メディアフォーカス

高専生殺害事件報道実名か匿名か判断分かれる

山口県の徳山工業高等専門学校で女子学生(20)が殺害された事件で,発生から10日後の今年9月7日,殺人容疑で指名手配されていた同級生の男子学生(19)が遺体で発見された。女子学生を殺害し,自殺したと見られるこの男子学生の名前を実名で報道するか,匿名にするかでメディア各社の対応が大きく分かれた。

男子学生の死亡が確認された段階で実名の報道に踏み切ったのは,読売新聞と日本テレビ,テレビ朝日の3社である。両テレビ局は当日の夕方のニュースで,読売新聞は翌8日の朝刊で,それぞれ実名と顔写真で男子学生の死と事件との関連を伝えた。また雑誌では『週刊新潮』が,遺体見前に男子学生の実名を挙げ,顔写真を掲載した。

少年法第六十一条には,「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については,氏名,年齢,職業,住居,容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」とある。

実名に切り替えた理由について読売新聞は,記事の「おことわり」の欄で,「容疑者が死亡し,少年の更生を図る見地で氏名等の記事掲載を禁じている少年法の規定の対象外となったと判断したことに加え,事件の凶悪さや19歳という年齢などを考慮し」と説明している。

一方,ほかの新聞,テレビ局は死亡確認後も匿名を続けたが,このうち毎日新聞は,今回の各社の対応を取材した記事の中で,毎日新聞の見解として,「以前から報道指針として,少年事件は匿名を原則としていますが,新たな犯罪が予測されるときや社会的利益の擁護が強く優先するときなどは実名で報道することもあると定めています。今回の事件はこの例にあたらないと判断しました」と説明した。

また日本弁護士連合会は,「死亡したとはいえども,少年法六十一条の精神は尊重されるべきであり,例外的に実名報道しなければならない社会的な利益も存在しない」という内容の会長談話を発表し,今回の実名報道を批判した。

一方,杉浦正健法相は9月19日の会見で,「今回の報道を総合的に考慮した結果,直ちに違法な人権侵害と判断することは困難」として,報道機関に是正などを求める勧告は行わない考えを示した。

この問題は,9月末山形市で開かれた「マスコミ倫理懇談会の全国大会でも取り上げられ,新聞・放送・雑誌の報道担当者らが意見を交わした。この中では,「事件報道は実名が原則で,少年法は例外のひとつ。それは少年の保護育成のためであり,今回の場合は,少年が自殺したのだからその機会は失われた」「匿名社会の流れが強まっている中で,実名報道をしばるのは報道の自由の立場からも最小限にしたい」「少年の自殺で,釈明の機会は失われた。凶悪事件ではあるが,歴史的事件かというとそれは違うし,実名にする積極的な理由がない」「あと数か月で20歳と言い出すと,少年法の年齢の線引きをそもそも考え直さなければならなくなる」など様々意見が出された。

塩田幸司