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取材源秘匿めぐり3 つの司法判断東京地裁,「秘匿認めず」の決定も

アメリカの健康食品会社が起こした訴訟に絡む嘱託証人尋問で,日本の報道記者3 人が,それぞれ取材源を明らかにすることを拒否している。これに対し3 月から4 月にかけ,東京地裁,東京高裁で3 つの司法判断が示された。東京高裁は,取材源秘匿を認める決定をした。しかし下級審の東京地裁では,認める決定と認めない決定の2 つが出され,司法判断が分かれた。

発端の記事と経緯

1997年10月,読売新聞,NHK,共同通信は,日米税務当局による税務調査で,アメリカの健康食品会社の日本法人が,77億円あまりの所得隠しをしていたことがわかり,日米当局が追徴課税を行ったと報じた。

この報道のあと,アメリカの健康食品会社が,税務当局と話し合った結果,追徴課税は大幅に減額されることになった。このため会社側は,アメリカの税務当局が,間違った内容を含む情報を日本の税務当局に伝えたため,日本のメディアで報道され,損害を被ったとして,アメリカ政府を相手どって損害賠償の訴えを起こした。アメリカ側は,日米司法共助に基づく嘱託証人尋問で,日本の報道機関の記者に取材源を明らかにするよう求めた。

東京地裁の決定(3 月14 日)

東京地裁での嘱託尋問で,読売新聞記者は「取材源の秘匿はジャーナリズムの鉄則」として証言を拒否した。これに対し東京地裁の藤下健裁判官は「取材源が国税庁の職員だった場合,守秘義務を定めた国家公務員法違反になる。証言拒否は,犯罪行為の隠ぺいに加担することになり許されない」として取材源の秘匿を認めなかった。さらに「取材源を公表して,公務員の協力が得られなくなったとしても,法秩序の観点からは,むしろ歓迎すべきことだ」とする判断を示した。読売新聞社は「特異な判断であり,報道を制約し,国民の知る権利を損なうものだ」として,東京高裁に即時抗告した。

東京高裁の決定(3 月17 日)

一方NHK 記者は,既に去年10月,新潟地裁(記者の転勤先)で証言を拒否し,新潟地裁はこれを正当と認める決定をした。しかしアメリカの食品会社側が即時抗告し,東京高裁に持ち込まれていた。東京高裁の雛形要松裁判長は「取材源が守られなければ,その後の取材活動ができなくなる。取材源は“職業の秘密”で原則として証言を拒否できる」「仮に取材相手が公務員であっても,手段や方法に問題がなければ正当な業務である」とし,新潟地裁の決定を支持し,記者の取材源秘匿を認めた。食品会社側はこの決定を不服として最高裁に特別抗告した。

東京地裁の決定(4 月24 日)

共同通信の記者に対する尋問で,東京地裁の長谷部幸弥裁判官は「取材源は証言を拒否できる“職業の秘密”に当たる」と東京高裁と同じ判断を示した。しかし取材源の数など取材源の特定につながらない質問は,証言拒否できないとした。

日本新聞協会と民放連は,「秘匿を認めない」とする3月14日の地裁の決定に対し,3月17日緊急共同声明を出し「公務員への情報提供の働きかけは,1978年の最高裁判例でも認められている。この決定は到底容認できない」と抗議した。

太田昌宏