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CIA工作員の身元の情報源はアーミティジ

2003年7月,ブッシュ政権のイラク戦争に至る情報操作を厳しく批判した元外交官ジョセフ・ウィルソンの妻ヴァレリー・プレイムがCIAの秘密工作員であることが,保守系のコラムニスト,ロバート・ノヴァクが書いたコラムによって暴露された。それ以来,その情報源が誰なのか,また,これはウィルソンに対するホワイトハウスの報復なのではないかとして,大きな問題になっていたが,その元々の情報源が当時国務副長官だったリチャード・アーミティジであることが9月になってあきらかになり,3年余りに渡るこの問題に一応の決着がついた。

ニューズウィークの記者らによる著書“Hubris: The Inside Story of Spin, Scandal,and the Selling of the Iraq War”がこの事実をあきらかにした。それによれば,アーミティジは,2003年10月の段階で,このウィルソンの妻の身元に関するノヴァクの二つ目の記事を読んで,情報源が自分であることに気が付き,ただちに国務長官コーリン・パウエルに報告し,国務省の法律顧問がこのことを司法省に連絡した。そして,次の日には,FBIの捜査担当者らがアーミティジから事情聴取を行った。しかし,これらのことはこれまで完全に秘密にされて来た。

アーミティジがウィルソンの妻の身分について知っていたのは,チェイニー副大統領の首席補佐官ルーウィス・リビーからの問い合わせに答えて国務次官のマーク・グロスマンがまとめたメモを読んでいたからである。ただ,このメモには,ウィルソンの妻が秘密の工作員だ,とは書かれていなかった。

アーミティジは,9月7日になって,インタビューの中で,自身でこのことを認めた。この中で,アーミティジは,自分が情報源だったことを知って以来,「大統領,国務長官,同僚,家族,ウィルソン夫妻をがっかりさせた,と思わない日はなかった。私は,国家機密を守る自分の能力を疑わしく思っている。」と強い後悔の念を示している。アーミティジは,また,自分が情報源であることに気が付いてからこれまでそのことを公表しなかったことについて,自分としてはできるだけ早く公表したかったが,この問題の捜査を担当していた特別検察官のパトリック・フィッツジェラルドから止められた,と述べている。

このように,この事件は,結局,ウィルソンに対して害意のなかったアーミティジが元々の情報源だった,という皮肉な結果に終わり,アーミティジは起訴されることはなかったが,リビーが偽証などの罪で起訴されたほか,みずから情報源の1人と認めた,ブッシュ大統領の次席補佐官カール・ローヴの権限が縮小された。また,ニューヨーク・タイムズの女性記者が情報源に関する証言を拒否して3か月近くに渡って収監されるなど,記者の証言拒絶権も改めて大きな問題になった。

ウィルソン夫妻は,2006年7月,チェイニー,リビー,ローヴの3人を,ウィルソンに報復するためにプレイムの身元を漏洩えいしその安全を危うくする陰謀を実行した,として告訴したのに続いて,9月13日にはアーミティジをプライバシーの侵害で告訴しており,この問題は今後もブッシュ政権を悩ませることになりそうである。

*本稿については,本誌2005 年9 月号本欄の拙稿を参照されたい。

海部一男