株予約権は買収者が現れた場合に,予約権購入者に新株を割り当て買収者の株式保有率を下げることを目的とするもので,買収者の保有株式が20%を超えた場合に,新株が発行されることになっていた。「楽天」が20%ぎりぎりまで買い増したため,TBSは一段と反発を強め,両社の対立は放送と通信の融合が進むなかで,放送事業とネット事業の攻防として,社会的関心事となった。

「覚書」は2005年11月に,事態を収拾するため金融機関の仲介で交わされたもので,

  • (1) 両社は「業務提携委員会」を発足させる
  • (2) 楽天は経営統合提案を一旦取り下げる
  • (3) 協議期間中,楽天はTBSの持株比率を10%未満に引き下げ,超過分はみずほ信託銀行に信託する
  • (4) 協議期間は2006年3 月末までとする

などが盛り込まれていた。

TBSと「楽天」の業務提携協議は2006年3月以降も継続されてきたがほとんど進展しなかった。TBSのインターネット関連事業はこの1年有余,むしろ「楽天」以外の企業との間で進められる流れで推移してきた。

「楽天」は2007年2月28日にTBS株の信託期限が切れるのを機会に,信託を継続しない方針を決め,「覚書」の解消をTBSに申し入れた。TBSは「覚書」の解消を発表したが,「楽天」が保有する株式の信託を打ち切って自社保有に戻せば,TBSの株主総会で議決権を行使できるようになる。

このため,TBSは「覚書」解消と同時に,新たな買収防衛策を打ち出した。新防衛策は,TBS株を20%を超えて保有する買収者グループが現れた場合には,新株予約権を買収者グループ以外に与えて,買収者グループの株の保有比率を低くしようというもので,2007年6月の株主総会で議決する方針である。

買収者グループとしたのは,複数の企業が連携して株式の買収を行った場合を想定してのことだが,「楽天」以外に,不動産業の「イーエム・プランニング」が約9%の株式を保有しており,この両社の提携をけん制する狙いがあるものと見られている。

井上社長は記者会見で「楽天」との業務提携交渉を継続する意向を表明し,3月に入って「楽天」の三木谷浩史社長と会談したが,事態は進展していない。「楽天」としてはTBS株の取得にあたって約1,100億円の投資を行っているだけに,株の買い増しを含め新たな動きに出ることも予想され,TBSと「楽天」の関係は6月の株主総会に向けて一段と緊張する見通しとなっている。

奥田良胤